16話 二人三脚の練習のはずなんですが
「えーっと……今から俺達は何をするんですか?」
雪河と関口が二人三脚をすることが決まった三日後の放課後。謎メンバーでグラウンドを貸切ることに成功した。
あたりを見渡せば布瀬が伊藤を追いかけまわし、無城と蒼井がバトンの受け渡しの練習をしている。その謎なメンバーと謎な光景が関口の視界に広がる。
元々は二人三脚の練習をすると聞いていたのだが、人数がいた方が楽しいということもあり了承した……しかしこれでは公園で遊んでいる少年少女と何ら変わりがない。
「あんたはいつもいつも!私のことなんだと思ってるのよ!」
「そっちがいっつもかみついてくるんだろ!?」
「噛みつくようなことを言ってるのは誰なのよ!」
数分経っても変わらない光景に関口は額に手を当てながら軽く溜息を吐く。
雪河もさすがに苦笑しながら見ていたが足に結び付ける紐を持ち肩を竦めながら言った。
「まぁ向こうは楽しそうにやってるみたいだし……私達も練習しよっか」
「う……うん、そうだね」
どうしてこの場所に布瀬を呼んだかというと緊張するからと理由だ。
これといってアドバイスが欲しいとかそういうのを求めているわけじゃないので雪河からしたらにぎやかなのはありがたい。
雪河はしゃがみ込んで関口の右足と自身の左足を紐で結んだ。
「よし……これでよしっ!」
しゃがみ込んでいた雪河は立ち上がり、少しだけよろけるが関口がカバーする。
「……ッ」
「ごめん!」
「大丈夫……少しびっくりしただけだから」
この瞬間、二人の脳内は二人三脚の練習どころではなかった。
(なぁ……これってもしかしたらやばいんじゃね?近いし、体の支え方も考えないとセクハラになっちまう!)
(うぅやばいよぉ……どうしよぉ……お腹を触られるって事だよね?関口くんなら全然いいんだけど、私太ってないかな?最近少し食べすぎちゃったし……)
結び終わったのを見て無城と蒼井はバトンの受け渡し練習の手を止め関口と雪河を見る。
「始まるね」
「……気になる」
走り回っていた伊藤と布瀬も息切れしながらもその足を止め、関口と雪河を見ていた。
「あんた……どう思う?」
「どうって?」
「二人はうまくやれそうなの?朱音は運動できるけど関口はそうは見えないけど……」
布瀬がそういうと伊藤は少し笑みを浮かべながら言った。
「まぁあいつ見た目があんなだから運動できるタイプには見えねぇよなぁ……安心しろよ。俺より運動神経いいから」
「あんたより!?」
伊藤の言葉に目を真ん丸にさせながら驚く布瀬。これでも伊藤は一年生にしてバスケ部のレギュラーに選ばれるほどの実力で運動神経には自信がある……そしてそれを布瀬は知っている。その伊藤がそう言うのだから布瀬は嫌でも気になってしまう。
しかし……問題はそこではなかった。伊藤は何かを悟ったように話す。
「まぁ、運動が出来る出来ない以前の話だと思うけど……」
「……?」
布瀬は何を言っているのかさっぱり理解が出来ていない。が、次の瞬間……
「それじゃあせーので動かすよ?まずは結んでる足の方からいくよ?」
「わかった!」
「「せーの」」
雪河と関口は同時に足を前に出すのだが……次の瞬間雪河が横転してしまう。
「大丈夫!?」
「う……うん、ありがとう関口くん」
関口は手を差し伸べて雪河はその手を取る。あまりにも予想外な出来事に周りの人間たちは驚愕していた。
「意外だね……どっちも運動神経は悪くないのに」
「……」
無城と蒼井は何が原因なのか全くわからず首を傾げているだけだったが、伊藤は最初から分かっていたようで布瀬は今ようやく気が付いた。
「……ねぇ、まさかとは思うけど」
「そのまさかだよ?二人の気持ちは俺達が一番知ってるはずだよ……好きな人、気になる人に体を触れられる。これだけでもやばいのに体は常に密着状態……今の関口と雪河さんはドキドキドバドバだろうね?」
