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第十八章(1):賢者の研究と、新たな可能性


クリスマスイブの夜が終わり、今日はクリスマスだ。


佐倉家のリビングには、朝から甘く香ばしい匂いが漂っていた。キッチンからは、クリスマスパーティーの準備をしている母の楽しげな鼻歌が聞こえてくる。リビングのテーブルには、色とりどりのクリスマスオーナメントが置かれ、窓の外には、冬の澄んだ青空が広がっていた。 


              

そんな賑やかな雰囲気とは裏腹に、リビングの一角では、アルドロンさんが眉間に皺を寄せ、難しい顔で考え込んでいた。


彼の思考は、エリアス様が以前言及した「空間の歪み」と、異世界間の自由な行き来の可能性に集中していたのだ。


「やはり、異世界間の行き来は、思っていた以上にデリケートな問題のようだ…」


アルドロンさんの呟きに、ルシアン様が静かに頷いた。


「俺が魔界と人間界を行き来した際も、微かながら空間の揺らぎを感じた記憶がある。当時はそれほど気に留めなかったが、今思えば、あれも次元の歪みの一種だったのかもしれないな」


私はリビングのソファに座り、お守り袋に入れられた、ルシアン様のアクスタを手に取っていた。それは、エリアス様の神力が込められ、私が念じることで異世界を行き来できるという、まさに奇跡のアイテムだ。


「セラフィナは、佐倉花としての魂と、勇者セラフィナとしての魂が二つの世界に同時に存在している。だからこそ、このアクスタを媒介とすることで、比較的容易に行き来できるのだろう。しかし、我々や陽子殿のように、片方の世界にしか存在しない者にとっては、その魂の安定性が問題となる…」


アルドロンさんが、私の手元にあるアクスタを見ながらそう話すのを聞き、私はうつむいた。


「そうなんですよね…。私の魂は両方の世界にあるから、比較的問題なく行き来できるけど、ルシアン様や皆の魂は、片方の世界にしかないから、自由に行き来することはできない…」


私はため息をつきながら、ルシアン様に視線を向けた。

彼もまた、難しい顔で考え込んでいる。



ふと、視界の端にリビングに飾られた等身大パネルが映り込んだ。あれが皆の分身なら、どんなにいいだろう……。



「あの等身大パネルが、皆の分身ならいいのにね…」



私の何気ない一言が、静かに考え込んでいたルシアン様の耳に届いたのだろう。

その瞬間、ルシアン様がハッと顔を上げた。

等身大パネルの方へ振り返り、その目を大きく輝かせた。



「そうだ、アルドロン!等身大パネルだ!あの等身大パネルに、宝珠の神力を籠めればよいのではないか!それらを媒介とすることで、我々の分身とし、異世界間の行き来を可能にする!」


ルシアン様の「等身大パネルを分身とする」という突拍子もない提案に、アルドロンさんは驚きで目を見開いた。


「アルドロン。宝珠には、ガイアの神力が吸収されている。その神の力を、うまく利用することはできないだろうか?次元の歪みが生じないように、空間を安定させる力として…」


ルシアン様の言葉に、アルドロンさんが考え込む。


「ガイア様の神力…確かに、それは強力な力だ。宝珠に宿る神力は、この世界の次元の構造にすら干渉し得る、根源的なエネルギーと言えるだろう」



アルドロンさんは、難しい顔で腕を組んだ。理論的には不可能ではないが、その制御は極めて高度な技術を要するだろう。しかし、彼の探求心は刺激された。



「…一筋縄ではいかん。宝珠の持つ神力は強大ゆえに、その制御は慎重を期さねばならない。しかし、研究の価値は十分にある」



アルドロンさんは、一旦思考を中断し、顔を上げた。


その目は、リビングの隅に何気なく置かれたスマートフォンに向けられていた。


「本人たちが移動せずとも、別の手段で連絡を取ることは可能かも知れない。宝珠の能力を使えば、物理的な移動を伴わずに、情報のやり取りを異世界間で行うことができる」


アルドロンさんの言葉に、ルシアン様たちは驚きを隠せない。


「それは、どういうことだ?」 ルシアン様が問うと、アルドロンさんは静かに語り始めた。



「 私はこの世界に来て以来、大学で得た知識と、この世界のIT機器を駆使し、ずっと研究を続けていた。その結果、このスマートフォンという通信機器が持つ通信の原理と、宝珠の神力が持つ次元干渉能力を組み合わせることで、異世界間の微細な情報のやり取りが可能であるという仮説に至ったのだ。物理的に移動しなくとも、情報自体は宝珠の神力を介して次元を超えてやり取りできる…」


アルドロンさんは、日本での大学生活と、引きこもりにも近い研究生活の中で、異世界間の通信という、これまでの常識では考えられなかった扉を開こうとしていたのだ。



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