6話 二人は電話でドキドキしちゃいます
勉強会から約一週間が経過し明日から数日間は定期テスト。
時刻は夜の九時過ぎ……学校から帰ってきてかなり勉強していたらしい。
関口は伸びをして少し休憩しようとしていた。
「さすがに疲れたなぁ~……もうこんな時間か……」
気にならなかった時計の音が鮮明に聞こえてくる。かなり集中していたのだろうと自分でも自覚する。
椅子から立ち上がり、階段を降りリビングの部屋の扉を開ける。
すぐそばにある台所の冷蔵庫が目的地だったのだが……当然そんな簡単にいくはずもなく……
「お、勉強は終わったの?」
「うん、今は休憩」
「そっか……かなり集中してたんじゃない?お母さんのご飯って声聞こえてなかったでしょ」
「全く聞こえてなかったわ。あとで温めて食べる」
「明日お母さんに謝った方がいいよ?プンプンしながら寝室に向かっていったから」
「おん……そうする。んで、姉さんは何をしてんの?」
「なにって、アイス食ってんだけど?」
「見りゃわかるよ。何でここにいんのってことだよ。自分の部屋があるだろ」
関口弟が来るのを待っていたかのようなせりふ回し。
タオルを頭に巻き、いかにもお風呂上りって感じの状態でアイスを貪り食っている姉。
関口 芽衣……三つ上の姉で今は大学生をしている。
そんな姉は弟の質問に鼻をフフンと鳴らし、食べ終わったアイスの木の棒を祐介に向けながら言葉を放つ。
「あんた!今恋愛してるでしょ!」
「……はぁ?」
わけわからないことを言い始めるのは今に始まったことではないが、弟の祐介は目をぱちくりさせる。
尚も姉の芽衣は腕を組み、自信満々に話を続けていた。
「あんた、お姉ちゃんを甘く見ない方がいいわよ?なんてったってあたしは恋愛マスターなんだからね!」
「別にかっこよくないですよ?」
キランっと効果音が鳴りそうなしぐさをジト目で見つめ、大した話じゃないと分かった祐介は冷蔵庫から水を取り出しコップに注ぐ。
水がコップの七割を占めた所で止め、それを一気に飲み干す。
その様子をじっと見つめ、姉は微笑した。
「何で笑った?気が散るから早く部屋戻ってくんない?」
「まぁまぁいいじゃないの……毎日顔を合わしてるわけじゃないしさ」
姉はそう言いながら手に持っていたアイスのごみを捨て、ソファに座り込んだ。
「あんたが楽しそうにしてるならそれでいいのよ……お母さんも言ってたよ?高校に入ってからのあんたはすごく楽しそうだって」
「まぁ……確かに楽しいけど」
(そんなに心配することなのか?)
軽く小首をかしげる祐介。それを見透かすように芽衣が口を開いた。
「心配するに決まってんでしょ?家族なんだから」
「そりゃどうも」
祐介はそう言葉を返しながらコップを洗い、自分の部屋に戻ろうと扉を開けようとする。
「それで、好きな人いるの?」
「黙ってくれ」
その言葉だけを残し、祐介は気持ち強めに扉を閉める。
体をビクッとさせながらも苦笑し、少し安心したように芽衣は言葉をこぼした。
「楽しそうで何よりね……」
と、言うまではよかったのだが……可愛かった弟が思春期のような態度を取られ、好きな人を教えてもらえなかった苛立ちが込み上げ頬を膨らませる。
「お姉ちゃんくらいには好きな人教えてくれてもよくない?」
◇
部屋に戻ってきた祐介。扉を閉めすぐに椅子に座ることはなく扉に背を預けていた。
「好きな人なんかいるわけないじゃん」
そう言いながらも脳裏に浮かぶのは雪河朱音の姿……何よりも二人で話しているときの楽しそうな顔だった。
「……ッ」
頬を赤らめる祐介だが、それを否定するように強く顔を振った。
(いやいやいや……違うから!雪河さんは好きとかそういうのじゃないから!)
