24話 借り物競争で何も起きないはずもなく…… 前編
体育祭午後の部が始まって数個の競技が終了した。
次は我らがアイドル、雪河朱音が出る借り物競争。全校生徒が注目する一大イベントにまで発展していた。
当の本人はそんなことを気にする様子もなく気丈に振る舞っていた。
「それじゃ次は私だから、ちょっと行ってくるね!」
「うん!頑張って雪河さん!」
「応援しに行くからね」
「ありがとう!」
伊藤と関口と離れ、指定位置に向かう雪河。
みんなの前では気丈に振る舞っていたが、内心色々な意味でドキドキだった。
(どどどどうしよう……別に皆に注目されるのはいいんだけど、関口くんがいるってだけでやっぱり緊張しちゃうよぉ。かっこ悪い所は見せれないし、頑張らないと)
雪河は軽く深呼吸して小さくガッツポーズする。
「にしても雪河さんってすごいなぁ……もう応援席パンパンだよ。始まってないのに」
「まぁ応援席じゃなくても見やすい場所はあるし、見つけてもらえるでしょ」
「だな。本人は緊張しないんかね」
伊藤と関口は立ち上がりながら話す。
関口はうすうす気づいていた。雪河が気丈に振る舞っているときは何かを隠す……無理をしている時だって。
「ん~どうだろ。しないことはないと思うけど雪河さんはそれ以上の何かがあると思う」
「それ以上の何かって?」
「それはわかんない」
「なんだそれ」
そう。その正体は分からない。けれど……たとえ緊張していたとしてもその奥にある本音があるような気がした。
(といっても、それが分からないんじゃどうしようもないんだけどな)
関口は頭を掻きながら応援席から少し離れたいわゆる穴場という場所に伊藤と座った。
実行委員がアナウンスで借り物競争の説明を始める。
「それでは次の目玉競技!借り物競争を始めます!軽く説明しますとスタートするときに各々お題が出されます。例えば紙に鉛筆と書かれていればそれを誰かに借りて五十メートル先にいる先生に渡してください。そしてまた新しいお題を受け取る。これを計四回行います。」
アナウンスの説明を聞いて伊藤は納得しながら「楽しみだ!」とノリノリ状態。
関口は雪河を見つけ、雪河は軽く手を振る。
(関口くんだ!しかも結構近い!すごい嬉しい!)
そうこうしているうちに先生からお題が渡される。
スタートの合図が鳴るまでまだ紙は開けることが出来ない。
「これで全員行き渡りましたね!そして今回はなんと!あの雪河朱音さんが借り物競争に出場しています!この体育祭一番の注目競技になりつつあるのは彼女のおかげなのかもしれません!」
「「「おおおおおおおお!雪河さ~ん!」」」
全校生徒が声を上げながら雪河の名前を呼ぶ。
苦笑しながら軽く手を振り、視界に関口を入れては軽く赤面して視線を逸らす。
その動作があまりにも可愛くて周りの人たちは照れているのだと勘違いしてさらに雄叫びを上げる始末。
そして、一通りの準備が終わり借り物競争が始まろうとしていた。
(頑張って……雪河さん)
関口は心の中で応援しながらも汗がにじみ出てきている手を握る。
次の瞬間、先生がスタートの合図を出し借り物競争は始まった。
雪河は渡された紙を広げお題に目を通す。
「えーっと、最初のお題は……髪飾り?」
髪飾りとしか書いてなかったため細かな指定はないと理解する。
各々が走り出し、色んな人にものをねだりに行く。そして雪河も迷わず一人の人物に近づいた。
「ひまちゃん!申し訳ないんだけどその髪飾り貸してくれないかな?すぐ返すから!」
頼った先は隣のクラスである木花ひまりという女の子。
雪河が借り物競争に出ているというのは当然知っているので何の躊躇もなく渡すひまり。
「全然いいよ!借り物競争頑張ってね!」
「ありがとう!」
一番に受け取って先生の元へ向かう雪河。周りで見ている人達はもちろん、実況者も驚愕していた。
「これはすごい早い!雪河朱音一番に向かっていきます!」
正直に言ってしまえば借り物競争は雪河にとってはイージーなゲームかもしれない。
知り合いも多く人気者の彼女。そんな彼女からのお願いを断る男女はいないに決まっている。
五十メートル走り、すぐそばにいる先生にお題と借りたものを渡す雪河。
クリアの合図をもらい、すぐ新しいお題を受け取る。
「次は……最近できた友達」
このお題を見て雪河は少し固まってしまう。
「あーっと!雪河朱音次のお題はかなり難しかったか!?」
その理由は単純でこのお題を見た時真っ先に浮かんだのは関口祐介だった。
しかしさすがにお願いできないと思いながら軽く首を振り新しい人を頭の中で探すのだが、どれだけ探しても出てくる人物は変わらなかった。
徐々にクリアした生徒たちが集まってきており、雪河は追いつかれてしまう。
あたりを見渡し、関口の事を視界にいれる雪河……昼休憩の会話を思い出す。
『その、関口くんはさ……私が借り物競争出てるときもあんな風に応援してくれる?』
その言葉と共に、関口は両の拳を握りしめながら応援してくれている姿が見え……雪河は吹っ切れたように関口の元へと向かった。
「関口くん!」
雪河がそう発すると関口だけではなく、周りにいた男子たちが反応していた。
もしかしたら渡されたお題が好きな人かもしれない。関口はそう思考することはなかったが、周りにいる男子たちの視線が痛すぎてそう思考したくなかっただけなのかもしれない。
「来て!」
「は、はい!」
迫真の声で言う雪河に少々驚きながらも関口はついていく。
関口の手首を持ち、早歩きで先生の元へと向かう。
「おーっと!?雪河朱音、髪飾りの次は男!男子です!もしかしたらこれは……好きな人……かもしれませんねぇ?」
実況をしている人もそう発せざるを得なかった。
その理由は明らかで……
(雪河さん……顔は見えないけど掴んできてる手がものすごく熱い)
それに心なしか汗もにじみ出てきている。
関口の汗なのか、雪河の汗なのか……それは分からないがどちろも内心心臓バクバクなのは本当。
(どうしようどうしよう……好きな人ってわけじゃないけど私が変に意識してるせいで変な誤解を生ませてしまってる!)
雪河は先程よりも早く歩き、この気まずい状況を終わらせようとする。
先生の元へとたどり着き、お題を見せる。
すると先生はにっこり笑顔。
「クリアです!次はこのお題ですよ」
「ありがとうございます!関口くんもありがとう!」
「う、うん……」
先生が意味深なにっこり笑顔を向けてくるので「お題は何だったの?」そう聞きたかった。
しかし雪河がついたのと同時に他の生徒も到着しているので聞きたくても聞けなかった。
(まぁ今はレース中だし終わってから聞けばいいか)
そう思いながら関口は場外へと歩く。
渡されたお題を急いで開く雪河……再度絶句。
次々とリードを許してしまい、放心状態になってしまう。
「どうしたどうした?これは何かのアクシデントなのか!?それともとんでもないお題を引いてしまったのか!?」
「……ッ」
下唇を噛みながら視線を落とし、赤面している雪河朱音。
彼女の次のお題は……「一番かっこいいと思う生徒」だった。
感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます




