第二章(2):異世界日本、その生活と常識
「みんな、私の実家はね、白亜の城ほど大きくはないけど、みんなが泊まる部屋はちゃんとあるから安心してね!それに、築年数は結構経ってるけど、昔ながらの趣があって、庭も広いから、みんなでくつろげると思うよ!」
城の中庭に集まった私たちは、円になって座り、いよいよ日本での生活について私が説明を始めた。
ローゼリアちゃんは目を輝かせ、アルドロンさんは真剣な表情で頷き、カスパール君は腕を組みながらも、私の言葉に耳を傾けている。私の隣には、ルシアン様が静かに座り、優しい眼差しで私を見守ってくれている。
「それでね、私のお父さんは、帝都守護剣士隊の隊長をしてるの。帝都の護衛を務める役目なんだ」
私がそう告げると、アルドロンさんが「ほう」と興味深そうに身を乗り出した。
「それは、我々がガイア様の勇者だったのと同じような役目ということか。国の守護を司る者…なるほど、セラフィナと佐倉花殿の魂が同じであるというのも、納得がいく」
アルドロンさんの言葉に、ルシアン様が静かに頷いた。その視線が、ふと私の顔に注がれる。瞳には、深い理解と、確かな愛おしさが宿っている。
(ああ、ルシアン様…!)
言葉を交わさずとも、私とルシアン様の間に、温かい空気が流れる。私たちが確かに繋がっていることを改めて実感し、胸がきゅんと高鳴る。
だが、今は説明の途中だ。気を取り直して、私は話を続ける。
「それでね、お父さんは剣道の師範もしてるから、ちょっと厳格な人なんだ。でも、お母さんはとっても優しくて、私の『推し活』も応援してくれてたんだよ!」
カスパール君が「ふん、厳格な父親か」と鼻を鳴らす中、ローゼリアちゃんは「セラフィナちゃんの推し活を応援してくれるなんて、素敵なお母さんだね!」と目を輝かせた。
「それから、学校についてなんだけど、私は高校に通ってるの。その学校はね、幼稚園から大学まで同じ敷地内にあるから、みんなで一緒に登校できるんだよ」
「それは便利だな。移動の手間が省ける」とアルドロンさんが呟くと、カスパール君は「また朝から集団行動かよ」と不満そうな顔をする。
「高校にはね、『制服』っていう特別な服があるんだ。みんな同じ服を着るんだよ!最初はちょっと堅苦しいかなって思ったんだけど、みんなでお揃いだと、なんだか一体感があって、意外と悪くないんだよね!」
私がそう言うと、ローゼリアちゃんが目を丸くする。
「みんな同じ服!?それは、どんな服なの?」
「それがね…」
私は、ルシアン様の方をみた。
「ルシアン様が夢で見ていた佐倉花が着ていた服。あれが制服なんです」
私の言葉に、ルシアン様がハッと顔を上げた。蒼い瞳が、僅かに見開かれる。
「あの時の…あの服が、制服、だったのか…」
ルシアン様は、夢で見たあの日のことを思い出したかのように、私のセーラー服姿を想像しているのだろう。彼は私をじっと見つめる。
私は、あらためて、ローゼリアちゃんの方を向き直す。
「えっと、男子が『学ラン』っていう詰襟の服で、女子は『セーラー服』っていう、襟がセーラーカラーになってる服なんだ。今時セーラー服の学校は珍しいんだけど、うちの学校は歴史があるから、昔ながらの制服なの」
「なるほど…あの時のセラフィナは、学徒の身であったということか」
ルシアン様は、納得したように頷き、ふっと優しい笑みを浮かべた。その表情は、まるで遠い記憶を慈しむかのようだ。
彼はそっと私の髪を撫で、そして顔を近づけて、耳元で囁く。
「しかし、あの時の佐倉花も、今のお前も、俺にとっては最高の存在だ」
「ルシアン様ぁ……!」
彼の甘い囁きに、私の全身は蕩けそうになる。もう、周りのみんなの視線なんて気にならない!私たちは、まるで二人だけの世界にいるかのように互いに見つめ合い、幸福な空気に包まれる。
「あー、すまんが…まだ説明の途中なんだが…」
アルドロンさんの咳払いで、私たちはようやく現実に引き戻される。顔が熱い。
「あ、もちろん、みんなは留学生だから、無理して着る必要はないと思うよ!私服でも全然大丈夫だからね!」
私の言葉に、ローゼリアちゃんが少しだけ肩を落とした。
「えー!そうなの!?でも、セラフィナちゃんとお揃いの制服、ぜひ着てみたいなぁ!」
ローゼリアちゃんの純粋な願いに、私の胸はキュンとなる。
すると、カスパール君は相変わらず腕を組み、ぶっきらぼうな表情で口を開いた。
「ちっ…仕方ねぇな。ローゼリアが着たいって言うなら、俺も付き合ってやるよ。別に服装なんてどうでもいいがな」
(ほらほら、君もなんだかんだで、ローゼリアちゃんに喜んでほしいんでしょ?)
私は心の中でツッコミつつ、内心ニヤニヤが止まらない。
「あ、それからね、学校には『校則』っていうルールがあるんだ。髪の長さとか、服装とか、細かい決まりが結構あるんだけど…これも留学生は強制じゃないと思うよ。だから、カスパール君の髪型やピアス、ローゼリアちゃんのネックレスとかも、文化の違いだって言えば、きっと大丈夫!」
私がそう説明すると、カスパール君が腕を組んだまま、不意に自分の髪を触った。
「校則、か…。面倒なものだな。……なあ、セラフィナ、その校則ってやつだと、俺みたいな長髪はダメなんだろう?だったら、いっそ切っちまうか。どうせ、しばらくは日本にいるんだ」