26話 この日、私は好きなんだと自覚しました
今日……いや、この瞬間に私は関口祐介くんのことが好きなんだと自覚しました。
考えれば考える程心臓が早くなり、体全体が熱くなるのが分かる。今までなかった感情……これを恋と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。
別に……関口くんが私の事を好きじゃなかったとしても、私のこの思いは変わらないだろう。それでも……あの二人の時間は確かに本物で、私だけのものだった。それがとても嬉しくて、何にも代えられないものだと知っている。
雪河は急ぐわけでもなく、ゆっくりと関口がいる観客席の方へと向かう。
関口は少し怪訝な様子でそれを見ていたが、雪河は構うわけでもなく手を伸ばし名前を呼ぶ。
「関口くん……来てくれる……かな?」
「う、うん……わかった」
関口もその周りにいた人たちも「また関口?」というような表情をしていたが、今まで熟考
していた雪河とは違いすぐこちらへと向かってきたので関口に対して少しだけ視線が集まりつつもゴールを目指す二人。
(さっきまでの雪河さんとは明らかに違う……どうしたんだろう?)
落ち着いているように見えて、すぐに崩れてしまいそうな……そんな感覚。
関口は今までの雪河朱音ではないと気づくことは出来たがそれが何故かまでは分からなかった。
しかし、関口にとって問題はそこではなく……周りの人たちの視線のいたさ、そして二回目は許してくれるのかという懸念だけだった。
関口は掴まれている手首に視線を送りながら雪河に聞く。
「二回目って大丈夫なのかな?」
その関口の問いに、雪河は振り返り笑顔で答える。
「大丈夫だよ!もし大丈夫じゃなくても私は全然平気だから!」
「……ッ」
その、彼女の表情に関口はやられていた。
なんと美しく、何と可愛いのだろう。
危うく触れてしまいそうになるその可憐な仕草、表情はまさに雪河朱音そのものだった。
雪河の答えに関口は何も言えず、肩を竦めて頬を赤らめながら歩を進める。
(……んだよそれ)
「続々とゴールする人たちが現れています!残りは雪河朱音!先程連れていた男子と一緒に最後のゴールをくぐろうとしています!」
雪河以外の人たちはもうゴールしていたのだが、生徒たちは雪河がどうして二回もあの男と一緒にいるのかと気になって仕方がなかった。
そして、雪河と関口はゴールをくぐり……少しだけくしゃくしゃになったお題を見せて先生が関口を見る。
時間にして一秒にも満たなかっただろう。すぐクリアといってくれた。
「クリアしちゃったよ……」
「おめでとう!二人とも!最下位だけどすごく楽しませてもらったよ!」
「ありがとうございます!」
「……ありがとうございます」
先生がにやにやとしながらそういい、雪河と関口も礼だけ言って観客席に戻ろうとしていた。
観客席に戻っている途中、問題が起きないよう実行委員がアナウンスで知らせる。
「借り物競争のお題についてですが、無理やり聞くのはやめてください!ご協力の程よろしくお願いします」
先手を打っておくのはとてもいい手だと思う。
お題の中には言いたくない、隠したいという人がいてもおかしくはない。
そう言うのがきっかけで問題が起きても不思議ではないからな。
しかし、どうしても気になるのは仕方がない事だ。もし本人が言いたくないといえばそれ以上聞かなければいい。
関口の考えはこうだった。
ので、頬をポリポリと掻きながら雪河に聞いた。
「その、言いたくなかったらいいんだけど……お題は何だったの?二回も呼ばれたし……」
「……」
雪河は立ち止まり、視線を落とす。
関口は少し怪訝な表情をしながらその様子を見ていた。
視線を落としてからゆっくりと顔を上げたと思えば視線を逸らしながら毛先をくるくるさせる。
この時点で言いたくないんだろうなと察した関口。しかし、次の瞬間雪河はもじもじとさせながら話していた。
「一個目なら……いいよ?」
「え!ほんと!?」
「う、うん……」
嬉しそうにする関口を見て頬を赤らめながらボソッと言う。
「……最近できた友達」
「……!そうか~そうだったのか!嬉しいなぁ……そう思ってくれてて!」
