第七章(3):教室の波乱と、揺れる感情
「はぁ!?変な漫画ってなんだよ!あんたたちに私の推し活の何がわかるっていうのよ!」
私は思わずガタッと席を立ち上がった。
怒りの炎が心臓から全身に燃え広がり、今にも掴みかからんばかりの勢いで、加藤さんたちを睨みつけた。
(よくも言ったわね、あんたたち!私のルシアン様を、私の推しをバカにするなんて、絶対に許さないんだから!)
すると、カスパール君が冷たい視線を女子生徒たちに向け、口角をわずかに上げた。
「ちっ。『変な漫画』で悪かったな。お前たちのような愚鈍な輩には、俺たちの世界の、いや、その根底にある真の価値など、塵ほども理解できまい。分不相際も甚だしい」
彼は、皮肉たっぷりどころか侮蔑すら含んだような言葉を、信じられないほど流暢な日本語で言い放った。
その声には、冷たい氷のような響きがあった。
ワイルドなイケメンに突然話しかけられたこと、そしてその完璧な日本語に、女子生徒たちは一瞬、息を呑み、ぽかんと口を開けて彼を見つめた。
しかし、彼の言葉の意味を理解すると、顔色を変えてたじろぐ。
教室中の視線が、カスパール君と女子生徒たちに集まる。
その時、温厚なローゼリアちゃんが珍しく眉を吊り上げた。
彼女の普段の穏やかな表情からは想像もできないほどの、強い怒りが瞳に宿っている。
「あなたたち、セラフィナちゃんがどれほど私たちの世界を救ってくれたか、何も知らないのね!彼女の真の価値は、あなたたちには決して理解できないわ!彼女こそ、真の勇者よ!」
その声には、普段の優しいローゼリアちゃんからは想像もできないほどの、はっきりとした怒気が含まれていた。
女子生徒たちは、その豹変ぶりにギョッとして、思わず後ずさりする。
教室中に、さらに緊迫した空気が走る。
「なに!意味わかんない!」と、一人の女子生徒が先に声を上げた。
それに続くように、加藤さんが悔しさと不満をあらわにして喚き散らした。
「なによ、本当はうちがホームステイを受け入れたかったのに!うちの方があの子の家より全然裕福だし!うちのパパは、この学園の理事長なんだから!なのに、なんで花の家なのよ!あんな古い家、何がいいっていうのよ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の隣にいた健太郎が、信じられないものを見るような目で女子生徒たちを睨みつけた。
「てめぇら!花の家のことを悪く言うなんて信じられないぜ!佐倉先生は、帝都守護剣士隊の隊長で、この国の帝都を守っているお方だ!先祖代々、この国の守護に命を捧げてきた家系なんだぞ!佐倉先生ほど、この国の剣の道に真摯に向き合い、その普及と発展に尽力してきた方はいない!この国で、彼の名を知らぬ剣士はいないんだ!花だって、剣の道に進んだのは、そんな先生の背中を見て、国を思う気持ちからなんだ!お前らみたいな奴らに、花の生き方や、その家族の誇りが理解できるかよ!」
健太郎は、普段はぶっきらぼうなくせに、感情をあらわにして女子生徒たちに言い返した。
彼の言葉は、剣士らしい真っ直ぐな魂のこもったものだった。
彼の熱い言葉に、私は胸が熱くなった。
「健太郎…ありがとう」 私が思わず呟くと、健太郎は照れたように顔を逸らしたが、その目に宿る真剣な光は隠せなかった。
――健太郎が花を庇う言葉を発した瞬間、ルシアンの澄んだ蒼い瞳が健太郎の視線と絡み合った。
一瞬、二人の間に微かな緊張が走る。――
やがてルシアン様は、その視線を女子生徒たちに戻すと、柔らかい口調でありながら、有無を言わせぬ強い意志を込めて告げた。
「ホームステイ先は、花の家でなければならない。この俺がそう決めたのだ。俺にとっては、それ以外の選択肢など存在しない」
ルシアン様の言葉は、その場にいた全員の耳に、はっきりと響き渡った。
それは、まるで絶対的な王の宣告のようだった。
女子生徒たちは、反論の言葉を見つけられず、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
教室中に、しんと静まり返った空気が広がる。




