30話 体育祭最後の種目、男子四百メートルリレー
「さぁ!体育祭も大詰め!最終種目男子四百メートルリレーの時間がやってまいりました」
アナウンスが流れるのと同時に二人三脚の時のような熱狂が学校全体を包む。
色々な目玉はあったものの、やはりこの種目は全校生徒、全教師が注目する種目。
学年で戦うので全三回。最初に戦う学年は一年生……関口、伊藤、無城、蒼井だ。
「よし、行こうぜ!お前ら!」
「元気がいいなお前は」
「障害物リレーの悔しさを全部ぶつける」
「……頑張っちゃうぞ」
そう言いながら四人が立ち上がり、クラスのみんなは「頑張って来いよ!」と声を掛ける。
関口が立ち、この場を離れようとしたとき斜め後ろから声が聞こえる。
「関口くん!」
「ん?」
「その、頑張ってね!応援してるから!」
「ありがとう!ちょっと勝ってくるわ」
「……ッ」
いつも通りのはずなのに、勝ってくるわとかいうかっこいい言葉を聞いてその顔まで見てしまえば雪河は当然きゅんとさせてしまう。
(何で関口くんは平然とそんなことが言えちゃうの!ってなんで私もこんなんでドキドキして顔赤くしてるの!)
「……うぅー……」
関口たちが指定場所に向かうのを見ながら悶絶するようにうずくまる雪河。
ここで、ふと雪河は一つの疑問に行きついてしまう。
(関口くんは私の事どう思ってるんだろう……嫌いとかではないけど、好きでもないのかな?)
二人で遊んだ中で、よくよく考えてみれば恋人のようなこともしている雪河と関口。
雪河は自分の気持ちに気づいたけれど、関口自身はどうなのだろうか……雪河はそう思考してしまっていた。
しかし、数秒たち……最悪なパターンが頭をよぎり考えるのをやめた。
(もし友達だと思ってたなんて言われたら私……もう立ち直れなくなっちゃう)
そして雪河は軽く頬を叩き視線を上げる。
◇
指定位置についた四人は周りの人たちを見て驚く。
「お~……やっぱどこのクラスも主力を投入するよなぁ」
「そりゃそうでしょ。目玉だよ?ここは勝ちに来るでしょ」
「……でも、俺達も結構強いと思う」
無城の言葉に三人は目を真ん丸にして驚くが伊藤が笑いながら言った。
「ハッハッハ、そうだな!いっちょこの種目のダークホースになろうぜ!」
伊藤がそう言い、右手を前に出す。
蒼井と無城も右手を前に出し関口は小恥ずかしくなりながらも右手を出して合わせる。
よくよく考えてみれば、別に全員他のクラスの主力たちにも負けていないんじゃね?と思う関口。
(伊藤はバスケ部だから言わずもがな、無城も謎に運動神経はいいし、蒼井も帰宅部だけど走るだけならピカイチだし、あれ……これ以外と行けるか?)
慢心してはいけないのは分かってはいるが、練習の事を思い出し気負いする必要はないと判断する関口。その様子を見ていた伊藤が眉を上げながら言う。
「楽しいか?」
「ん?まぁ、楽しいな」
「そりゃよかった」
そうこうしているうちに全員いるかの確認が終わり、走者たちは離れることに。
「それでは第一走者はこちらに、他の走者たちも先生が持ってる木版の所にお願いします」
「お、それじゃあとはバトンを受け渡すときに……だな。蒼井、第一走者は頼んだぞ!」
「任せろ!この走りに全部ぶつけるわ!」
「……またね」
「「「おう!」」」
第一走者は蒼井、二走者目に無城、三走者目が伊藤、アンカーは関口。
関口たち含め全員が定位置に着いた。
そして、先生が爆竹の入ったピストルを取り出し体育祭最後の種目が始まろうとしていた。
第一走者は蒼井というのもあり、クラスや他クラスの人間から黄色い声援が飛び交う。
この最後の種目では自分たちの席で応援することが鉄則としてあげられており、雪河の前の席二つは空きがある。
その席は関口と伊藤が座っていた場所であり、雪河は少し心配した様子でグラウンドを眺める。
すると、横から同じクラスの男女がひそひそと話していた声が耳に入ってくる。
「蒼井と伊藤は分かるけど、無城と関口は大丈夫なん?」
「ね~わかる!なんか他二人はパッとしない感じだよね」
雪河は心の中で舌打ちをする。
言い返してやろうとしたが立場もあるし、何よりも実際に見て驚いてほしかった。
拳を軽く握って我慢しながら視線を再度前に向ける。
(頑張って関口くん!あと他の皆!……皆なら絶対に勝てるから!)
