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第十四章(3):コスプレの誘惑と、魔王たちの戸惑い


イベントを心待ちにする私は、もう毎日浮かれまくっていた。

ルシアン様はいつも私と一緒にいてくれる。おうちでくつろいだり、ショッピングに出かけたりと、毎日ハッピー!


そんなある日の午後、リビングでくつろいでいたルシアン様たちに、私は自分のスマートフォンを差し出した。


「見てください、ルシアン様!これ、私が以前、イベントに行った時の写真なんです!」


画面に表示されたのは、私が「佐倉花」としてイベントに参加した時に、ほんの数回だけ「セラフィナ」のコスプレをした時の写真だった。


赤い髪に緑の瞳、そして物語に登場する聖剣を身に着けた自分の姿がそこに映し出されている。

うーん、自画自賛だけど、結構似合ってる!(あたりまえや!)。


このセラフィナのコスプレは、かなり好評だったんだ。

通りすがりの人にも「すごく似合ってますね!」「写真撮らせてもらってもいいですか?」なんて声をかけられて、たくさん写真を撮られたんだよ!



ルシアン様は、その写真を見て、わずかに目を見開いた。


「これは……セラフィナの姿ではないか?」 いや、だからコスプレだって!

でも、そう見えちゃうくらい似合ってるってことかな?


私は照れたように笑いながら頷いた。

「はい!佐倉花がセラフィナのコスプレをしたんです!この世界では、好きなキャラクターの服装を真似て、そのキャラクターになりきる文化があるんですよ!」


「なるほど…興味深い文化だな」 ルシアン様が静かに呟くと、その隣でアルドロンさんが、私のスマホを器用に操作し始めた。


「セラフィナ、その『イベント』について、この世界の情報網『インターネット』で調べてみよう。何か関連情報が得られるかもしれん」 そう言うと、アルドロンさんは検索窓に「五光の勇者の物語 イベント」と入力し、検索ボタンをタップ!



画面には瞬く間に、大量の情報が表示された。



特に、目を引いたのは、多数のコスプレイヤーたちの画像!

色とりどりの衣装を身につけ、それぞれのキャラクターになりきった人々の姿が、そこにはあった。



「ほう…これはまた、見事なものだな。彼らは、我々の姿を模しているのか…」

アルドロンさんは感心したように画像をスクロールしていく。


すると、ある一枚の写真で動きを止めた。そこには、ルシアン様の姿を模した男性コスプレイヤーが、笑顔でポーズを決めている姿が映っていた。しかし、その顔はルシアン様とは似ても似つかない。



ルシアン様の眉間に、わずかに皺が寄る。


「これは…俺の姿を模しているというのか…?」彼の声には、僅かな不満の色が混じっていた。



そして、さらにスクロールされた画面に映し出されたのは、先ほどのルシアン様のコスプレをした男性と、セラフィナのコスプレをした私、つまり佐倉花が、笑顔で肩を並べて写っているツーショット写真だった。



ルシアン様の蒼い瞳が、不穏な光を宿す。

彼の視線は、写真の中の男性から、私の顔、そして再び写真へと、行ったり来たりしている。

口元は一文字に引き結ばれ、額にはくっきりと深い縦皺が刻まれていた。



「セラフィナ。この男は…誰だ?」



氷のように冷たい声が、静かなリビングに響き渡る。その場の空気が一瞬で凍り付いたような気がした。


アルドロンさんもカスパール君もローゼリアちゃんも、全員が固唾を飲んでルシアン様を見つめている。私も思わず背筋が伸びた。


「えっ、あ、この人は…イベントで偶然会った、ルシアン様のコスプレをしていた方で…『一緒に写真撮りませんか?』って言われて…」

しどろもどろになりながら答える私に、ルシアン様の視線はますます鋭さを増す。



彼の隣にいたアルドロンさんが、慌てたように口を開いた。


「ルシアン、これはこの世界の『ファン交流』というものだ…」


アルドロンさんの説明も、今のルシアン様の耳には届いていないようだった。彼は写真の中の男性から目を離さず、低く呟いた。



「…お前の隣に立つのは、俺だけだ、セラフィナ」



その言葉に、私の胸はキュンとなった。そして、同時に、彼の独占欲が露わになったことに、喜びと少しの戸惑いが入り混じる。


(あぁ…ルシアン様が、嫉妬してる…!なにこれ、推しが可愛すぎる!!こんな魔王、どこにもいないよ!!)


