第四章(2):故郷の土を踏む、五感で感じる異世界
剣道場の凛とした空気が鼻腔をくすぐる。
ひんやりとしていて、でもどこか懐かしい木の匂い……ああ、神界から移動してきた今、ここは確かに私の故郷、日本だ!
そして、エリアス様の言う通り、日本語が何の違和感もなく口から出てくる。
すごい!
「みんな、大丈夫かな?」
不安げに、しかし期待に胸を膨らませて振り返ると、ルシアン様も、他のみんなも目を見開いて私を見ている。
え、なに、どうしたの?
私の顔になんかついてる!?
ルシアン様が、視線を私の髪と瞳に固定したまま、そっと手を伸ばしてきた。
「セラフィナ、髪が…」
彼の指先が、私の髪を優しく掬い上げた。
慌ててスマホの鏡で自分の姿を見て、私はハッとした。
私の燃えるような紅い髪は漆黒に、瞳も緑色から濃茶色に変わっていた。
これは、まさに佐倉花の姿だ。
うわー、ちょっと感動!
慣れてるはずなのに、なんだか新鮮!
ルシアン様は、そんな私を見て、蒼い瞳をわずかに細めた。
「これが佐倉花か」と、まるで宝物を見つけたかのように呟く。
そして、ふっと深い、ため息にも似た愛おしさを込めて私を見つめると、彼は私の手を取り、指先で優しくなぞった。
「どんな姿でも、俺にとっては最高の存在だ」
もう、ルシアン様のこういうところが本当にずるい!
私の心臓は止まりそうだ。
ドクン、と大きく脈打つ音が、自分にしか聞こえないのに鮮明だ。
私の『尊いゲージ』は完全に振り切れて爆発寸前!
推しが…私のためにこんなにも優しい言葉を…!
アルドロンさんは、「なるほど、これが佐倉花の姿か。髪と瞳の色は変わっているが、やはりどこかセラフィナの面影があるな」と感心したように頷いている。
ローゼリアちゃんは「わぁ、黒髪のセラフィナちゃん可愛い!」と目を輝かせ、カスパール君も「ふん、まあ、慣れてる顔だな」とぶっきらぼうに言いつつも、どこか安心したような表情を浮かべていた。
みんなは、髪や瞳の色は変わっていないのに、私だけが佐倉花の姿になっている。
きっと、私がこの世界の人間だからだろう。
すると、ルシアン様が、静かに周囲を見渡し、この見慣れない光景を観察しているようだった。
「…これが、セラフィナの故郷、か」
ルシアン様の声は、どこか感慨深げで、同時に微かな好奇心を含んでいた。
なんだか、彼が日本をどう感じるのか、ドキドキするなー。
アルドロンさんは、道場の壁や天井の構造に興味を惹かれたのか、しきりに周囲を見回している。
「ほう…この建材は、我々の世界のものとは異なるな。だが、頑丈にできているようだ」
賢者様らしい視点だね!
カスパール君は、剣道場を見回し顔をしかめた。
「ちっ…随分と質素な場所だな。こんなところで、一体何をするんだ?」
そのぶっきらぼうな口調に、ローゼリアちゃんがすぐに反応する。
「もう、カスパール君!でも、なんだか、ピリッとしていて、素敵な場所ね!ここで、セラフィナちゃんは剣を習っていたの?」
ローゼリアちゃんは、期待に満ちた眼差しで、道場の床に広がる板張りの空間を興味津々に見つめていた。
そうだよね!
この凛とした空気、私にとっては落ち着く場所だけど、異世界から来たみんなにとっては、新鮮な空間なんだろうな。
これから、もっと色々な日本のこと、教えてあげなくちゃ!




