27話 生徒会長は雪河さんを手に入れたい
一目見た時から……私は彼女に一目ぼれをした。
恋愛的にではない。ただ手中に収めたい。そう思ったのだ。
菫色の長い髪に、サファイアのように青く輝く瞳。成績優秀で学校の人気もある彼女……誰もが魅了される彼女を私は欲しいと思った。
自分の容姿には自信があった白赤 雫だが、一目見た瞬間負けたと思ってしまった。
こんなのは生まれて初めてだ。
出会いは、些細なものだった。
「会長!書類が出来ました。」
「ありがとうございます。そこに置いておいてください」
「わかりました」
確かあの時は、生徒会室での会話だった気がする。
書記の愛沢さんが一年生の話題を出した。
「そういえば、今話題の雪河さん知ってますか?」
「どなたですか?その雪河さんという方は」
「成績優秀で学年ですっごく人気のある方なんですよ!」
「ふ~ん……そうなんですか」
「いつか生徒会に来てくれたりしないかな~!」
私以外の役員はどうやらその雪河さんという一年生の方を知っていたらしく、全員が生徒会の加入を望んでいた。
いつもなら私は適当に流していた。それなのに何故か……本当にこの時だけ何故か流したくなかった。
「それでは、わたくしが直接推薦してきますわ」
「え!?生徒会長自ら!?それはもう加入間違いないじゃないですか!」
私がいくのだからとかそんなものどうでもいい。
この眼で事実かどうかを確かめて推薦せずに帰ってくる。これが私の狙いだった。
みんなが絶賛している雪河朱音という少女を、私は否定するためだけに出向いた。
いわば、嫉妬に近いものかもしれない。
白赤は一年生のフロアに自ら出向き、少しだけ話題になった。
いつもなら返事を返すが白赤は返さず向かった先は雪河のいる教室。
しかし、教室に着く前に……一目見てわかってしまった。
前方から歩いてくる菫色の長い髪に宝石のような青い瞳……みんな、白赤より雪河の事を見ていた。
そして、それは白赤自身もそうだった。
「負けた……」
白赤はそう小さく独り言つ。
すれ違い、互いが互いを意識して視界にいれる。
私はこの時理解した。次の顔はこの人なのだと。白赤が通れば黄色い声援が鳴り響くのが普通だった……しかしそんな常識はこの一年生フロアには通用しなかった。全員が雪河という女子に魅了され、絶大な人気を誇っていた生徒会長でさえもそうだった。
答えは明らかだ。
華奢、可憐……そのどちらも似合う女性に出会ったのは初めてだ。
気が付けば、話しかけることはしずに生徒会室に戻ってしまっていた。
「会長!どうでしたか!?」
「話しかけられませんでした……」
「用事とかでいなかったとか?」
「いえ……違います」
生徒会メンバーは視線を落として肩を竦んでいる会長を見て首を傾げていた。
そして次に発せられる言葉を聞いて、驚愕する。
「美しすぎて……話しかけることができなかったですの」
「「「!?」」」
そして視線を落としていた白赤は顔を上げ、拳を握りそれを空にあげながら話す。
「絶対に!絶対にこの生徒会に入ってもらいますわよ!雪河朱音さん!!」
そう決心した生徒会長だった。
◇
そこからしばらく月日が経ち、白赤と雪河は思わぬ形で言葉を交わすことになる。
白赤が生徒会室に運ぶ荷物を持ち向かっている途中……前方から雪河が来ており白赤は話しかけられる。
「私もお手伝いしましょうか?」
「ありがとうございます……助かりますわ」
荷物のせいで雪河の顔は見えなかった。
が、荷物を半分受け取り顔が見えるようになった直後、白赤は今までにない声を上げながら驚いていた。
「ゆ、雪河さん!?」
「……?私の事知ってるんですか?」
「……ッ」
しまった。やってしまった。前に見に行ったなんて言えない。
変にぼろを出してしまい言い訳を必死に探し、視線を軽く逸らしながら言う。
「あなたは人気ですからね、上級生の間でも話題になってるんですよ?」
「そ、それは少し恥ずかしいですね」
肩を竦めながら答える雪河に、白赤は心の中で確信する。
(やはり、この人は生徒会に入れるべき……わたくしの感がそう言ってますわ)
こうして再開したのはきっと生徒会への加入をするようにと神様が言っている。そうに違いない。
そして、白赤雫の誘いに乗らない人は絶対にいない。そう確信していた白赤生徒会長は荷物を生徒会室に運び、誘うタイミングをうかがっていた。
「そこにおいてくだされば助かります」
「わかりました。ここですね……よいしょっと」
持ってきた荷物を白赤の指示のもと置き、無事に運び終わった二人。
雪河がこの教室から出ようと扉に手を伸ばした直後、後ろから咳払いが聞こえ振り返る。
「ごっほん……雪河さん。あなたにご相談があるのですが、少しお時間よろしいですか?」
「……?いいですけど、どうしましたか?」
今はちょうどお昼時……さらにこれといって慌てる用事もないので雪河は了承する。
(関口くんと話したいけど……生徒会長の話はさすがに聞いておいた方がいいよね)
心の中で関口と話したい気持ちをぐっと堪え、生徒会長の話を聞くと決めた雪河。
白赤は舐められないように、ビシッとした姿勢で人差し指を雪河に向けながら言った。
「あなた!生徒会に入りなさい!」
「……はい?」
急な誘い……しかもそれが生徒会で理解が追い付いてない様子の雪河。
白赤は決まった!という感じのどや顔をしていたので雪河の反応の悪さに困惑する。
「拓斗がわたくしはこうしていればいいって言ってたのに!?」
「……タクト?ん?」
(あ、この人見た目に反して結構天然なのかな?)