「当たり前だよ!関口くんは……!」
「?」
「関口くんは……その……」
やばい……今になって自分の気持ちがとてつもなく恥ずかしくなってしまった。
友達だといって嬉しそうにする彼の表情を見て胸の鼓動が早くなっているのがよくわかる。
ものすごく嬉しい。心からそう思ってくれているのだろう。
それを実感すればするほど、関口に対する雪河の思いが大きくなるのも自覚していた。
口ごもる雪河に対して関口は小首をかしげるが、恥ずかしさと気まずさを紛らわすために少し早歩きして観客席の方に向かう。
「ちょ、雪河さん!」
「ん~?別に何でもないよ~!」
「何それ!途中でやめるのは反則じゃん?」
互いに顔を見ているという事はしなかったが、観客席から見ていた伊藤たちはそのやり取りを見てとても微笑ましいなと思っていた。
関口はその雪河のとびきりの笑顔を見ることはできなかった。
「おかえり朱音!楽しかった?」
「うん!すっごく楽しかった!」
「そっか、それならよかったよ」
雪河のどこか吹っ切れたような表情を見て布瀬はなんとなく察する。
席に座り、飲み物を飲む雪河。しばらくの間……心臓の鼓動が弱まることはなかった。
伊藤は戻ってきた関口に何のお題だったかを小声で聞くが、両肩を軽く上げて察する。
「そっか、わかんなかったか……」
「俺も聞けば呼んでくれた理由分かるかな」
蒼井が真剣そうに言うと、無表情な男……無城が口を開く。
「……やめておいた方がいいよ。どんなお題かもわからないし」
「確かに、これで悪口とか書かれてたら俺立ち直れないかも」
「悪口はないと思うけど……まぁ変に聞くのはやめた方がいいかもな」
これもアナウンスのおかげなのか、蒼井が雪河に聞くことはなかった。
きっと聞いても答えてはくれただろうが、雪河はそれどころじゃなかったので忘れている可能性が高い。
そういうのも含めて聞くのをやめておいてよかったといえる。
◇
そこかた十五分休憩が入り、次の種目が知らされる。
「次の種目は二人三脚です。出場する生徒は指定位置に来てください」
アナウンスが入り、伊藤が関口の方へと視線を向ける。
「そろそろ向かうか……雪河さん」
「うん、そうだね!」
少し気まずそうにする雪河を見て関口は不思議そうにするが、今は気にしないようにしようと思い座ってる伊藤たちに軽く手を振り指定位置へと向かった。
「応援しに行くからな!」
「練習の成果見せてやれ!」
「あんたたちならいけるわよ!」
「……頑張れ」
友達からの熱い声援を聞く関口……その隣を歩いている雪河はいつもなら後ろに振り返って手を振っているのにそういう事もせず視線を落としながら歩いている。
(緊張してるのかな?)
否。雪河は別の問題が発生していた……発生というより借り物競争の終盤からのものだ。
(なんで私は借り物競争で気づいちゃったのこの気持ちに!今から関口くんと一緒に二人三脚をするのに……私死んじゃうよ?こんなんじゃ……いいの?ダメだよね?)
心の中で何を言っているのか自分でもわからなくなる雪河。
軽く顔を振り切り替えようとするがすぐ隣には好きな人がいて、その姿が可愛くてかっこよくて切り替えることはできなかった。
しかし、その思いもすぐに消え失せる出来事が発生する。
前方から生徒会長と副会長が雪河達の元へと歩いてきていた。
「まさか二人三脚で一緒に出ることになるなんて思わなかったです。雪河さん」
「生徒会長……」
雪河は生徒会長の事を視界にいれ、緊張感が増す。
関口は「体育祭の開始の挨拶していた人だ」くらいにしか思っていなかったが、雪河とあいさつを交わしたすぐ、関口の方へと視線を向ける。
「初めまして、関口祐介くん……雪河さんとはだいぶ仲がいいみたいですね」
「……仲良くさせてもらってます」
「ふふふ、面白い方ですね。気に入りました」
頭を掻きながら謙虚に挨拶をする関口を見て生徒会長の白赤雫は笑いながら言う。
「もし、わたくしたちが勝ったらあなたたち二人、生徒会に入りなさい」
「「……はい?」」
とんでもない発言に二人は驚愕する。
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