にやりと何か悪だくみをしてそうな笑みを浮かべる伊藤を見て布瀬はジト目を向ける。
しかし伊藤の言葉にも理解はできてしまうので少し心配になってしまう。
(これまじで……練習にならんぞ)
一歩進む進まないの話ではない。どこに腕を回すのか、力加減はどれほどがいいのか……それが全く分からず自分の加減でやってしまうと絶対にかみ合わない。
関口は一度話し合おうと紐をほどくように提案するのだが……
「雪河さん、一回紐をほどいて話し合わな————」
「私まだ全然できるから!だからもう一回やらせて?」
「おうおうおう……ちょっ……」
勝手に足を前に出し一歩歩もうとする雪河。それに合わせて足を出すのがやはり雪河は横転してしまう。
関口は再度手を差し伸べるのだが顔を見て気づいてしまう。
(雪河さん……)
顔は真っ赤で手もかなり熱い。一瞬風邪でもひいたんじゃないかと顔を近づけるのだが雪河は顔をさらに赤くしパニックにしながらその場に倒れこんだ。
「もぅ……むりぃ……」
初めから、この状況に耐えきれなかったらしい。
関口と隣というだけで興奮し、体を密着させるということに顔を赤らめ、腰に手を回されるだけで撃沈してしまう雪河。布瀬と伊藤から見てもそれは明らかで雪河が倒れこんだすぐ全員が駈け寄る。
関口は一度結んでいる紐をほどき無城と蒼井は飲み物を買ってくるとこの場を離れた。
「大丈夫?朱音」
「う、うん……かなり落ち着いたよ。ごめんね心配かけちゃって」
「まぁそれはいいんだけど……」
各々飲み物を飲み、少し時間が経った今……関口は雪河の方へと向かう。
関口が来るや否や雪河は視線を逸らし、少し赤くなっている頬と真っ赤な耳を視界にいれる。
「ごめんね関口くん……ほんと、私……だらしなくて……」
視線を逸らしながら声を震わせて話す雪河。本当に申し訳なさそうにしているのを感じ取り関口はお構いなしに隣に座る。
「二人三脚の練習なんて最初はこんなんでしょ……ましてや男女同士で互いの力量も分からないままやったらこうなるよ」
「……」
至極真っ当な意見で何も言い返せずにいたが互いに本心を隠していた。
(まぁでも、それ以前に全然練習に集中できない程雪河さんが気になっちゃうけど)
(でも、でも……私のせいで練習は中止になっちゃったけど関口くんと体をくっつけるのなんてやっぱり今考えても正気なんて保てないよ……)
互いに言葉を交わしていなくても何を言っているのか大方予想が出来た伊藤と布瀬は二人をジト目で見つめながらも心の中でささやくように言った。
((マジではやく付き合ったら?))
そう思ったのもつかの間、いつも基本無口な無城が話し出していた。
「まずは話し合おう。じゃなきゃ互いを理解することなんてできないよ」
「「……ッ」」
雪河も関口も無上の言葉にハッとする。
わかっていた。話し合いをしないといけないのは……しかし、互いを理解するところから始めなきゃ到底二人三脚の練習はできないという事に気づいてしまったのだ。
「確かに、話し合わないとな」
「そうだね」
雪河と関口は何かに気づいた様子で互いを見つめながら話し出す。
「好きな食べ物は何?」
「そうだなぁ……」
「絶対そうじゃないだろ!」
二人のやりとりに他の人たちは絶句。
伊藤はすかさずツッコミを入れるが何も気にすることなく話していた。
そして……その日の二人三脚の練習は話し合いという名の雑談で終了した。いったい……練習とは何だったのだろうか。関口はそう考えながらも後日改めて二人三脚のあれこれを離そうと決めた。
体育祭まで残り一週間————。
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