15話 一学期最後のイベント体育祭に向けて
「それじゃあクラス委員長の雪河……一人指名して板書してくれ」
担任の先生がそういうと窓側にある一つしかない椅子に座る。
雪河は一瞬関口の方に視線を送り、席を立ち前に向かった。
(そういえば……雪河さんはクラスの委員長でもあったな)
すっかり忘れていた関口。改めて考えるとすごい経歴というか……万屋というべきか。
雪河のいい所でもあり、お人よしにも見えてしまう関口はどこかもやもやさせながら頬杖をしながら前に立つ雪河を見ていた。
「それでは今から、体育祭の種目決めを始めたいと思います。関口くんも前に来てもらえますか?」
「……え?俺?」
「はい!」
にっこりと笑みを浮かべながら指名してくる雪河。関口はきょとんとした様子で自分の顔に指をさす。
クラスの生徒たちはその名ざしに関口の方へと視線を送るのだが……その中には伊藤の視線も含まれておりくすくすと笑っている伊藤の顔を見ては視線を逸らす関口。
自分の席を立ち、関口は壇上へと向かう。チョークを持ち黒板に書く準備を終えたら雪河が再度口を開く。
「まずは障害物リレーや借り物競争の方から決めていきたいと思います!誰かやりたい方はいますか?」
雪河がそういうと、伊藤がなにやら言いたそうに手をあげるのを目にして雪河の方にアイコンタクトする。
「どうしましたか?伊藤くん」
「板書に書く人が先に決めたらいいんじゃないかなって思って、聞いてったら自分たちの出たい競技に出れない可能性もあるでしょ?」
「確かに」
「それもそうね」
「私も雪河さん達から決めるのがいいと思う」
伊藤の言葉にクラスの全員が賛成し、雪河は肩を竦めながら話す。
「じゃあお言葉に甘えて……私は一応借り物競争に立候補しようかなって思ってる……いいかな?」
「いいんじゃない?基本リレーとかそういうの以外は二人まで出れるんだし」
関口は板書しながらも淡々と言葉を返す。
「関口くんはいいの?」
「俺はいいかな~……適当に余った奴やるよ」
この体育祭は一人二種目まで出るのが可能……というより種目の数やクラスの人数的にほとんど絶対だ。
そして時間はどんどん過ぎていき徐々に決まっていく。
残るは男子百メートルが一枠。女子百メートルが一枠。男子四百メートルリレーが四枠。これも女子同様。あとは二人三脚が一組。こんな感じだ。
関口、伊藤はまだ一種目も決まっていない。蒼井は障害物リレー、無城は走り幅跳び。雪河は借り物競争だけだった。
「やっぱこいつらが残るよなぁ……」
「中々てあげれないよね……」
残ったもの達は運動部も出るガチガチのものだ。
しかし、伊藤はどうやらこれを狙っていたようで手をあげながら声を上げていた。
「誰も上げないなら俺百メートルと四百メートル出たい!」
「お、そりゃ助かるな」
板書にかきかきする関口。
(意外と、女子の百メートルと四百メートルリレーが難しいだろうな)
もしこうなってしまえば雪河が率先して手をあげるだろうと思考し、案の定そうなるのだが……
「なら私も百メートルやろうか――――」
「はい!私が百メートルやります!」
「長谷川さんいいの?」
「じゃあ四百メートルの方————」
「四百メートルリレーは私達が出ます!」
「え……えぇ!?」
なんと女子の方はすんなり決まってしまった。
関口も雪河も目を真ん丸にするが率先してあげてくれるのならありがたいと思い、残るは男子四百メートルリレーの三枠と二人三脚。
「なぁ関口~……俺達で四百メートルリレー出ようぜ~、関口以外は一枠空いてるんだろ?」
「まぁ元々空いてるやつ行こうと思ってたし俺はいいけど、蒼井と無城はいいのか?」
「俺は問題ないよ」
「……俺もいいよ」
伊藤の提案に関口は乗るのだが……横にいた雪河が表情を隠しながら心の中で歓喜していた。
(やった~!!!!関口くんの四百メートルリレーが見れるの!?いつもはめんどくさがったりしてやらなさそうなのに!!やったやった!!)
この決まり方にはさすがに教室もざわつくのだが……何より一番の原因は蒼井だった。
蒼井はクラスの中でも雪河に次ぐ人気者。男子はもちろんのこと女子人気がすさまじかった。
そして雪河といつも後ろの席でイチャイチャしている関口……テストでも学年で十位という好成績が注目を集めており、結構な良カードになってしまった。
「残るは二人三脚だけど、やりたい人いませんか?」
雪河はクラス全員に再度聞く。しかし先程までとは打って変わりシーンとした状況が続いてしまう。
なんなら少し視線が痛く感じてしまう。雪河はそれに気づいておらず関口は気づかないふりをしていた。
(こいつらもしかして……俺と雪河さんに二人三脚をやらせようとしてんじゃねぇのか?)
雪河がその視線に気づくないのも当然だ。その視線が向けられているのは二人ではなく関口にだったのだ。
クラス全員が二人三脚はお前が誘えという視線を向けている。
見ないふりをしても、ずきずきとささる視線……それが気持ち悪く、関口は視線を逸らしながらも雪河に聞いた。
「雪河さん……俺らで二人三脚とか、どっすか」
「……?あ、そっか……私達一枠ずつ残ってるもんね。それでいいじゃん!そうしようよ!」
(((ナイス!!!!!!)))
これまたすんなり決まってしまい、口に出してないのにクラス全員のナイスという言葉が関口に聞こえてきたような気がした。
◇
体育祭の一通りを決めた昼休みの事……関口はいつものメンバーでご飯を食べようとしていた。
「おい伊藤……お前最初からこうするのが目的で何にも手をあげなかったんだろ」
「え~?何のことかな~?」
「とぼけんな」
「まぁまぁ、いいじゃん……俺達四人で種目にも出れて関口は雪河さんと二人三脚できるんだからさ」
「そういう問題じゃねぇ!」
蒼井が宥めるようにいい、関口は席を立とうとしたタイミングで隣にいた雪河に話しかけられる。
「関口くん……ちょっといいかな?」
「ん?いいけど」
そう言って伊藤たちに先行くようにアイコンタクトを取る。
ササ―っといなくなった伊藤たちなのだが、教室の扉から隠れるように関口の事を見ていた。
(あいつら……)
関口はそれに気づきながらも気づかないふりをし、目の前にいる可愛い女の子に視線を向ける。
「一緒にご飯を食べませんか?その……体育祭の事とかで話したいこともあるし……」
「……ッ」
頬を少し赤らめながら肩を竦める雪河さんを見て少しドキッとさせながら視線を軽く逸らす。
逸らした先には伊藤たちの姿が見え、その者たちはサムズアップしながらその場を離れた。
「行ってこい!」という合図だったのだろう。関口もその意図をくみ取り答える。
「俺でよければ……全然いいよ」
頭を掻きながら答える関口に雪河は小さくガッツポーズし、クラスの生徒たちは心の中で呟く。
(((だから早く付き合えって)))
その直後、前の教室の扉から赤い髪の毛のツインテールがひょこっと顔を出す。
「朱音~!一緒にご飯食べ————」
「「「しーーっ!」」」
「……?」
先程までのいい雰囲気を台無しにする雪河の幼馴染であった。
感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます




