第十二章(4):すれ違う心と、交錯する想い
枕に顔をうずめて泣き続けた私の元に、ローゼリアちゃんとカスパール君が来てくれた。
ローゼリアちゃんは私の背中を優しくさすってくれ、カスパール君は少し離れた場所で腕を組み、いつもの不機嫌そうな顔で立っていた。
「セラフィナちゃん、どうしたの?ルシアン様と何かあったの?」
ローゼリアちゃんの優しい問いかけに、私は涙声で昨日の出来事を話し始めた。
ルシアン様が急に冷たくなったこと、他の女子学生と親しげにしていたこと、そして私の言葉に冷たく返したこと。感情のままに、心に抱えた不安と悲しみをぶちまけた。
「私、ルシアン様に嫌われたのかもしれない…魔界に帰っちゃうのかな…」
私の言葉を聞き終えると、カスパール君が「ふん」と鼻を鳴らした。
「お前、馬鹿か」
突然のカスパール君の言葉に、私はびくりと顔を上げた。ローゼリアちゃんも驚いたようにカスパール君を見る。
「カスパール君!なんてことを言うの!」
ローゼリアちゃんが咎めるように言うが、カスパール君は顔色一つ変えない。
「いいか、セラフィナ。あのルシアン様が、お前を嫌うわけねぇだろうが。あの方がどれだけお前を大事にしてるか、見てりゃわかるだろうが」 カスパール君のぶっきらぼうな言葉だったが、その中に確かなルシアン様への信頼と、私への不器用な優しさがにじみ出ていて、私の心臓が少しだけ震えた。
「じゃあ…どうしてあんなに冷たかったの…?私、すごく傷ついたのに…」
「それは…」
カスパール君は一瞬言葉に詰まった。
「ルシアン様なりに、この世界の何かを真似しようとしたんじゃねぇか?どうせ、お前の母親が見てる変な映像とか、本とか見て、勘違いでもしたんだろうよ」
「変な映像って…ドラマとかいうもの?」 ローゼリアちゃんが首を傾げた。
カスパール君は「知らねぇよ」とそっぽを向いたが、その顔にはどこか呆れたような色があった。
「でも、ルシアン様が、そんな…恋愛ドラマを真似するなんて…」 私は信じられない気持ちで呟いた。
だが、考えてみれば、この世界に来てからルシアン様が知らないことを積極的に学ぼうとしている姿を何度も見てきた。実際、リビングで母の陽子とドラマを真剣に見ていたのを思い出す。
恋愛指南書を読んでいた可能性も、ゼロではない。
「しかも、あの、健太郎とかいう奴がお前に気があるからって、ルシアン様はあの男のこと、かなり警戒してるぜ。ルシアン様は、あいつを俺に見張らせてるんだぜ」
そして、カスパール君は言葉を続ける。
「それに、セラフィナ、お前もお前だ。いつまでも親とか友達に婚約の報告しねぇから、自信なくしてんだろ。あの魔王様が、異世界で、まさかの一途な恋に悩んでるってか。笑えねぇな」
カスパール君のぶっきらぼうな言葉だったが、その中にルシアン様を心配する気持ちと、そして私の気持ちを汲み取ろうとする優しさが感じられた。
ルシアン様が、私のせいで悩んでいたなんて。そして、健太郎が私に好意を抱いていることを、ルシアン様が気にしているなんて。私の知らないところで、色々なことが動いていたことに、私は衝撃を受けた。
「ルシアン様のことだ、きっとおかしな解釈でもして、盛大にやらかしたんだろ。ま、明日にでも聞いてみろよ。」 カスパール君はそう言って、再び腕を組んだ。
ローゼリアちゃんは、私の手を優しく握りしめた。
「そうよ、セラフィナちゃん。きっと、ルシアン様にも何か理由があるわ。明日、ちゃんと話を聞いてみましょう?それに、婚約のことも、きっとルシアン様は気にしてるわ。セラフィナちゃんのご両親に、きちんと話してみるべきよ」
二人の言葉に、私の心に少しだけ光が差し込んだ。
まだ不安は残るけれど、一人で抱え込むよりは、ずっと心が軽くなった。
そして、二人の言葉で、私の心に新たな決意が生まれた。
(そうだ、私がちゃんと話さなきゃ。ルシアン様を不安にさせてたのは、私だったんだ…!)
友人に話しても理解してもらえなかったから、怖かったけど、今度こそ両親に話そう。
私は、明日、両親にルシアン様との婚約について、全てを話すと心に決めた。




