28話 関口くん、私を信じてください
関口は唖然としていた。
二人三脚での勝負を断れば借り物競争のお題をばらすという生徒会長らしくない言葉を聞いたこと。
そして雪河はその勝負に受けたこと……何か言いふらされたくないことがあるのか、それでもらしくない二人の姿を見て関口は驚愕していた。
しかし、それ以外の事……負ければ関口が生徒会に入らないといけないという謎の勝負が始まること……出会って数分もしないうちに情報量が多すぎる。
(生徒会長は俺じゃなく雪河さんが欲しいんじゃないのか?どうして雪河さんを煽る行為をしたんだ?借り物競争のお題は結局何だったんだ……いや、そうじゃねぇだろうが!)
自分で自分にツッコミをするという謎行動をしながらもやはり生徒会長の意図が分からない関口。
それは雪河も同じでどうしてなのかさっぱり状態だった。
(なんでわざわざ生徒会長は関口くんを使おうとした?本当は私じゃなくて関口くんが目的だった?それとも――――)
もしかしたら雪河の関口に対する思いに気づいて、それを利用しているのではないか……雪河はそう考えていた。
決め手となったのはやはり借り物競争のお題。
これを出されてしまえば勝負を降りるという事は出来なかった。しかし……やはりわからない。
白赤は雪河を欲しがっていたはずなのに急に関口を欲しがり、あまつさえ雪河の心情をわかっているかのような勝負の吹っ掛け……一体何を考えているのだろうか。
それは白赤生徒会長にしかわからないことだった。
そして雪河と生徒会長が話しているのを周りの人が見ており、伊藤たちも例外ではなかった。
「雪河さんと白赤生徒会長が何か話してたけど、なんかあったのかな?」
「お互い頑張ろうね的なノリじゃないの?」
「にしては結構ひりついてたくない?」
「……」
全員が軽く首を傾げ思考するも、関口と雪河を応援しようという結論にいたりそこから考えることはなかった。
そうこうしているうちに二人三脚の人たちが入場し、そこに雪河と関口、白赤とそのペアがいた。
「お、来たぞ!」
どちらかが出ているだけで注目されるというのに、そのどちらもが出ているとなればその熱狂は必然。
学校全体が揺れる程の熱狂が関口と白赤ペアを襲い、二人とも胃が痛くなる。
((……やりづれぇ……))
しかし、その隣にいる雪河や白赤はその熱狂に埋もれることはなく自分自身の事を考え集中していた。
その光景を見て関口は軽く感心する。
(すげぇな……こういうのには慣れてるとはいえ逆に緊張しないのは素直に尊敬する)
が、雪河の心境はとんでもないことになっていた。
(負けたらお題バラされるやばい、でも今から関口くんに触れないといけないやばい、どうしよう負けたら関口くんがとられちゃう。やばい。)
気が気じゃなかった。
それでも、これを解決できることが一つある。
それはもう雪河自身自覚していた。ゆっくりと深呼吸をし呼吸を整える。
(勝つ!絶対に!)
今まで以上に真剣な表情になり、隣にいる関口も気づいていた。
そう。勝てばいいのだ。勝てば何の問題もない。
そして数ペア挟んだ先にいる白赤会長。何かを企んでいるような表情をしていたが真意はやはり会長本人しかわからない。
順番が回ってきて、次は白赤ペアと雪河ペアが走る番になった。
紐を互いの足に結ぶ。その途中……雪河は関口に真摯に告げる。
「関口くん」
「……?」
「私の事信じて」
「わかった」
それ以上、二人が言葉を交わすことはなかった。というより、かわす必要がなかったという方が正しいのかもしれない。
関口は雪河が今まで以上に真剣になっているというのは感じ取っていたし、会長と雪河の間で負けられない戦いになっているというのもあり、本気になる理由は十分に理解しているつもりだった。
唯一練習では不可能な事……観客の数になれることだったがそれももう不要だろう。変に意識するだけ無駄という奴だ。
関口はそれらを全て理解したうえで「わかった」と返していた。
先生が開始の合図を鳴らし、全員が走り出す。
「順調な滑り出し!白赤ペアと雪河ペアは並んでいます!ですがわずかに白赤ペアがリードか!」
熱狂は観客の人はおろか、アナウンス担当兼実況の人も大盛り上がり。
伊藤や布瀬も大声で応援をするが雪河と関口には届いていなかった。
それほど集中していたというのもあるが、一番は熱狂的すぎてほとんど叫び声にしか聞こえない。
ペアである関口はというと今までにない力ある速さに驚愕していた。
(練習ではこんなに早く走れなかったのに、めっちゃ早い……)
横をちらっとみると雪河の頬は若干赤くなっていたが表情全体が見えたわけではなかったので関口は気にすることなく雪河に合わせるように走る。
メートル単位で進んでいくにつれて徐々にスピードが出て再度雪河と白赤は並ぶが、並んだ直後雪河と関口はまた離されてしまう。
「「……ッ」」
当たり前かもしれえないが白赤生徒会長たちも速く、練習を積んだのだとすぐわかった。
(こんなんじゃだめだ……このままじゃ関口くんがとられちゃう!それだけは絶対にいやだ!)
