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隣の席の雪河さんと関口くん、早く付き合ってもらっていい?  作者: Mini


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20/33

20話 体育祭スタート!

 この学校の生徒会長がグラウンドの前にある壇上に立ち、体育祭最初の挨拶を始めていた。


「みなさんおはようございます。例年は二学期の序盤にやる体育祭なのですが、今年からはこの時期に体育祭をすることになり……みなさんの温かい声を非常にありがたく思います。」


 この場にいるものは全員、静かに聞いていた。

 生徒会長は雪河朱音に次ぐ人気を誇っており、最近は雪河を生徒会に入れるために動いているのだとか。

 全員が静まり生徒会長の挨拶を聞いている中、隣にいる伊藤が呟く。


「……生徒会長、ほんと綺麗だよな」

「お前生徒会長にも手を出す気かよ?」

「いつ俺が誰にでも手を出す人間になったんだ」


 関口の心無いコメントをジト目で返す伊藤。

 しかし、伊藤の言っていることも理解できた。

 白髪の長い髪に、宝石のような赤い色の瞳。淑女らしい見た目とは裏腹にはきはきとしゃべり、ギャップが凄い。

 これは人気だわと言わざるを得ない。

 噂によるとこの学校には生徒会長のファンクラブもあるのだとか……


(まぁこの美貌なら納得か……)


 心の中でそうぼやいていると、生徒会長の挨拶が終わろうとしていた。


「最後になりますが、今回の体育祭を皆さんで盛り上げましょう!体育祭、開催です!」


 長い白髪をなびかせながら発せられる言葉。それと同時に全校生徒が声を上げて体育祭はスタートする。


「すんごい声量だな」

「関口くんも声上げないの?」


 隣にいた伊藤のすぐ後ろの席には雪河が座っており、声を上げる生徒を横目に肩を竦めていると後ろから話しかけられ少し驚きながらも振り返る。


「俺がそんなタイプに見える?」

「ふふっ、確かにそれもそうだね」


 雪河は少し笑いながらそう返し、関口の隣にいた伊藤がにやにやと何かを企んでいるような顔で振り向きながら話す。


「こいつって冷笑系だよな?損なタイプだし!」

「うるせ」


 いつもと変わらずツッコミとボケをして後ろにいた雪河は笑顔を見せる。

 関口はどうして人気者の雪河がわざわざこの席を選んだのだろうと少し考えるが答えなど見つからず、実行委員会の話を聞くことに集中した。


(でも、近くなのは嬉しいな)


「それでは今から体育祭第一種目……」


 そして当然、雪河がこの席を選んだのには理由がある。


(関口くんの真後ろの席にしようと思ったけど、それじゃあ顔が見えないからね!一個席をずらすことでいつでも関口くんの横顔を見られる!私って本当に天才!)


 なお、色々な人に声を掛けられ断ったことなどこの時は微塵も頭に残っていなかった。

 実行委員会が第一種目の競技を発表し、隣にいた伊藤が勢いよく立ち上がる。


「うっし!そんじゃちょっとかましてくるわ!」

「おー頑張れよ」

「伊藤くん!頑張って!」

「ありがとう!二人とも!行ってきます!」


 腕をぶんぶん振り回しながら指定された場所に向かう伊藤。

 二人は温かく送り出し、伊藤の走りっぷりに期待する。


「伊藤くんは中学でもあんな感じだったの?」

「ん?まぁそうだね、あいつはずっとあんな感じだよ」

「へ~!いいね!百メートル走、楽しみだ!」

「だね!」


 最初の走者に伊藤はおらず、他クラスの人たちがずらりと並んでいた。

 先生が爆竹の入ったピストルを取り出し、空に向かって放つ。

 パァン!という音とともにスタンバイしていた生徒が走り出した。

 関口たちがいる席では百メートルのゴール場所から少し離れているため近づかない限り間近で見ることはできないが、それでもその迫力は十分に伝わってきていた。

 後ろの椅子に座っていた雪河も「お~!」と声を上げる。


「すっごい速いねぇ……私だったらすぐ置いてかれちゃうよ」


 第一走者たちが走り終わり、次の走者たちがスタンバイをする。その中に伊藤の姿が見え周りの人たちにアピールしまくっている。

 伊藤を応援するため関口たちは近くに向かうのだが、そのアピールを見て関口は近くに行ったのを後悔する。雪河は純粋に応援しており、茶化しに来たのか応援しに来たのか、向かった先に布瀬の姿があった。


