4話 付き合う前が楽しかったとか、そういうの
紅い夕焼けが、関口と雪河を照らす。
二人はゆっくりと落ちていく夕日を眺めているだけだった。
(やっぱり……さっきの布瀬さんのこと怒ってるのかな……)
横目で雪河を見るとそんな感じはしない。今になって申し訳なさが込み上げてきていた。
(関口くんと二人で勉強会開けばよかったな。別に、絵美里がうらやましいとかじゃなくてね!)
雪河は自分の心の中で会話をしていた。
絵美里に対して怒っているわけじゃない。少しの嫉妬と、四人だと話しかけずらいというか……話す空気にもならないのが残念ってだけで……決してこの勉強会を開いたのが嫌だというわけではない。
しばらくの沈黙が続いたのち、二人は同時に口を開く。
「「あの……」」
これまたものすごく綺麗にハモったので二人は申し訳なさそうに会話を譲った。
「どうぞどうぞ」と数回繰り返し、このままではらちが明かないと悟った関口は折れながらも先に話すと決心付け、軽く深呼吸をする。
「その……さっきのことなんだけど……」
申し訳なさそうに綴った関口に対し、雪河はビクッと体が跳ねる。
「ごめんね?」
「え?」
「その……雪河さんが隣にいたのに、余計なことしちゃって」
「え?」
「え……?」
口をポカンとあけながら、同じ言葉を発する雪河。関口もまさかの反応に口をポカンとさせる。
いや、まさかというのは雪河の方だ。
まさか、布瀬の事で謝られると思ってなかった。
関口は慌てながらも弁明する。
「その、雪河さんは漢字ノートしてたし……同じ科目をやってた俺がやった方がいいかなって思って、その……」
弁明しても変わらない雪河の表情。目はきょとんとしており、口はポカンと開いている。
「ふふっ……」
「え?」
途端に笑いだす雪河、関口は戸惑いながらも怒っていないと分かり少し安心する。
「全然気にしてないよ!教えてもらってた絵美里が少し羨ましいなって思っただけ!」
「はい?」
思いがけない言葉が関口の耳を通過し、理解するのに数秒かかった。
おまけに自分でも意味の分からない声が出てしまい、少し恥ずかしくなっていた。
(羨ましい?何が?いや、はい?)
心の中で雪河が言っていたことを復唱するがやはりよくわからない。
「俺が雪河さんに勉強教えることはないでしょ……頭いいんだし」
「ん~?そういう事じゃないけど、そういうことにしとくね」
「?」
(気づかなくていいんだよ。これはただの私の我儘なんだから)
雪河はベンチから立ち上がり、軽く伸びをする。
「そろそろ行こっか!遅くなりすぎてもよくないし!」
「それもそうだね」
そして二人は買った飲み物を両手で持ち、教室へと向かった。
◇
一方そのころ、残された二人……伊藤と布瀬。この二人が残って何もないはずがなく……
関口が飲み物を買いに行ったことにより休憩時間になった今、当然……二人は勉強の手を止めていた。
伊藤はスマホを取り出し動画を見てる。布瀬は自分の爪の手入れをしていた。
ここで意外にも、布瀬が伊藤に話しかける。
「ねぇ、関口ってものすごく頭いいでしょ?」
「……」
「答えなさいよ」
徐々に語気が強くなっていく布瀬。伊藤は見ていた動画を止め、軽く頭を掻きながら小声で口を開く。
「(余計なことは言うなって止められてんだよ)」
「は!?何!?小声で悪口言った!?」
「言ってねーよ!」
伊藤はそう言い、視線を逸らしながら言った。
「あいつに口止めされてっから詳しくは言えねーけど、頭いいよ」
「ふ~ん」
四人で勉強していた時に伊藤が言っていた化け物、そして今の立ち振る舞いを見て布瀬はそれ以上は聞かなかった。
「私はさ、関口と朱音。お似合いだと思うけどあんたはどう思ってるの?」
「何急に、怖いんだけど」
「いいから!答えなさいよ」
これは答えを間違えたら殺される奴なのでは?とそんなことを考えながらも伊藤は頭の後ろで手を組んで答える。
「お似合いだと思うよ。早く付き合っちゃえよって思うくらいには仲がいいし、今も多分二人でいるんだろうよ」
「やっぱあんたもそう思うわよね」
「でもさ、俺達が変に早く付き合えっていうのも違うと思うんだよな」
「……?」
伊藤らしくない言葉を聞き、布瀬は眉をひくつかせて軽く引く。伊藤はその様子を視界に捉えながらもそのことに言及することなく話を続ける。
「よく言うじゃん?付き合ったらなんか違うとか、付き合う前の時間が楽しかったとか……祐介の事は小学校から知ってるから言えるけど、多分『今』を楽しんでると思うんだよな」
「……なるほどね」
布瀬は伊藤の言葉に納得した。
今伊藤が言っていた言葉は布瀬からしてみれば言い訳にしか聞こえない。でも、その今この瞬間を楽しんでいるという点においてすごく納得できた。きっと、雪河も同じなんだと思ったからだ。
(康彦のわりにはやんじゃん)
ここで少しだけ、伊藤に対しての好感度がアップした。
「思うのは勝手だけど、お願いされたわけじゃねーのに変に付き合わせようとするのは違うって話」
「意外ね。女たらしのあんたからそんな言葉を聞けるとは思わなかったわ」
「お前は俺を何だと思ってんだ」
「女たらし」
「そーだよ!女の子大好きだよ!悪いか!?」
この瞬間、好感度が少し下がってプラマイゼロになった。いや、少しマイナスかも。
ぎゃーぎゃーと言い合っているところで、二人が帰ってきた。
「おい聞いてくれよ関口~!」
「はいはい、よかったね~……ほれ、コーラ」
「お、サンキュー!」
伊藤のダル絡みをいなし、コーラを渡す。プシュッという音が響き炭酸がのどを通る。
「ちょっとぬるいな……」
キンキンの時のコーラは格別だ。それは伊藤が一番わかっている。それなのに少しだけぬるくてかなり萎えてしまった。
「そのことについては……ほんとに悪いと思ってる」
関口は申し訳なさそうにいい、伊藤は「買ってきてもらったし」といいながらそれ以上いう事はなかった。
「はい、絵美里のイチゴミルク」
「ありがと!」
嬉しそうに飲み口を開けて飲む。こちらもどうよう……
「ぬる……」
「ハハハ……ごめんね」
伊藤と同じ反応が起こっていた。
気を取り直し、勉強会が再スタート。
雪河からの提案により席替えが行われた。
紙に一と二の数字が書かれ、同じ数字の人が隣になるという仕組みだ。
そして隣同士になったのが関口と雪河。そして布瀬と伊藤だ。
「なんで私があんたと隣なのよ!」
「仕方ねーだろ?くじで決まったんだから」
やいのやいのと言う二人とは一変。前に座っている二人は少し気恥ずかしそうにしている。
(雪河さんと隣だ……なんかすっげぇ緊張するんだけど!)
(やった!関口くんと隣だ!うれしうれし!ふふん)
語尾にふふんとついてしまう程に嬉しがっているのに、態度では出さないように必死で隠し二人は気持ち少しだけ離れていた。
((こいつらまじ……早く付き合えばいいのに))
それを見ていた二人は、心の中でそう呟くのだった。
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