思いが先走ってしまいこけそうになるが関口はすぐに反応し見事に立て直す。
一瞬減速してしまうがまたすぐに追いつき、再び会長と並ぶ。
スタートしてから現在に至るまで二人は互いの横腹に手をがっつりと置き伊藤たちは驚愕。周りの生徒たちからは羨ましいという声が相次いでいた。
しかし、当然のごとく関口はそんなことを聞いている余裕などない。今まで練習ではしてこなかったことをこなす雪河に驚きながらも合わせるのに精一杯でそれどころではないのだ。
そして雪河も同様、周りの声などもちろん隣にいる関口の事を見る余裕、配慮している余裕などない。今彼女にあるのは負けたくないという事だけ。
一方で並ばれた生徒会長は余裕があるようで一瞬にやりと笑みを浮かべる。
(やっぱり……そういうことなのね。それが分かっただけで十分)
心の中でそう独り言つと一気に雪河と関口を離しそのまま独走して一位を取る。
続いて二位に雪河と関口ペア。他の者たちもゴールしていく姿を伊藤たちは唖然と見ていただけだった。
負けた。
心にぽっかりと穴が開いたような感覚を雪河は感じていた。
抜かれた瞬間、あまりにも一瞬の出来事すぎて何が起きたのか正直言ってわかっていなかった。
二人三脚は五十メートルというのもあり勝負は一瞬でついてしまう。
それでもやはり、あの時必死に走っていた感覚は今も尚確かに感じる。
「……」
雪河は歯ぎしりをしながら拳を握りしめる。
関口は声を掛けることはできなかった。
それでも、まだ互いの足には紐が巻き付けられている。外さないといけないのに、外したくない。
外してしまえば、きっと……雪河と今日話せないかもしれないと考えてしまったからだ。
重い空気が流れる中、関口は固唾を呑み込み雪河に話しかける。
「……雪河さん」
そう声掛けした時だった。
雪河が反応して横を向く直後、後ろから白赤生徒会長がほとんど同時に話しかけてきていた。
「雪河朱音さん」
「……生徒会長」
「見事な走りでしたわ」
「ありがとうございます……」
生徒会長が勝負でも、試合でも勝ったのに雪河達の事を称賛する言葉をかけ雪河は少し気まずそうに言った。
はたから見ればいいライバルだと、いい関係だというのだろうが今の雪河からしてみれば侮辱と何も変わらなかった。
生徒会長は軽く眉を上げながら話す。
「あなたはわたくしの勝負を受け負けた。約束は覚えていますわよね?」
「……はい」
肩を落とし、視線を落とす雪河を見て生徒会長は近づきながら一言。
「あれは嘘なので気にする必要はないですよ」
「……は?嘘?」
「ええ、一度雪河さんと何でもいいので本気で戦いたかったんですのよ」
「「……」」
肩を竦めながらも両手を合わせて「ごめんね」と言いたげな表情を見るなり雪河は少しほっとしたような、でもやはり全てを見透かされていたんだと理解して変な気持ちになっていた。
そして生徒会長は関口の方へと視線を向けて謝罪する。
「ごめんなさい。関口さん。あなたの事を利用するようなことをしてしまって……ですがご安心してください。雪河さんの許可なくあなたを生徒会にいれるという事はしないので」
「……はぁ」
何を言われているのかわからない関口はとりあえず反応を見せるだけして返していた。
しかし、これで関口が生徒会に行くという面倒なことにならなくてよかったと関口本人は安堵するが……横を見ると納得いってないような表情をしている雪河を見て困惑する。
「どうしたの?雪河さん」
「……何もない!けど、悔しい!」
(結局、いいように使われただけだったし!借り物競争のお題からも関口くんの事が好きだって事はもうバレちゃったし……これからもこういう戦いがあってもおかしくはない……)
雪河が「ぐぬぬ」としながら思考していると去り際に白赤生徒会長が言う。
「安心してください雪河さん。もうこういう手は使わないので」
「……ッ」
やはり、全てを見透かされていたらしい。
掴みどころがない生徒会長を見ながら雪河と関口は自分の観客席に戻ったのだった。
その後、雪河は布瀬に泣きついた。
感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます




