第十五章(3):戦いの後の安堵と、賑やかな「推し活」
魔物が霧散し、静寂が戻ったイベント会場の外。
お父さんは、崩れ落ちるように膝をついたまま、呆然と私たち「五光の勇者」を見上げていた。
彼の脳裏には、漫画で読んだ物語の情景と、今目の前で繰り広げられた現実が、完全に重なり合っているようだった。
「お父さん!」
私は、ほっとしながらも、彼のことが心配で駆け寄った。
ルシアン様たちも、お父さんの様子を心配そうに見守ってくれている。
「花…お前たちが…本当に…」
お父さんは、震える声で呟き、立ち上がった。
彼の視線は、もはや私たちの『コスプレ衣装』の向こう側、私たちが放つ確かな『本物』の輝きを捉えていた。
やったー!やっとだよ、お父さん!
「…よく、やった…ありがとう…」
心からの感謝の言葉が、お父さんの口から漏れた。
その言葉には、これまで私たちが異世界から来たという話を頑なに拒否してきた自分への後悔と、娘の婚約者を疑ってしまったことへの謝罪の念が込められているのが、私にはよくわかった。
彼は、今度こそ、目の前の現実を、そして私たちの存在を、完全に受け入れたのだ!
わーん、感無量だよ!
お父さんは、安否を確かめるように、帝都守護剣士隊の隊員たちに目を向けた。
幸い、大きな怪我をしている者はいないようだった。
「おい、みんな!大丈夫か!?すぐに報告に戻るぞ!」
お父さんは、まだ混乱している様子の隊員たちに指示を出し、彼らの無事を確認すると、私たち勇者たちに深々と頭を下げた。
「では、私はこれで…また、改めて礼を言わせてくれ」 そう言い残し、隊員たちと共に、現場を後にした。
彼の背中は、どこか吹っ切れたような、それでいて新たな決意を秘めているように見えた。
よかったね、お父さん!きっと今夜はぐっすり眠れるはず!
お父さんたちを見送った後、私たちは、改めて会場へと足を踏み入れた。
先ほどの騒動は、イベントの「リアルな演出」として、来場者の間で話題になっているようだった。誰もがスマホ片手に「すごかったね!」「本物みたいだったね!」って言い合ってた。
ふふふ、本物ですよーだ!
「良かったです!ルシアン様!お父さん、信じてくれました!」 私は、ルシアン様を見上げて満面の笑みを浮かべた。
「ああ。お前の熱意が、彼の心を動かしたのだろう」 ルシアン様もまた、穏やかな笑顔で頷いてくれた。その瞳には、安堵と、私への深い愛情が宿っているのが見て取れた。
ああ、ルシアン様!大好き!
「さあ、セラフィナ君!買い物の続きと行こうじゃないか!」 エリアス様が、にこやかに私に声をかけてくれた。
彼女の声には、先ほどの緊張感は微塵もなく、いつもの陽気な雰囲気が戻っていた。
さすが神様、切り替えが早い!
「はい!えありす先生!」 私は、目を輝かせながら、足早に『魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語』のブースへと向かった。
ブースでは、相変わらず多くの人々が列をなし、新作グッズや薄い本を手に取っていた。
私は、興奮のあまり胸が高鳴り、次々と商品をカゴに入れていった。
「見てください、ルシアン様!このルシアン様のキーホルダー、すごく可愛い!うおおお!このアクスタも最高です!」
「このルシアン様のフィギュア、細かいところまで再現されてて、尊すぎます!」
私は、自身の「推し」であるルシアン様のグッズを見つけるたびに、興奮した声を上げた。
自分の姿を模したグッズに一喜一憂する私に、ルシアン様は、ぴったりと寄り添い、隣で、微笑ましそうにその様子を見つめている。
よし!せっかくだから、あの等身大パネルも全員分買っちゃお!
ルシアン様のも、カスパール君のも、ローゼリアちゃんのも、アルドロンさんも!
推しは全員揃えるのが基本でしょ!
家に飾ったら最高に幸せになること間違いなし!
どうやって持って帰るかは、エリアス様に後でお願いすればいいよね!
きっと神様だから何とかしてくれるはず!
―――カスパールとローゼリアもまた、一緒に買い物を楽しんでいた。
「カスパール君、これ!このイラストのあなた、すごくカッコいいわ!」
ローゼリアは、カスパールのイラストが描かれた缶バッジを指差し、目を輝かせた。
「ば、馬鹿か…!こんなもの、どこがいいんだ…」
カスパールは、照れ臭そうにそっぽを向くが、その耳はほんのり赤く染まっていた。
「あら、カスパール君!見て!このフワワのぬいぐるみ、とっても可愛いわ!モフモフしてる!」
ローゼリアは、ピンク色のウサギのようなフワワのぬいぐるみを抱きしめ、頬擦りした。
「わあ!私、これほしいわ!」彼女は迷うことなく、そのぬいぐるみをカゴに入れた。
アルドロンも、知的な好奇心旺盛な彼らしく、様々なグッズや本に興味を示していた。特に、彼が手に取ったのは、クリエイターたちが制作した同人誌の山だった。
「ふむ…この世界の人間は、我々の物語を、ここまで深く解釈し、自らの想像力で新たな物語を紡ぎ出しているのか。実に興味深い。これは、新たな学術的資料となるだろう」
そう呟くと、アルドロンは、熟考することなく、棚に並べられた『魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語』の同人誌を、片っ端からカゴへと入れていった。
その様子を見たエリアスは、少し苦笑しながらも、止めようとはしなかった。
イベント会場は、戦いの後の安堵と、それぞれの「推し活」の熱狂が入り混じり、活気と幸福感に満ち溢れていた。
最高の一日だ!