と、それとほとんど同時に空に向けていた爆竹のピストルが発砲され第一走者が走り出す。
見ている人たちはもちろん、実況者もかなりテンションが上がっていた。
「始まりました!最終種目!一年生男子四百メートルリレー!まず出だしは全員順調!十メートル付近で6名全員がほとんど並んでいます!おっとここで最初に前に出てきたのは一組の沢田!見事な追い上げです!」
実況者が言い終わる頃には二組の堀田や他のクラスの人たちも追い上げる。
蒼井は中位にとどまっており、苦戦している様子だった。
(障害物リレーで上位どころか中位も取れなかったんだ……ここで結果を出さないでどうすんだ俺!)
徐々に徐々に追い上げる蒼井……三位まで追い上げ無城バトンを渡す。
「頼んだ!」
「……」
バトンを受け取り、好調な滑り出しの無城。他のクラスの人たちもバトンを受け取り勢いよく走り出す。
まだ一位を走っている一組に全員が負けじと走っている。
無城は三位をキープしたまま走り二位と僅差まで追い込む。
(……よし、一応作戦通りかな)
無城は心の中でそう呟きながら残りを全力で走る。
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男子四百メートルリレーの練習中ん出来事……
バトンの受け渡しもスムーズにでき、残るは作戦だった。
伊藤が難しい顔をしながら言う。
「ひとまずはこれでいいとして、あとは作戦だな」
「……作戦?」
「走るだけなのに作戦っているのか?」
無城と蒼井は困惑した様子で伊藤を見ていた。
伊藤は少し動揺するが、軽く咳ばらいをして話し始める。
「まぁ難しい作戦を立てようってわけじゃないぜ?簡単な話、独走を狙うか足速い奴を後ろにして追い上げるかって話だ」
「そりゃ独走できるなら下号がいいんじゃないの?」
「走る奴が分かってるならな?でも四百メートルリレーは体育祭当日の四百メートルリレーの時にならないと分からないんだよ」
「……なるほど」
伊藤が頑張って説明しているのを蒼井と無城は聞いており二人は関口の方へと視線を向ける。
「なんだよ」
「いや、関口はどう思ってるのかな~って」
「どうって……まぁ俺は独走狙うより相手の出方を窺える後者を選ぶかな?」
「……その心は?」
「俺達が勝つからだ」
「「「おお!」」」
関口の言葉に三人は手を叩きながら歓喜する。
そして順番が決まった。
全員の五十メートル走の早い順。
蒼井、五十メートル走……7.32秒。無城、7.3秒。伊藤……6.9秒。関口、7.43秒。
あれ?どうして一番遅いはずの関口がアンカーをしているんだと思った君たち。これには深い理由がある。
それは伊藤の熱い熱弁によって無理やり決められたことだ。数十分に及ぶ熱弁を要約するとこうだ。
「こいつは中学の時はやばかったから信用してくれ」とのこと。
関口は別にいいと言っていたのだが他二人は伊藤がそこまで言うならという事でこうなってしまったのだ。
別に隠しているわけでもないので後で伊藤を叱るという事はしないが、こうなってしまえば関口は夜遅くまでランニングしたりトレーニングしたりして本番まで調整していたという事だ。
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二位とほぼ並んだ状態でバトンを渡す無城。
受け取ったすぐ、今走った人達の中では断トツの速さで走る伊藤。
さすがバスケ部。さすが伊藤。
いつも無表情な無城が驚いていた。
「……すごい」
二位とほぼ並んでいたが伊藤に代わってからは難なく追い抜き一位の生徒にどんどん近づいていく。
これには周りの生徒たちも声を上げ、実況も盛り上がっていた。
「すごい!すごいぞ!これがバスケ部の意地という奴なのか!伊藤康彦!早すぎるぞ!」
「あいつ……やべぇ」
「とんでもねぇ速さしてるぞ……」
他クラスの人たちも唖然と伊藤の走りを見ていた。
同じクラスの人たちは当然大盛り上がりでお祭り状態だった。
雪河も全力で応援しており、それに応えるように伊藤は更に加速する。違うクラスのはずの布瀬までもが伊藤を応援しそうになるくらいにはやばかったらしい。
しかし、ここまで順調に見えたが70メートルを超えたあたりでアクシデントが起きてしまう。
「……しまっ」
ここで伊藤が転倒するというとんでもないことが起きてしまった。
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