弟の拓斗に堂々としていればいいというのを変な方向に鵜呑みにしてしまった白赤。
変な空気が二人の空間を包むが、小首を傾げながら雪河が聞いた。
「生徒会に入るって、どういうことですか?」
「そのままの意味ですよ。あなたは生徒会に入る資格のある人間です。わたくしが推薦すればすぐに加入できますよ。」
生徒会長がそういうと、雪河は少し考える仕草をしながら肩を竦めた。
数秒が経ったのち、真摯な表情になりながら告げる。
「申し訳ありませんが、それはできません」
「……!?どうして————」
「生徒会長の入る資格というのは、人気だからですか?話題に上がっているからですか?」
「……ッ」
「能力がある人間、それを実際に見てほしいと思ったら誘うべきだと私は思います。たかが一度廊下ですれ違い、こうして荷物を運んだだけでは無理だと思いますが……」
「……」
何も言い返すことが出来なかった。
ごもっともな意見だった。
視線を落とし、少し怪訝な表情をしてしまうが今……この瞬間生徒会にいれることは無理なのだろうと理解した。
白赤はすぐに切り替えて、謝罪をする。
「ごめんなさい。確かに急なお誘いでしたね。人気……だけではございません。いつかあなたは生徒会に入ることになるでしょう。それがわたくしの生徒会ではなくとも、あなたを欲しがる人は五万といます。また誘いますが、気が向いたらで結構です」
「……そうですか」
ものすごく大袈裟だなと考えながらも時計の針が動きチャイムが鳴ろうとしていたので一礼だけをして生徒会室を後にする雪河。そして白赤一人になり、チャイムが鳴り響くのと同時に呟く。
「絶対にものにして見せますわ……雪河朱音さん」
そしてそこから何度も生徒会の誘いをする白赤だったが、全て断られてしまう。
何度か生徒会のメンバーに泣きついたとか……
雪河朱音という女子はそれほど魅力的で、誰もが欲しいと思う人材であった。
体育祭の種目、二人三脚で雪河朱音の名前が見えた時……これほどチャンスなものはないと考えていた白赤生徒会長。
「もし、わたくしたちが勝ったらあなたたち二人、生徒会に入りなさい」
「「……はい?」」
とんでもない発言に二人は驚愕する。
「お、俺は無理ですよ。そういうの向いてないですし」
「あら、本当にそうですか?」
何度も出向き何度も断られていくうちに関口祐介という人物がいるというのも知っていた。
そして、雪河はその関口の事が好きなのかもしれないと白赤は考えていた。
これを言うことによって関口が断ることも分かっていたのでそれを理解したうえで再度提案する白赤。
「雪河さん……もしこの勝負にあなたが勝ったら二人ではなくこの関口さんをいただきます。それでどうですか?」
「ど、どうして関口くんが……」
「調べていくうちにわかったんですよ。あなたより関口さんの方が優秀ってね」
「……」
目に見えてわかる挑発だ。
それでも、今の雪河には挑発と取ることはできなかった。
自分の好きな人がとられるかもしれない……そう思った。
「もし……断ったら……」
口ごもりながら雪河がそう言うと、白赤はにやりと笑みを浮かべながら答えた。
「借り物競争のお題をばらします」
「……ッどうして生徒会長がそれを……」
「わたくし達生徒会が借り物競争のお題を書きましたの……どういうお題が来たかはすぐわかりますよ」
それを出されてしまえば、断ることなんてできない。
生徒会長が脅しをと関口は考えるが、いつにもましてガチな顔の雪河を見て固唾を呑み込む。
「わかりました。私が勝ったら二度と……生徒会に誘わないでくださいね」
「お約束しましょう」
こうして雪河にとって負けられない戦いが始まった。
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