第十六章(2):父の理解、迫る別れ、そしてクリスマスイブ
夜になり、今日の魔物退治の騒動を終えてお父さんが帰宅した。
リビングのソファに座るお母さんと私、そしてルシアン様たちの姿を見て、お父さんは深々と頭を下げた。
「陽子…今日の…魔物退治のことだが…」
父は、昼間の出来事を母に説明した。
彼の口からは、あの魔物の異様な姿や、帝都守護剣士隊がいかに苦戦したか、そして何より、私たち五光の勇者の圧倒的な力が、熱を帯びて語られた。
彼の言葉には、未だ興奮と畏敬の念が混じり合っていた。
「…本当に、すまなかった。俺は、お前たちのことを、ずっと信じていなかった。だが、今日、この目で見た。お前たちは、本当に異世界から来た、五光の勇者なのだと」
お父さんの目には、再び涙が浮かんでいた。お母さんは、そんなお父さんの言葉を、静かに、そして温かく受け止めた。
「あなた…」
お母さんは、私に視線を向け、意を決したように切り出した。
「剛さん…エリアス様が言っていたの。花は、ルシアン様たちと、年越しを境に元の世界に戻ってしまうのよ…」
お母さんの言葉に、お父さんは目を見開いた。
「な…そんな…花…!」
お父さんの声には、信じられないという思いと、私との別れを惜しむ気持ちが入り混じっていた。
「勇者たちも、この世界でずっと暮らせばいいではないか!この世界でなら、お前たちも英雄として迎えられるはずだ!」
お父さんは、必死な面持ちでそう提案した。
私は顔を歪めた。「お父さん…それは…」
言葉に詰まって、ルシアン様を見た。
ルシアン様は、私の両親の言葉を真っ直ぐに受け止めていた。彼の表情はいつも通り冷静に見えたけれど、ほんの一瞬、その瞳の奥に深い葛藤のようなものが揺らいだ気がした。何かを堪えるように、苦渋の思いで静かに口を開いた。
「剛殿。我々には、我々の世界で待つ者がいる。大切な使命も残っている。ここは、我々の本来いるべき場所ではないのです」
ルシアン様の言葉に、お父さんは唇を噛みしめた。
そして、私に視線を戻す。
「だが、花…この佐倉花の世界にも、お前を待つ者はいるだろう…?」 お父さんの言葉に、私は困惑した。
両親との別れは、最初から覚悟していたことだ。しかし、実際にその時が近づくと、やはり胸が締め付けられる。
「ごめんなさい…でも、エリアス様も、行き来できるって言ってたし…」
私が言いかけると、アルドロンさんが静かに口を挟んだ。
「いや、セラフィナ。確かにエリアス様がいれば、お主の単独での行き来は可能だ。だが、それはエリアス様の許可があってこそだ。それに、お主一人での行き来は、正直、懸念が残る。何かあった時、我々がすぐに駆けつけられないからな」
アルドロンさんは、一旦言葉を切って、ルシアン様たちの方に視線を向けた。
「それに、ルシアン含め我々勇者は、佐倉花殿の世界に本来存在しない魂だ。我々が頻繁にこの世界を行き来すれば、空間に大きな歪みを生じさせてしまう可能性は否定できない。今回の魔物騒ぎも、陽子殿が異世界を行き来したことで、空間に歪みが生じたのが原因の一つだと推測されている」
アルドロンさんの言葉に、私だけでなく、ルシアン様たちも沈黙した。
私自身は行き来できるかもしれないとはいえ、一人では危険が伴うこと。そして、ルシアン様たちが自由に行き来すれば、この世界に再び危険が及ぶ可能性があるという事実は、私たちの心を重くした。
重苦しい空気が流れる中、お母さんが、意を決したように明るい声を上げた。
「大丈夫よ、花!年末までじゃあ、たっぷり花を可愛がらせてよ!ねえ、ルシアン様?花を少しの間、私たちの娘として、そばに置いておいてもらえますか?」
お母さんの言葉に、ルシアン様は温かい眼差しで私を見た。
「当然だ、陽子殿」
ルシアン様の言葉に、お母さんは安堵の表情を浮かべ、私をぎゅっと抱きしめた。
それから私は、佐倉花として、両親と過ごす時間をできる限り多く取るように心がけた。
一緒に食卓を囲み、テレビを見て笑い、他愛もない会話を交わす。一つ一つの日常が、かけがえのない思い出となっていった。
そして、クリスマスイブ。
ルシアン様は、お母さんに事前にイブの夜は私とデートさせて欲しいと頼んでいたんだ。
「花。ルシアン様が、今晩出かけたいそうよ」
私は胸が高鳴った。
ルシアン様と、それもクリスマスイブにデート。それは、ルシアン様と過ごす特別な夜になるだろう。
私の心は、期待と、そして少しの緊張でいっぱいになった。




