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でーすとぴあ!  作者: 昼咲月見草


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動き出すもの

 日本国初代大統領・楽木坊。


 彼は当初からの宣言通り、「日本で健康で文化的に生活するために最低限支払われるべき賃金」の策定に取りかかった。

 普通なら、妨害工作があって然るべきだろう。


 だがこれが日本の政治上記録に残り続けるほどあっという間に可決した。


 何しろ1年前からあちこちで言い続けていたのだ。

 当然、あちこちでその金額について、果てはそのために必要な仕組みまでが論じられている。

 官僚たちは、その中からより良いもの、より都合がよいものを取り上げて整えるだけでよかったのだ。


 大統領の任期は10年。


 国家の未来を作る政策を、国の端から端まで浸透させるには、そのくらいは最低必要だとの事で決まった任期だったが、国家の大計のためにそれを長いと見るか短いと見るか。

 いずれにしても短い人の人生のうちの10年である。


 当然、最初の数年で羽衣は失敗した。


 そして10年を待つ事なく、表舞台から消え去っていったのである。






 始まりは、羽衣の発言だった。


「囮捜査を解禁しよう」


「囮捜査?」


「ああ。闇金融や闇バイト、ああいったものにうっかり関わった人のための救済方法だよ。違法な契約は、契約後に然るべき手続きを踏めば、囮捜査の協力として扱うようにする。例えば闇金融なら、違法な契約をした罰金として、契約書の額を犯罪者の個人資産から徴収する、とか」


「なるほど、それはいい。素晴らしいですね! 早速取り掛かりましょう」


 結果として、この案は大失敗となった。


 実際に闇金融として訴えられて資産を取り上げられたのは、善良な資産家の年寄り達だったからだ。

 違法な契約を交わしたという認識もなく、個人同士のお金のやり取りのつもりで気軽に書面を交わし、気がつけば貸した金は全額相手のものとなり、罰金として同額を国に徴収され、国家による詐欺として悪法の代表として名を残した。



 次に羽衣がやったのは死刑制度の廃止だ。


「死刑廃止、ですか?」


「ああ。冤罪で死刑とか間違ってもあっちゃいけない。でも犯罪被害者の思いを考えると罰も必要だろう? だから死刑は廃止して、かわりに犯罪者の人権を無くすんだ」


「なるほど!」


「人権というのは、人間がもとから持っていたものではない。文化が発展する中で生まれたものだ。文化的に生きる事、平和に供与する事、他者の人権を尊重する事。社会の秩序を尊重する事。そんな事ができない人間が持っていていいものではない。そうは思わないか?」


「確かに。納得です。では犯罪者については人権を取り上げてどういたしましょうか?」


「犯罪者限定で奴隷制を復活させる。踏み躙られる側に立たなければ、分からないことも絶対あるはずなんだ」


「素晴らしい。早速手続きを始めます!」



 結果生まれたのは、冤罪で奴隷にされた人々だ。

 見た目が良い者。

 賢く利用価値がある者。

 中には本物の犯罪者も含まれたが、本当の犯罪者というものは法律を犯す事なく他者を虐げ、優位に立つものだ。

 やはりこれも天下の悪法として名を残した。




「最近、何をやってもうまく行かないんだ」


「羽衣さんは頑張ってます!」


「そうです。楽木坊大統領は、人々のため、社会のために尽くしています。それを理解せず、裏をかいて利益を貪るような者どもにいいようにされている一般市民がいけないのです!」


「でも、僕は彼らを幸せにしたいのに」


「頑張りましょう。負けてはいけません、日本には、いいえ、世界にはあなたが必要なんです!」


「羽衣さん」


「大統領」


「羽衣先生」


「頑張ってください、楽木坊様」


「みんな……ありがとう!!」







 


「むこうの状況はどうですかな」


「いい感じに仕上がっているようですよ。鏑木、説明を」


「はい。選挙の結果が出る前から、周囲に何人も人を潜り込ませておりましたが、現在は公私の全てにおいて、楽木坊の周りはこちらの息がかかった者が固めております。情報も思考も操作し、ミスリードを行い、間違えれば誉め、正しいときは論理的に間違っていると責め、情報は然るべき筋に流して悪用させています」


 はっはっは、と年を感じさせない明るい笑い声を上げて男は茶をひと口飲んだ。


「孫が敗色濃厚との話を聞いたときは心臓が止まるかと思いましたが、これも案外、天の配剤かもしれませんなあ。最近ではあの敗北をバネに、海外を渡り歩いて多くの友人達を作っていると聞きます」


「さすがですな。あの男も一郎くんの踏み台になれたなら光栄でしょう。あの世での自慢話になります」


「いやはや、これで縮まった寿命が少し延びました」


「それは何よりです。全く、己を弁えない愚民が幸運を掴んで、我々が築き上げてきたものを壊そうとするなど許しがたい」


「実に。この後の事も上手く進んでおりますかな?」


「はい。鏑木」


「楽木坊政権は任期の10年を待たずしてじきに終わりを迎えます。最後の引き金はネットでの過去の漏洩になる予定です」


「ほ、それはいい」


 にこにこと湯呑みで両手を温めながら男は笑った。

 相手も笑った。

 室内に、穏やかな笑い声が響く。

 秘書は無言でそれを聞いていた。








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