私は、思わず心の中で叫び、顔がにやけるのを必死で堪えた。


ルシアン様の拗ねたような表情が、私にはたまらなく愛おしく見えたのだ。


私は、この重い空気を何とかしたくて、慌てて話題を変えようとした。



「あとは、ローゼリアちゃんの可愛らしい衣装を再現した女性コスプレイヤーさんたち。皆、クオリティが高いんです!カスパール君のコスプレイヤーさんもいますよ!」


私は興奮気味に画面を指差したが、ルシアン様の視線は、再び先ほどの男性コスプレイヤーが写った写真に戻っていた。


普段は滅多に感情を表に出さない彼の表情が、どこか落ち着かないように見えた。


(あれ?ルシアン様、まだ気にしてる…?いや、むしろ、さっきよりも不機嫌になってるような…?)



ルシアン様は、私のスマホに表示されたままの画面、特にあのツーショット写真に釘付けになっている。


彼の蒼い瞳には、まだ底知れない不満と、獲物を見据えるような鋭さが宿っていた。このままでは、せっかくの楽しいイベントの話が台無しになってしまうかもしれない。




そして、同時に私の脳裏に、ある閃きが走った。



そうだ、これだ!



ルシアン様のこの独占欲と、私たちがこの世界の『物語のキャラクター』そのものであるという事実を結びつければ、父に私たちの存在を信じてもらい、そして何より、自分たちがこの世界で何者であるかを伝えるための、最高の機会ではないか!


これしかない!



私は、期待に満ちた瞳でルシアン様たちを見回した。


「ルシアン様!アルドロンさん!カスパール君!ローゼリアちゃん!」


皆が私の勢いに、ハッとこちらに注目する。



「私、閃きました!今回のイベント、私たちも、コスプレして参加しませんか!?」



私の提案に、ルシアン様、アルドロンさん、カスパール君、ローゼリアちゃんは、一斉に目を見開き、言葉を失った。



「「「「…え?」」」」



ルシアン様は、困惑したように私を見つめた。


アルドロンさんの表情は思考の海に沈んで、脳内で計算式がグルグル回ってるのが見えるようだ。


カスパール君は顔をしかめて「またか…」って言いたげだし、ローゼリアちゃんは目をパチクリさせている。



「チッ!俺たちが、この世界の人間の真似事をするというのか!?」

カスパール君が、まず戸惑いを露わにした。


そりゃそうよね、いきなり「普段着でコスプレしようぜ!」なんて言われたら、そりゃ戸惑うわ。



「いや、違うんだ!これは、この世界の人たちが、私たちを、物語のキャラクターとして愛してくれている証なんだよ!だから、私たちがコスプレをすることで、その感謝の気持ちを伝えることができるし、何より、私たちが本当にその物語の登場人物なんだって、お父さんにもわかってもらえるかもしれないじゃない?」


私は、熱意を込めて訴える。


私の言葉は、ルシアン様たちの胸に、じわりと響いていく。

物語の登場人物として、この世界で愛されているという事実。

そして、その愛に応えるということ。



ルシアン様は、静かに目を閉じ、そしてゆっくりと開いた。彼の蒼い瞳には、迷いではなく、ある種の決意が宿っていた。


「…セラフィナ。お前の言うことも一理ある。この世界の文化を知る、良い機会になるのかもしれない。それに…」彼はちらりと、先ほどの男性コスプレイヤーの写真をもう一度見た。


「…他の者に、俺の姿を安易に模倣されるのは、どうも…気に入らない。ましてや、お前と並び立つなど、許されることではない。本物である俺が、お前と共に立つべきだ。」


魔王であるルシアン様が、まさかのコスプレに前向きな姿勢を見せたことに、私は歓喜の雄叫びを上げた!



やったー!



アルドロンさんも、冷静にメリットとデメリットを天秤にかけ、最終的には「…学術的な好奇心を満たす良い機会でもある」と頷いた。

賢者様、どんなことでも学びに繋げちゃうんだから、さすが!


カスパール君は最後まで渋っていたけど、ローゼリアちゃんに「カスパール君、似合うわよ、きっと!」とキラキラした笑顔で言われ、結局は「馬鹿か…いつもの格好するだけだろう」と不承不承ながらも同意した。



もう、ツンデレなんだから!



こうして、佐倉家のリビングでは、冬のイベントに向けた、異色のコスプレ計画がひっそりと動き出したのだった。




コスプレというよりは、もともとの世界の格好をするだけだけどね!





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