「あんたなんかこけちゃいなさい!」

「こけるかよ!べーだ!」


 伊藤と布瀬はこんな時でも言い合いをしている。その様子にジト目を向けながらも布瀬に近づく二人。


「お!朱音と関口じゃん!」

「絵美里も伊藤くんの応援に来たの?」

「ち、違うわよ!茶化しに来ただけ!」

「ふ~ん!そうなんだぁ~!」


 何故だか少しだけ頬を赤くしながら話す布瀬。

 雪河はにやにやしながら煽っていたのだが、後ろから無城と蒼井の声が聞こえ振り返る。


「お、二人も来たか」

「さすがに友達の応援はしないとね~」

「……暑い」


 と、そのタイミングで先生がピストルを空に放ち伊藤はスタートする。


「お!始まった始まった!」


 蒼井がそういい、その場にいた全員が伊藤の走りに注目する。

 出だしは順調。十メートル付近では七位中三位。先行するのは一組の佐藤……野球部の次期エースと言われている人だ。

 しかし、先程の走者とは打って変わり七人中全員が運動部で次期エース級の人間ばかりだ。その中で三位ともなると順調すぎるも順調なのだが、伊藤は更に加速して一人を追い抜かす。


「すごいすごい!」

「いけ!伊藤!」

「もっと気張んなさい!」


 全員が声を上げながら応援をする。

 走っている本人には届いていないのかもしれない。しかし、そんなことは関係ない。

 友達がガチでやっているのならそれをガチで応援するのも友達としての役割。


◇


 伊藤が見ている人たちにアピールをし、関口が来たのを確認してテンションを上げていた時。


「よう康彦!今回こそは負けないぜ!」

「お、春樹じゃん!つか、俺達のブロック全員運動部じゃん」

「そういう分け方を先生たちがしたんだろ?」

「それに、そっちの方が面白いじゃん!」


 走者全員伊藤とは知り合いでかなり仲がいい。特に野球部の次期エースである佐藤柚希とはかなり仲がいいらしい。


「伊藤、俺が勝ったら絵美里ちゃんをもらうぞ!」


 そうして出てきたのが野球部の次期エースくん。伊藤はジト目を向けながらめんどくさそうに返す。


「はいはい、好きにしてくれ」

「ハハハ!言質取ったり!」


 この意味の分からないテンションの奴が野球部の次期エースとは信じがたいが実力も知っているので油断はできない。


(てか何で俺はこんなやつに絡まれるようになったんだっけ?まぁいいか……)


 一瞬思考するが考えるだけ無駄だと気づき深呼吸をする。

 次期エースくんは勝手にライバル意識を持ち周りからも仲がいいと思われているが伊藤自身そう思っていない。


「それでは位置について……よ~い!」


 先生の合図で全員が構えを取り、合図とともに勢いよく走り出す。


(よし、最初の出だしは順調だ!)


 七人中三位という順調な滑り出しをするが全員ほとんど拮抗状態。

 先行しているのは野球部の次期エース。


(しっかし、まじであいつはえーな足……)


 一瞬で様々な観客が視界に入り、十メートルを超えたところでゴール付近で待っている関口たちが視界に入り、その応援が耳に直接聞こえてくる。


(こりゃ……一位を取らないと怒られちゃうよな!)


 どんどんスピードも乗ってきて一人を追い抜かし二位に躍り出る。

 しかし次期エースとの差は五メートル。百メートル走において五メートルはかなり致命的だ。

 いくら足を前に出しても追いつけない。

 気が付けば残り五十メートルという所まで来てしまい、三位との差もほとんどつき伊藤と佐藤の一騎打ち状態にもつれ込んでいた。


「伊藤くん!頑張って!」

「頑張れ!伊藤!」

「……頑張れ!」

「いけ~!」


 仲間たちが応援をしている中、関口のことを視界にいれる。

 あいつは基本何も言わないしそういう人間じゃないっていうのも知っている。

 皆みたいに声は上げないし、きっとガチでやることもそんなにないと思う。

 それでも……口パクで何かを言っているのが分かり、しかもそれが鮮明に読み取れた。


「頑張れ、康彦」


 ガチでやっているとその熱が伝わり関口もガチになっていた。


(勝て!勝ってくれ!)


 最初の種目で、別に勝っても負けてもどうにもならない。ただ百メートル走っているだけなのに……関口はガチで走っている伊藤の事を心から応援していた。

 開いていた差が徐々に埋まり……並ぶ。

 最初の種目なのに見ていた全員が声を上げて応援をする。このものすごい熱い戦いは走っている人間にも影響を及ぼしていた。

 そして八十……九十……残り十メートルの所で一位と二位が入れ替わり、最初にゴールテープを破ったのは伊藤だった。



「「「「「「おおおぉぉぉおおお!!!」」」」」」


 

 全校生徒が声を上げ、伊藤は真っ先に関口たちのいる方へと振り向き……ブイサインをした。

 関口たちは伊藤に同じようにブイサインを送り、劇的な体育祭が幕を開けた。

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