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隣の席の雪河さんと関口くん、早く付き合ってもらっていい?  作者: Mini


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18話 雪河朱音

 私、雪河朱音は完璧な人間なんかではない。

 逆にそんな人間がいるのなら知りたいと毎日のように思う。

 学校での私は……きっと素の半分も出していないんじゃないかな。

 私はただ嫌われたくないだけ。小さい頃に母親が言っていたことを今でも覚えている。


『朱音。この世に完璧な人間なんていないの。でも本心を隠すことで少しは完璧に見せれるかもしれない』


 私が四、五歳の時に言っていたけど今まで何故そんなことを子供の私に言ってきたのか理解できなかった。けれど最近……少しだけわかってきたかもしれない。

 母親は外資系の仕事をしていて今もほとんど家にいない。きっと母親も私と同じで周りの人間には本心を隠して生きてきたのだろう。


『お母さん、私はどうやったらお母さんみたいになれる?』


 今もそうだけど、昔は母親がとてもすごい人間に見えた。それこそ……そうだね、完璧人間と言われても不思議じゃないくらいの人。

 でもお母さんは答えを教えてくれなかった。

 母親は少し笑みを浮かべながら優しく言う。


『朱音も大きくなったらわかるよ。でもね、お母さんは朱音が自由に生きてくれたら嬉しいな~』

『うん!』


 その二年後……母は倒れ病院に運ばれた。原因は過労。

 完璧な人間だと思っていた人が、こんなことになるなんて私は思いもしなかったし他の人も同じことを思っていたと思う。

 

『ごめんね朱音……お母さんお仕事頑張りすぎちゃったみたい』

『大丈夫だよ!私、泣かないから!お母さんが元気になるまで私毎日病院通うから!』


 私は涙ぐみながら母親に言った。母親は少し疲れた顔をしながらも笑みがこぼれていた。

 そしてトイレに行くといってそのトイレでたくさん泣いた。

 怖かったんだ。

 人は脆いんだと幼かった私はそう気づいてしまった。

 幸いにも母はすぐに退院して仕事にも復帰し、十年が経った今も倒れることなく一緒に暮らしている。

 でもそんな元気な母も、きっと元気に見えるだけなのかもしれない。倒れないように自分のキャパを理解し、理解したうえで完璧を演じきっている。私はそんな母の子供だ。



 小学生に上がり、私は一年生にして学級委員をすることになった。

 当然最初は何もわからず先生に聞きながら色々とやっていたけど、一番の問題はい(・)じ(・)め(・)だった。この問題はきっと学校がなくならない限り、いや……生きている限りなくなることのないものだ。


『おいみろよ!こいつの顔のぶつぶつ!ちょ~きもいぜ』

『や、やめてよ。かずとしくん……』


 周りのみんなはみて見ぬふり……いじめていた男子たち数名はけらけらと笑い、女の子は半泣き状態だった。

 私も最初は、見て見ぬふりをしようと思った。

 でも……なんかそれは嫌だなと思ってしまった。気づけば私は勝手に体が動き出し、いじめていた男子に注意をした。


『かずとしくんやめなよ!ゆりこちゃんが嫌がってるじゃん!』

『あ?朱音てめぇ……正義のヒーロー気取りかよ?』

『おい見ろよ!体震えてるぜ!おまけに泣いてやがる』

『おっもしれぇ~!一緒にいじめちゃおうぜ!』


 体と声は震え、涙も出ている。きっとこの後は標的が変わり私がいじめられるのだろう。でもそれでいいと思った。それでこの子のいじめが終わるのなら……それで。

 しかし、そこに偶然上級生が現れその場は収まった。後日先生、親……様々な関係者が立ち合いいじめが起きることはなかった。

 


