第十一章(2):それぞれの学園生活
月曜日。今日から、いよいよ勇者たちの学校が始まる。
私とローゼリアちゃんはセーラー服。カスパール君は紺色の詰襟の学ラン姿だ。ルシアン様とアルドロンさんは、週末に購入したばかりのカジュアルな服に身を包んでいる。
ルシアン様は、洗練されたデザインのスポーツブランドのパーカーに、体にフィットするジーンズを合わせていた。シンプルな装いにもかかわらず、相変わらずの完璧なスタイルと圧倒的な美貌だ。
アルドロンさんは、落ち着いた色合いのチェックシャツにチノパンという、まさに「理系学生の王道コーデ」とでも言うべき装いだった。清潔感があり、彼の知的な雰囲気にぴったりと合う。
二人の洗練された佇まいは、制服姿の私たちとはまた違った魅力を放っていた。
「よし、みんな、準備はいい?」
私が声をかけると、皆が頷く。こうして、私たちの異世界からの「留学生」としての学園生活が始まった。
通学路では、私たちの姿に振り返る人はもう少なくなっていた。
さすがに毎日見慣れない美形集団が歩いていれば、最初は驚くものの、人間は順応する生き物なのだろう。それでも、すれ違う人々の視線が私たちに向けられているのは感じられたが、以前のような騒ぎになることはなかった。
しかし、校門を抜けた途端、空気が一変する。
「キャー!ルシアン様、おはようございます!」「カスパール君、今日も素敵!」「ローゼリアちゃん、可愛いー!」
女子生徒たちの甲高い声が響き渡る。さすがに高校生だ。ミーハーな層はまだまだ健在らしい。私ももう慣れたもので、軽く会釈をしながら歩を進めた。
昇降口で、ルシアン様が私たちの方を向いた。
「ルシアン様たちは大学へ。終了時刻も違うので、ここからは別行動になりますね」
私の言葉に、ローゼリアちゃんが少し寂しそうな顔をする。「そうなのね…」
ルシアン様は、私に向かって手を伸ばし、私の頬をそっと撫でた。「セラフィナ…また後で」その瞳は、別れを惜しむように揺れていた。
(あぁ、ルシアン様が悲しそうな顔してる…!)
後ろ髪を引かれる思いで、私はルシアン様から離れた。
「じゃあ、ルシアン様、アルドロンさん、行ってらっしゃい!」
私が手を振ると、ルシアン様は名残惜しそうに頷き、アルドロンさんと共に大学へと続く道を進んでいった。
カスパール君とローゼリアちゃんと三人で、高校の教室へと向かう。校内を移動中も、相変わらず女子生徒たちの熱い視線が注がれていた。特にカスパール君の周りは、一種異様な熱気を帯びている。
「カスパール君、おはよう!」「今日も、最高にクール!」
そんな声が飛び交う中、一人の女子生徒が意を決したようにカスパール君に近づいた。
「あのっ!カスパール先輩!私に、何か、きつい一言を…!」
彼女は、なぜか興奮した面持ちで、カスパール君にひどいことを言われたいとでも言うかのように、期待に満ちた目で彼を見上げている。
カスパール君は一瞬眉をひそめたが、すぐにいつもの不機嫌そうな表情に戻った。
「…あぁ?テメェには何も言うことはねぇ。とっとと失せろ」
その言葉に、女子生徒は「ひぃっ…!ありがとうございますっ!」と、なぜか恍惚とした表情で、頬を赤らめて去っていった。
(なにこれ…これが世に言う『ドM』ってやつ!?)
私は思わずツッコミそうになったが、なんとか堪えた。
隣にいたローゼリアちゃんは、そんな女子生徒たちを見て、悔しそうに唇を噛みしめていた。そして、カッと熱くなった頬のままで、そっとカスパール君の腕に、自分の腕を絡ませた。
彼女の普段の控えめな態度からは考えられない積極的な行動に、カスパール君は目を見開き、一瞬動きを止める。
「カスパール君、早く行きましょう?」
ローゼリアちゃんの言葉に、カスパール君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「…分かったよ」と呟き、腕を絡ませたまま歩き出した。周りの女子生徒たちは、その光景を見て「キャー!」と悲鳴のような声を上げている。
(うーん、先が思いやられるなぁ…)
一方、大学では、ルシアン様とアルドロンさんが、高校とはまた違った意味で大変なことになっていた。
「キャー!見て、あの人たち!モデルさん!?」「え、何あの美しさ…同じ人間とは思えない…!」
キャンパス内を歩くだけで、女子大学生たちの大騒ぎだ。
ルシアン様の圧倒的な美貌と、アルドロンさんの知的な雰囲気が、普段は落ち着いた大学生たちをも興奮の渦に巻き込んでいる。
今日は工学部の授業と実験を見学させてもらうことになっていた。
工学部は、他の学部に比べて幸いにも女子学生が少なめだ。しかし、その少ない女子学生たちまでもが、ルシアン様たちの姿を見るやいなや、頬を赤らめ、中には「尊い…!」と呟いて倒れそうになる者までいる。
真面目で、あまりそういうことに興味がないと思われていた理系女子のグループが、実験棟でルシアン様たちと一緒に見学をしていた。
彼女たちは最初は淡々と実験の説明を聞いていたが、アルドロンさんが教授の話に深く頷き、時折鋭い質問を投げかける姿、そして複雑な数式をさらさらと書き出して見せる姿に、徐々にその瞳が輝き始める。
「あの…すごいですね、アルドロンさん…」「ええ、この理論を応用すれば、さらに効率的なエネルギー変換が可能になるのでは…?」
アルドロンさんの優秀な頭脳と、深い知識に触れるうちに、彼女たちは完全に魅了されてしまったようだ。
しかし、そこでアルドロンさんが口を開くと、彼の口から飛び出すのは、その洗練された見た目からは想像もつかない、まるで古風なおじいさんのような丁寧な話し方だった。
その意外なギャップに、理系女子たちは再び胸をときめかせ、「っ…!最高…!」「まさか、こんなに…!」「ギャップ萌えって、このことね…!」と、新たな萌えの境地を開拓しているようだった。
ルシアン様ももちろん人気だが、ここでは、アルドロンさんの人気が異常なほど高かった。
理系女子の憧れの対象は、やはり頭脳明晰な男性なのだろう。
「やはり、この世界の科学技術は興味深い。特にこの『AI』とやらは…その応用範囲は遥かに広い…」アルドロンさんは、女子学生たちの熱い視線に全く気づくことなく、夢中になって教授と議論を交わしている。その姿は、まるで知の探求に没頭する若き賢者のようだった。




