5話 雪河さんは一緒に帰りたい
それぞれ四人の勉強もほとんど終わり、勉強会が終了しようとしていた。
「こんなもんかな……一通り終わった。伊藤はどうだ?」
「今回もバッチり!関口さんノートありがとうございました!」
ノートを渡され、何も言うことなくそのノートをしまう。
ここで書けるべき言葉はちゃんと授業のノートを写せよとかなんだろうが、もう何度も言った。そのうえでこれなのでもういう事もなくなったという事だ。
「私も漢字ノート終わった~!」
「私も終わり!かぁー!勉強ってすごい疲れる!」
雪河と布瀬は同時に伸びをする。布瀬の隣の伊藤は片づけを始めていて、雪河の隣の関口はちょうど片づけが終わったタイミングだったので、ちらっと横を見ると伸びをしている雪河が視界に入る。
「……!?」
別に何もいかがわしくない。普通の伸びだ。
でも、見た角度がダメだった。
下にあるカバンにノートやワークを入れ、その伸びを少しだけ見上げる形になってしまった。
(なるほど……これが脇チラという奴か……って待て!?)
漫画やアニメでしか起きない脇チライベントに遭遇してしまい浮かれる関口なのだが、もう一つの問題が出来てしまった。
それは、下着が少し……ほんの少しだけ透けていたことだ。
(……水色……)
と、これ以上みるわけにもいかないのでカバンを持ち上げ席を立とうとする。
時間にしたら一秒にも満たないが、とても有意義な時間だったのは確かだ。
この瞬間を忘れることはきっとないだろう。
そう思いながら、帰宅の準備が完了した四人は下駄箱へと向かう。
靴に履き替え、それでは帰ろう。と、そのタイミングで伊藤が口を開く。
「あ、そういえば俺……この後家族と飯行くんだった」
「おいおいまじかよ。勉強会に参加してよかったのか?」
「ん?平気平気、時間はこの後だし……このまま飯屋に向かえばいいだけだから」
考えてるのか考えてないのか……関口は苦笑しながらも伊藤を見送った。
そこで、次は布瀬が唇に手を当て「そういえば」と続ける。
「そういえば私も帰ってみたいテレビあるんだった。私も先帰るね!今日はありがとう!定期テスト頑張ろうね!」
「また明日ね~!」
「また明日……」
布瀬に関しては本当か?と少し疑ったが、変に疑っても仕方ないので軽く手を振って見送った。
そして残った二人。
「二人に……なっちゃったね」
「うん……俺達も帰るか」
「そうだね」
髪をくるくると人差し指で回しながらどことなく恥ずかしそうにしている雪河。その様子を不思議そうに見て、一歩進んだところで……
「あの!」
「?」
いつもより少し大きめの声で呼び止められ、咄嗟に振り返る。
夕日のせいなのか、頬が少しだけ赤く見える。
雪河は視線をあちこちに飛ばし、最後に関口を見て言った。
「途中まで……一緒に帰らない?」
「え?最初からそのつもりだけど」
「……!?」
至極当然のように言う関口……雪河はこの時明確に頬を赤らめた。
(え?どういうこと?最初からって……)
考えれば考える程嬉しさが込み上げてきて耳がものすごい熱くなってきている。
こんなの……意識しちゃうにきまってるじゃん。
(はっず……んだこれ)
元々四人で帰る流れだったのでそれが二人になれば当然……と思っていたのだが、今考えると少し図々しかったんじゃないかと思ってしまう。
そう言う恥ずかしさが込み上げてきて何とも言えない気持ちになっていた。
「そ、それじゃあ行こうか」
雪河がそういい歩き出したところで関口も歩を進める。
そこからしばらく、互いに沈黙が続いた。
単純に何を話せばいいのかわからなかった……というのもあるが、一番はこの現状が非現実的すぎて浮かれていた。
それは雪河も同じで、視線を落としているがそれは嬉しさや緊張を隠すためのものだった。
(まさか関口くんと二人で帰れるなんて……今日は勉強会開いてよかったな~)
少し前までは二人で開けばよかったと言っていたのにと自分で考えながらもチョロいなぁと考えてしまう。
そんなことを思っていると、関口が話しかけていた。
「雪河さんって……苦手な教科とかないの?」
