第二章(1):王子と勇者のホームステイ計画、私の故郷は大丈夫!?
「じゃあ、準備を始めてちょうだい!」
エリアス様は、あっけらかんと言い放った。まるで、ちょっとそこまで買い物に行くかのような気軽さだ。
「ルシアン君は、北欧の小さな王国『ノルヴェイグ』の王子ということにしようか。豊かな自然に恵まれた、歴史と伝統を重んじる美しい国、という設定でね。地図には滅多に載らない、秘められた場所ということにするから、心配はいらないよ。他の三人、ローゼリア君、アルドロン君、カスパール君も、その国の留学生って設定で。佐倉花君の家にホームステイすることにするね。ルシアン君とアルドロン君は大学部に、ローゼリア君とカスパール君は花君と同じ高等部ってことで、問題ないかい?」
エリアス様は、矢継ぎ早に設定を紡いでいく。その手際の良いこと!まるで、敏腕のプロデューサーのようだ。
「えっ、うちに王子様がホームステイですか!?」
私は思わず叫んだ。ただでさえ、ルシアン様が来るだけでも大事件なのに、王子様設定とは…!しかも、勇者三人まで!?私の実家が、異世界人のホームステイ先になるなんて、誰が想像しただろうか。
エリアス様は、そんな私の慌てぶりを気にも留めず、にこやかに答えた。
「あら、花君の家は結構広いじゃない? まあ、一般家庭の生活を経験したいとか何とか言えば、ご両親も納得するでしょう。そういうことで、こちらである程度お膳立てしておくからね! 君たちは準備をしておいてね!」
そう軽く言われて、私たちは再び光の渦に包まれ、人間界の白亜の城へと戻ってきた。
城の庭に降り立つと、リリアさんとリルが、私たちが戻ってきたことに気づいて駆け寄ってきた。
「皆さん、お帰りなさいませ! ご無事で何よりです。一体、何があったのですか?」
リリアさんは、安堵の表情を見せながらも、何が起こったのか訝しげな顔をしている。リルも「大丈夫?」と首を傾げている。
「ええ、リリアさん、リル。ただ、少し…私の元の世界へ、皆で行くことになったの」
私が説明すると、リリアさんは目を丸くした。
「まあ、セラフィナさんの世界へ! それはまた、随分と面白いことになりましたね!」
リリアさんは、むしろ興味津々といった様子で、楽しげに目を輝かせた。リルは、アルドロンさんの足元に擦り寄って、心配そうな顔で見上げている。
「今回は、ルシアン様とアルドロンさんとカスパール君とローゼリアちゃんと私で、日本っていう私の元の世界に行くことになったの。エリアス様が、そこで『魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語』の続編の打ち合わせをするんだって!」
「なるほど、それは大切なご用事ですね! では、リルは私とお留守番ですね」
リリアさんは、笑顔で頷いた。リルも、アルドロンさんを見上げて「アルドロンさん、行っちゃうの?」と、寂しげな声を出した。
アルドロンさんはリルを抱き上げて優しく言った。
「ああ、今回は二人で仲良くお留守番していてくれ。すぐに戻るからな。留守の間、城のことはリリア、頼んだぞ」
リリアさんも、快活に頷いた。
「はい! ご心配なく。楽しんでいらしてくださいね!」
そして、私たち五人は、日本への準備に取り掛かった。
「それでは、用意しましょう!」
ローゼリアちゃんが、満面の笑顔でぱんっと手を叩く。その瞳は、新しい世界への期待でキラキラと輝いている。彼女はすでに、エリアス様から借りた日本のファッション雑誌を広げ、目を輝かせながら「この服、素敵! セラフィナちゃん、こんな感じの服を着てみたいなぁ!」
「カスパール君、こういうのはどうかな?」と、カスパール君に熱心に相談している。カスパール君は「知るか」とぶっきらぼうに返しながらも、ローゼリアちゃんの肩越しに雑誌を覗き込んでいるのが見えた。
それから、カスパール君が、呆れたように、しかしどこか楽しそうに呟いた。
「ちっ…何の用かと思ったが、まさかあんなオタク神の道楽とはな」
みんなも「うんうん」と頷く。神様がアニメやゲームに夢中になっている姿は、確かに想像の斜め上を行っていた。
「しかし、我々がセラフィナ殿の世界を訪れることになるとはな。興味深い経験となるだろう」
アルドロンさんが、知的な好奇心に満ちた眼差しで、ルシアン様と私を見やった。彼の瞳の奥には、未知の世界の文化や知識への探究心が宿っている。彼はすでに、日本の文化や科学技術について、エリアス様から聞き出せる限りの情報を集めようとしているようだった。
ルシアン様は、静かに私の手を取った。
「セラフィナの故郷か…楽しみだな」
彼の声は、いつもよりも甘く、私の心を蕩けさせる。彼の表情には、私の世界を見るという、ささやかな喜びが満ち溢れているようだった。
一方、私、セラフィナの胸中は、不安と期待が入り混じっていた。
(みんながうちに来るんだ…!)
私の実家は、確かに狭い方ではないけれど、この白亜の城の広さや豪華さに比べたら、完全に庶民の家だ。
(大丈夫かな? 絶対カスパール君がなんか言う!)
私は、すでに目に浮かぶカスパール君の不満そうな顔を想像して、思わず頭を抱えた。あの口の悪さで、日本の文化や生活様式にどう反応するのか…考えただけで胃が痛い。
しかし、それと同時に、みんなの驚く顔を見るのが楽しみでもあった。
家族に、異世界から来た魔王様と勇者たち、しかも「王子様設定」で「留学生」として紹介するなんて、一体どうなるんだろう?
私の頭の中は、早くもパニック寸前だった。