 ここからだ。私の生き方が変わったのは。

 舐められないように率先して優等生を演じ、苦手だった運動を克服するために習い事でバスケを始めた。

 そこで布瀬絵美里という幼馴染と出会う。

 絵美里とはものすごく気が合い、よく家にお泊りにしに来てくれていた。

 心の底から友達といえる子は今も昔もきっと絵美里だけ。他の子たちはうわべだけの付き合いで分け隔てなく接していた。

 中学に上がるタイミングで習い事のバスケをやめて勉強に集中することにした私。いつしかの絵美里とのお泊り会の時だった。


『ねぇ、なんで朱音はそんなに完璧なの?』

『完璧?』

『うん、だって最近朱音みんなからなんて言われてるか知ってる?』

『ううん、知らない』

『完璧美少女……もう誰も安易に近づかないしね』

『そんなあだ名みたいなのついてるんだ』


 いい気も悪い気もしない。正直どうでもよかった。自分から率先してやると決めているし、私は私がしたいことをやった結果だ。他の人間がそれを望もうと私は関係ない。


『完璧な人間なんていないよ』

『え?』

『完璧な人間を演じ切ることはできるけど、そんな人間なんてこの世界……どこを探してもいないよ』

『まぁ言いたいことは分かるけどねぇ』


 ベッドに仰向けになり、横にあったぬいぐるみを抱きながら話す絵美里。


『みんなが完璧っていってるけど、当の本人は裏でどれだけ練習をしてきたかなんて知る由もないし……』

『……』


 どうして私が絵美里を心の底から友達だと思えるのかがやっと理解できた気がする。

 いつもは怒りっぽくて周りから少しいやだと思われていても、人の事をよく見ている。


『だってさ、運動が苦手?だったから習い事のバスケ始めたんでしょ?』

『え!?なんでわかったの!?』

『やっぱりそうかぁ……だって入ってきたときの朱音超へたくそだったもん』

『もう少しオブラートに包んでよ』

『ごめんごめん。でも日に日にうまくなっていってさ、気がついたら私より上にいて……すぐ追いついてやるって思ったらやめちゃうんだもん』

『……それはごめん』


 肩を竦めながら言う朱音に絵美里は笑いながら『別にいーよ』と返してくれた。

 それに、きっと一番の理由は……私の努力をずっと間近で見てくれてたからなんだと思う。

 その過程を見てた人達は完璧なんてよばない。でも何も知らない人間は完璧だと思ってしまう……母も気ッと同じだったのだろう。

 習い事をやめた私は勉強をかなり頑張った。受験は最初都内の進学校にしようか悩んだけど、結局は近場の高校に行くことに決めた。


『朱音……よかったの?言ってくれればお金も全部出したのに』

『ううん大丈夫だよお母さん!ありがとう。でも私が行きたくて選んだ高校だから!』

『そう』


 私がそう言うと母は優しい顔で返しそれからは何も言うことはなかった。

 しかし、ポケットからなにかを取り出しそれを娘に渡す。


『お母さんからはこれくらいしかあげれないけど……』

『え……いいの?ありがとうお母さん!』


 母がくれたのはお守りだった。母が今まで何かをくれるという事はあまりなかったので私はそれがものすごい嬉しくてこのお守りがあったから勉強も頑張れてこれた。



 そして……受験当日、私は出会ってしまう。

 偏差値も何の問題もない普通の高校。それでも受験という初めての出来事に私は緊張していた。

 門をくぐり、受付を探していた時……私より少しだけ背の高い黒い髪の毛で青い目のした人に話しかけられる。


『これ、落としましたよ』

『あ、ありがとうございます』


(同じ受験生かな?ここの高校の制服じゃないっぽいし……)


 拾って渡してくれたのはお母さんから貰ったお守り。

 それをぎゅっと握りしめポケットの中にしまう。

 その男の子は寒そうに手に息をかけていたのでお礼に二個持ってきてたカイロを一つ渡した。


『あの!これよかったら!』

『いいんですか?ありがとうございます』

『いえいえ!お互い受験頑張りましょうね!』

『そうですね』


(よかった……断られたらどうしようって思っちゃった)


 そしてその場は何事もなく終わり、指定された教室に足を運ぶ。

 すると、同じ教室で隣の席にさっきの男の子がいた。


『『あ……』』


 互いに少しだけ気まずくなりながらも少し小さい声で話す。


『(さっきは本当にありがとうございました)』

『(いえ……それはこちらこそ。カイロすごく温かいです。助かりました)』


(すごく優しそうな人……名前、なんていうんだろう?)


 私がそう思った時、相手も同じことを考えていたようで名前を聞かれた。


『(あの、名前とかって聞いても大丈夫ですか?)』

『(私は雪河朱音……君は?)』

『(俺は関口祐介)』

『(関口くん……関口くんね。)』


 何故だかわからなかったけど、この人とはこの高校でこれからも絡むんだろうなと思った。

 そして無事試験は終わり、気が付けば隣にいた関口くんはいなくなっていた。

 緊張や色々重なり試験が始まってからは隣を見る余裕なんて当然なく……でも終わった後は少しだけ話せるかなとか考えていた。

 少し顔をむすっとしながら教室を出て、靴箱に向かう。

 そこでちょうど靴に履き替えた関口くんが見えて声を掛けようとするのだが……


『おーい、関口く————』

『おい関口!受験どうだった?』

『まぁまぁかな~でもまぁ受かってんじゃね?』

『そっかぁ~俺も~』


 中のよさそうな男子が関口くんの肩を組み話していた。

 まぁ私みたいに近場の高校だったらそりゃ友達もいるよなと思いその場を後にした。

 後日の合否発表で私は見事合格し、母親と喜びを分かち合った。

 そして入学式当日……私は壇上で挨拶をすることになりそれに緊張しながら門をくぐる。

 すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえ私は咄嗟に振り返る。


『雪河さん!よかった!一緒の高校だね!』

『そうだね!』

『前下駄箱で話しかけようとしてくれてたよね?タイミングがかみ合わなくて本当にごめん!入学生代表挨拶頑張ってね!』

『うん、ありがとう……』


 なんかものすごい車が通った気分だ。

 自分の言いたい事だけ言って去っていった彼に私は少し戸惑いながらも歩を進める。

 まだ少し肌寒いのに……頬は少し熱く感じていた。その理由は分からない。


(覚えててくれたんだ……わざわざ伝えにって……)


『変なの』


 そう言いながらも私はふふっと笑い、門をくぐった時より緊張はすっとどこかに消えていった。

 それは今でも忘れない。私は彼、関口祐介くんに救われたのだ。

 関口くんはきっとそんなこと言ったら苦笑しながら誤魔化すんだろうな。



 それが関口との出会い。

 でも……今も自分の本当の気持ちは分かっていない。

 無理にわかろうとも思わないけど、関口くんには素を見せてもいいかなって思ってきている。

 というより、週末に遊んだときはほとんど素だったかもしれない。



 関口くんといると……すごく居心地がいいし気持ちが落ち着くんだよなぁ。

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