心の中で必死に言い訳を並べる自分。
数分が経過し自分が何をしているのだろうと我に返り、椅子に座る。
時計を見てもう少しだけ勉強するか寝るか悩んでいた。
「まぁ明日からテストだし……寝るのが吉か」
そう判断した途端、急激な眠気が襲ってくる。
体の力が一気に抜けた証拠なのだろう。歯磨きを済ませ、そのままベッドに転がろうとした直後……形態が鳴り響く。
「ん?……電話?いったい誰からだ?」
少し警戒しながら携帯をとり、名前を見て驚愕した。
「雪河さん!?」
どうしてこのタイミングでかけてくるんだと思考してしまう。
連絡先は入学して少しの段階でもらったが電話なんてしたことがない。軽い連絡をちょくちょくやりとりしていたぐらいだ。
最近仲は良くなってきてるとは思うが、変に思い上がるのはしないようにと気を付けていた所。
放置し続けるのも相手に悪いので、深呼吸をしてから応答する祐介。
「もしもし?」
『あ、えっと……こんばんは関口くん。夜分遅くにごめんね?』
少し声が震えている。気のせいだろうか?
もしかして、俺と同じで緊張を……?
「全然大丈夫だけど、どうした?」
『勉強会の後学校含めてあまり話せてないなぁって思って……もしかして、迷惑だったかな?』
「いいや、全然迷惑なんかじゃないよ。少し驚きはあるけどこんな時間から雪河さんと話せるのは素直に嬉しいね」
何言ってんだろ、俺……
『ほんと?実は私もなんだ……』
自信なさそうにいう雪河さんの声……いつもは対面で声を聴いているというのもあり、耳元で聞くのはなんか少し、変な感じがするのは気のせいだろうか。
すごい……ドキドキしている自分がいる。
そこで下で姉と話していた時の会話が蘇る。
(絶対姉さんのせいだ……変に意識しちゃうじゃん!)
頭の中でにちゃ~と笑みを浮かべながらピースしてくる姉が浮かび、イライラするが耳元で聞こえてくる雪河さんの声にそのイライラが緩和される。
『明日は試験だけど、勉強の方はどう?』
「まぁぼちぼちって感じかな。雪河さんは?」
『私もいい感じかな?実の所……かなり緊張してるんだ』
まぁ、それはそうだろうな。学年一位だろうと全員が確信している中……そのプレッシャーの中で戦う雪河さんが緊張するのも当然だ。
『別に、関口くんにこれといって用はなかったの……その、緊張を和らげるために声が……聞きたくて……』
どんどん小さくなっていく声に、関口は普通に言葉を返す。
「気持ちは分かるからね。みんなに期待されてるって相当なものだろうし……でも、関係ないよ」
『え?』
「雪河さんは雪河さんを貫けばいい。」
『……そう、だね。うん……確かにそうだ』
少しだけ声色が明るくなったのを感じ取り、関口は安堵する。
『なんかすっごく落ち着いた気がする。ありがとう関口くん』
「俺は何もしてないよ?」
『え~?したよ!これ以上話すのもあれだろうからそろそろ切るね!』
「わかった。それじゃあお休み」
『うん!お休み!』
電話の切れる音が聞こえ、祐介は枕に勢いよくダイブした。
そしてその枕に顔をうずめながら……
「うぉぉぉおおおおお!俺は何をやってんだぁぁぁぁあああ!」
緊張や、雪河と話せる嬉しさで忘れていた自分の発言が鮮明に思い出される。
「何が雪河さんと話せるのは嬉しいね。だ!緊張を和らげるために声が聞きたかった!?マジで勘違いしちゃうからそういうのやめてくれ!」
枕のおかげで声が凄くこもっているのでできるだけ発散した祐介はすぐ我に返る。
「もうマジで……何やってんだろ。俺……」
◇
電話が切れ、同じくベッドの枕に顔をうずめる少女が一人。
「もう!私のバカバカバカ!勢いであんなこと言っちゃって!」
声が聞きたくなって電話したのは本当。緊張で死にそうだったのも本当。
それでも、いやな声色一つせず親身になって話を聞いてくれた彼の優しい声が……今も頭の中で巡っている。
頬を赤らめ、足をバタバタとさせながら声を唸らせる雪河。
(でも……私とこの時間に話せてうれしいって言ってくれたの……すごい嬉しかったな)
今まであったプレッシャーが解け、すごく楽になった気がする。
雪河は軽く笑みを浮かべ、部屋の電気を消した。
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