第四章(1):神の置き土産と、故郷への帰還
光の螺旋に包まれ、私たちは神界へと旅立った。
広間では、エリアス様がすでに準備万端で待っていた。
エリアス様はいつもの神秘的な白いドレス姿ではなく、まるで洗練されたキャリアウーマンのような、パリッとしたスーツを着こなしていた。
髪はきっちりとまとめられ、その表情からは旅慣れた自信が漂っている。
手には革製のブリーフケース。
「やあ、ルシアン君、セラフィナ君、そして勇者たちよ。準備は万端かね?」
エリアス様はにこやかに私たちを迎え、その軽やかな口調に、私たちは少しだけ緊張を解いた。
「セラフィナ君とアルドロン君の宝珠が埋め込まれた聖剣と杖は、小さくするから。キーホルダーみたいにして持ち歩けるようにね。必要な時は元の大きさに戻るから心配ないさ。日本の学校や街中で、あんな大きな武器を持ち歩いたら、目立つどころか警察沙汰になりかねないからね!」
エリアス様の言葉に、私は「なるほどー!」と納得した。そうか、私の聖剣もアルドロンさんの杖も、このままじゃ完全にヤバい人だもんね!気が利くー!
「そして、ルシアン君、これだ」
エリアス様はルシアン様に一枚のカードを差し出した。
それは漆黒に輝くブラックカードだった。
「これはガイアへの土産や、君たちの滞在に必要なものを調達できるようにと。好きなだけ使いなさい」
エリアス様の言葉に、私は思わず「すごい!」と声を上げた。
ブラックカードって!あの、限度額なしって言われる伝説のカードじゃない!?
(って言っても、ルシアン様は魔王だし、お金には困ってない…のかな?いや、でも日本の物価は知らないだろうし、これは助かる!)
しかし、カスパール君は首を傾げ、「なんだこれ?」と疑問符を浮かべている。
他の皆も、ただ「すごいカード」としか思っていないようだった。
ま、魔法が使えない世界だから、何に使うのかピンと来ないよね、きっと。
「ああ、それと、佐倉花君の世界の言葉は理解できるようになっているからね。日本語も、北の某国の言葉もなんなら世界中の言葉全部だ」
エリアス様はさらりと言い放ち、その言葉に私たちは驚きを隠せない。
けれど、すぐに彼女は本題に戻った。
「では、私特製のルシアン君のアクスタは持っているね?」
問われた私は、鞄の奥底にしまい込んでいた黒い手作りのお守り袋を取り出した。
佐倉花が自分で刺繍した「ルシアン様ハート」の文字が歪ながらも確かに縫い付けられている。
中には、まばゆいばかりの光を放つルシアン様のアクスタが収まっていた。
「はい、ここに!」
私がアクスタを取り出すと、エリアス様はそれを手に取るように促した。
私はお守り袋ごと、アクスタをぎゅっと握りしめる。
「よし。それでは、目を閉じて、日本に帰ることを願ってごらん」
エリアス様の声が神聖な空間に響き渡る。
言われた通りに目を閉じ、強く願った。
(日本…私の家…)
瞼の裏に、日本の風景が鮮明に浮かび上がる。
よく通った通学路。
馴染みのコンビニ。
台所から漂う、お母さんが作る優しい夕食の匂い。
そして、庭にある剣道場から聞こえる、竹刀が打ち合う小気味良い音と、竹刀を構えるお父さんの、真剣な横顔。
すると、握りしめたアクスタが、ドクン、と心臓のように脈打つ感覚がした。
同時に、私たち五人の宝珠が、これまで以上に強く輝き始める。
ルシアン様の黒、アルドロンさんの緑、私の赤、ローゼリアちゃんの桃色、カスパール君の紫の宝珠が、眩い光の柱となり、私たちを包み込む。
一瞬、浮遊感に襲われる。
身体が光の粒になって、どこまでも吸い込まれていくような感覚。
空間が歪み、視界が真っ白になる。
***
そして、次に目を開けた時、私は見慣れた場所に立っていた。
目の前に広がるのは、土の匂いと、微かに道場特有の、清々しい香りが混じり合う、慣れ親しんだ風景。
足元に広がるのは、磨き上げられた木張りの床。
庭の楓やモミジの木々は紅葉がほぼ終わりを告げ、冬の訪れを告げるように冷たい風がそっと頬を撫でていく。
「ここ…は…」
思わず呟いた。
そこは、間違いなく、私の実家の庭にある剣道場だった。
「ただいま、日本!」
私の声が、懐かしい空気に吸い込まれるように響いた。
そしてエリアス様は私に視線を向けた。
その時、私の手には、いつの間にかスマホが握られていた。
「セラフィナ君、私への連絡はスマホでも宝珠でも構わない。何かあったらすぐに連絡するように」
そう言い残すと、エリアス様はふわりと光に包まれ、そのまま私たちの目の前から静かに姿を消した。
(えええええええええええええええ!?エリアス様、もう行っちゃうの!?)
なんだか、急にポンと放り出されたような気分だ。
まあ、神様だから連絡できるって言っても、ちょっとあっけなさすぎる!
でも、とにかく、私たちは日本に帰ってきたんだ!