「苦手な教科?そうだなぁ……強いて言うなら古典かな?」
「古典か……まぁわかるなぁ。あれほんといつ使うんだよって思いながら授業聞いてる」
「ほんとにね!まぁ学ぶ力が鍛えられてるからいいんだけどね~……関口くんは?」
「俺は……そうだな~」
スーッと息を吸いながら空を見上げる関口。
(別にないかもな……)
苦手な教科も好きな教科もないかもしれないと気づく。
古典は?と思うかもしれないが、関口からしたら別に全て意味ある勉強だとは思っていない。
大事なのは理解すること。それだけ。大人はみんな口をそろえて言う。勉強なんて何の役にも立たないと。でもそのくせ勉強しておけばよかったという大人もたくさんいる。
きっと勉強しておけばよかったという大人は今の自分だったら勉強ができる。あるいはいい職につけなかった大人だ。
けれど、いい職に就いている大人がそういう所を見たことがない。それはイコール勉強が出来た。もっと砕くと理解するのが上手かった。
もちろん将来役立つ勉強もあるかもしれないが、大半は今話した持論が関口の考えだ。
数秒悩んだが答えが出ず……雪河はその様子を見て口を開く。
「関口くんってさ、ほんとは私や皆が思ってるより勉強できる人なんじゃない?」
「ん~どうだろう。分かんないや」
「じゃあここで私がいい提案をしてあげよう!」
人差し指をピンと立てながら可愛らしいにっこりした表情で提案する雪河。
「今回の期末テスト……私と勝負しない?」
「勝負?」
「そう!あれだったら五教化中のどれか一つでもいいし!」
「いいけど……さすがに学年一位の雪河さんに勝てないと思うけど」
「それは入試の話でしょ?高校になったら別だよ。今回のテストが入学してから初めてなんだし!ね?」
言っていることは分かる。
入試成績トップで入ってきた人。ましてや入学してから一か月と少ししか経っていないのに学年だけでなく学校の人気者になっている。全員が学年一位と信じ切っているが、その中で闘志を燃やし勉強を頑張っている生徒もいる。
この定期テストだけじゃなく、これから先でも言えることだ。
関口は顔を覗き込んでお願いする雪河を見る。
(まぁ断る理由もないし……別にいいか)
「いいよ。それじゃあ雪河さんの得意科目でやろうか」
「そんな余裕でいいのかな~?」
「それか、互いの得意科目で勝負ってのもいいけど」
「それいいね!私数学!関口くんは?」
「俺も……数学」
この会話の中ずっと得意な科目と苦手な科目について考えていた。
やはり、苦手な科目は思いつかず……特異な科目は強いて言うなら数学だった。理由は単純で計算が楽しい。それだけだった。
「なるほど……同じね。うん!それじゃあ数学にしようか!」
「どうする?罰ゲームとかつけとく?」
どさくさに紛れてとんでもない提案をする関口。断られるかと思ったが……
「いいよ。絶対に負けないんだから!」
なんと即答。
「罰ゲーム内容は、勝った人のいう事を何でも聞く!ってのはどう?」
「いいよ、それで行こう」
そうこうしているうちに分かれ道に来てしまい、そこで二人は分かれることになってしまう。
「それじゃあ、私はこっちだから!試験、楽しみにしてるね!」
「うん、それじゃあまた明日」
「また明日!」
後ろ姿でもわかる。かなりのルンルンでその場から離れる雪河を見て、関口は自然と言葉をこぼしてしまう。
「可愛いな」
今までは照れても頑張って隠していた雪河。今日の出来事すべてが蓄積し、さすがに嬉しさが隠しきれていない。
しかし、学年一位筆頭の雪河と勝負をすることになった。
「得意科目って言ったけど……これは他のテストもある程度の点とっとかないとなぁ」
頭をポリポリと掻きながら少し気怠そうに歩を進める関口。しかし……関口も同様、かなり嬉しさが増してきていた。
「クソ久しぶりに頑張ってみますか!」
こうして二人はとんでもない罰ゲームを賭けて勉強をもっと頑張るのであった。
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