第十五章(1):イベントの朝、神々の降臨、そして父の葛藤
イベント当日!
早朝から、私とお母さん、そしてルシアン様たちが準備に余念なく、佐倉家のリビングは賑わっていた。
朝食を終えたとき、突然リビングの中央に眩い光が迸った。
わ、眩しっ!思わず目を閉じちゃったよ!
光が収まると、そこに立っていたのは、見慣れたエリアス様……なんだけど、その装いは、キャリアウーマン風のスーツ姿じゃない!
純白のドレスに金の刺繍が施され、背中には大きな白い翼、頭上には煌めくティアラ!
それって、まさに「女神のコスプレ」じゃないですかー!
「えありす先生!」
お母さんは、憧れの作者の「神々しい」姿を目の当たりにして、感極まったように叫んだ。
もう、興奮で目がキラッキラ!まるで少女みたいだった。
そして、リビングの隅で新聞を読んでいたお父さんは、目の前の光景に思わず持っていた新聞を落とした。彼の目は飛び出るほど大きく見開かれ、口は半開きになったまま、言葉を失っている。
再び目の前で繰り広げられる「現実離れした出来事」に、彼の脳は処理能力を超えてオーバーヒート寸前って感じだった。
「エリアス様!わあ、女神のお姉さま!あの時、ルシアン様のアクスタをいただいたんですよね!懐かしい!」
私もまた、エリアス様の「女神コスプレ」を見て、初めてイベントで出会った時のことを思い出した。
エリアス様、あの時は本当にありがとうございました!
エリアス様は、にこやかに微笑んだ。
「陽子殿。素晴らしいです。衣装の出来栄え、想像以上ですよ」 エリアス様からの直接の賛辞に、お母さんは感激のあまり、両手で顔を覆って「も、もったいないお言葉です、えありす先生!こんな、こんな光栄なことはございません!」って、もう完全に昇天寸前だった。
その横で、お父さんが震える声で呟いた。
「よ、陽子…おい、花…な、なんだ…これは…」
エリアス様は、お父さんの方に視線を向け、優しく微笑んだ。
「さあ、皆さん、そろそろお着替えの時間ですよ。私もこの姿では、少々動きにくいもので」 そう言って、エリアス様は指を鳴らした。
すると、リビングに並べられていた五人分の衣装が、それぞれ淡い光を放ち始めた。
「じゃあ、みんな、着替えるよ!」
私の声に、皆はそれぞれの衣装を手に取り、部屋へと向かった。いざ変身!
数分後、再びリビングに集まった五人の姿は、まさに物語の世界から飛び出してきたかのようだった。
ルシアン様は、魔王としていつも身につけている漆黒のローブ姿!
彼の高貴な雰囲気を一層引き立てていて、はぁ、尊い……。
アルドロンさんの深緑の賢者の服は、彼の知的な佇まいを際立たせる。
ローゼリアちゃんの桃色のドレスは、彼女の可憐さを際立たせて、まさに花!
そして私は、佐倉花の黒髪に焦げ茶色の瞳から、赤いウィッグと緑色のカラーコンタクトで、物語そのままのセラフィナの姿になっていた。
うん、完璧!
「やっぱり、いつもの格好って落ち着くね!」 私が笑顔で言うと、ルシアン様もアルドロンさんも頷いてくれた。
「ああ、セラフィナ…佐倉花ではなく、セラフィナだな」 ルシアン様が静かに呟くと、私は嬉しそうに微笑んだ。
(ルシアン様、やっぱり魔王の姿、最高にクールです!)
「うむ、確かに。馴染むな」 アルドロンさんが満足げに呟く。
しかし、カスパール君だけは、どこか居心地が悪そうにそわそわしていた。
彼の身に着けているのは、魔導士のマント付きのクールな魔法衣。いつもの見慣れた服装のはずなのに、なんだか落ち着かないみたい。
「なんだか、不思議な気分だな。まさか、この格好でこの世界の人前に立つことになるとは…」
カスパール君がぶつぶつと呟くと、ローゼリアちゃんが目を輝かせて言った。
「やっぱりカスパール君は何を着てもカッコいいわ!今の髪型でも似合うわよ!」
ローゼリアちゃんの純粋な賛辞に、カスパール君は、わずかに顔を赤らめてそっぽを向いた。
「ば…馬鹿か、ったく…いつもの格好しただけだろうが…全く…」 もう、カスパール君ってば、そういうとこが可愛いんだから!
そのやり取りを微笑ましく見守っていたエリアス様が、静かに口を開いた。
「よし、では、セラフィナ君の聖剣と、アルドロン君の杖も、元の大きさに戻そうか」 エリアス様がサラリと言うと、私のキーホルダーサイズの聖剣と、アルドロンさんのキーホルダーサイズの杖が、それぞれ眩い光を放ち、本来の輝きと大きさを取り戻した。
ひゃー、かっこいい!
私は、見慣れた聖剣の感触を確かめるように、ぎゅっと握りしめた。
アルドロンさんも、杖の重みを確かめるようにゆっくりと構える。
そこに立つ、五光の勇者たち。そして、女神の姿をしたエリアス様。
その光景は、あまりにも神々しく、お母さんは感嘆の声を上げた。
「はぁ…!神々しい…!まさに、物語の中から飛び出してきたのね…!」
――― 剛は、その光景を呆然と見つめていた。
彼の脳裏には、昨晩、読んだ漫画のページが鮮やかに蘇っている。
そこに描かれていたルシアンや勇者たちの姿と、今、目の前にいる彼らの姿が、寸分違わず一致していることに驚きを隠せない。
剛の心に、これまで信じまいと必死に蓋をしてきた「現実」が、じわりと染み込もうとしている。しかし、彼の頑固な思考は、それでも抵抗しようとする。
「いや…陽子や、この女神の女性は、きっとマジックを使ったんだ…!花の婚約を俺に認めさせるための、壮大なマジックに違いない…!」 剛は、自分自身に言い聞かせるように、震える声で呟いた。
彼の理性が、目の前の超常現象を拒絶しようと必死だった。
「さあ、皆さん、そろそろ時間ですよ!イベントに行きましょう!」
エリアスが楽しげに言うと、再び、彼らの宝珠が激しく輝き始めた。
「では、移動しますよ!」 エリアスの言葉と共に、光がリビングを包み込み、次の瞬間には、五人の勇者と女神の姿が、そこから消え去った。
陽子は、呆然と、光が消えた空間を見つめていた。
彼女の顔には、感動と興奮が。
剛は、その場に立ち尽くしていた。
目の前で起こった出来事は、彼の「現実」という枠組みを大きく超えていた。マジックのレベルなどではないことは、彼も理解していた。
それでも、彼の口からは、何度も同じ言葉が漏れ落ちる。
「…ありえない…!ありえない…!」 彼の心は、信じられない現実と、それでも信じたくない理性との間で、激しく葛藤していた。―――




