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203X年、日本国第二代大統領に佐布里一郎が就任した。
前職の楽木坊羽衣は、任期途中で失脚、現在行方不明になっている。
数々の失策を重ねた楽木坊だったが、失脚の原因はネット上で拡散した彼のプライベートや性癖が原因であった。
夫のいる女性秘書との不倫疑惑。
大統領選の時からの支援者女性との性生活の暴露。
銀座での性接待疑惑。
ネット検索や購入した電子書籍などから浮かぶ、ロリコン疑惑。
変態的な女性風俗通いの噂。
悪法施行が重なる中での人格問題は致命的であった。
「佐布里大統領、ひと言お願いします!」
「佐布里、佐布里!」
「佐布里、佐布里!」
佐布里コールに押され、一郎は演台の上に上がった。
喝采。
怒涛のような喝采。
鳴り止まぬかに思われた大喝采を、片手を上げる事で止めたのは、爽やかな男前が苦労を味わって渋みを増した、我らが大統領。
「皆さん、僕は帰ってきました。不甲斐ない僕を待っていてくれて、励まし、力づけてくれてありがとう」
おおおおお、と熱い声援が上がる。
一郎は再び、それに笑って手を上げて応えた。
「日本は、ここ数年でガタガタになってしまった。僕は、それを修復し、かつての日本を取り戻そうと思う。日本にはまだまだ大統領制なんて早かったんだと、外国ではそう言われている。でも僕はそうは思わない! 皆さん、どうか僕に力を貸してください! 一緒に日本を取り戻しましょう! 美しい僕らのニッポンを!!」
おおおおおおお!
わあああああああ!
きゃああああああ!
にこやかに、爽やかに、一郎はその声援に手を振り応え続けるのだった。
ある日、新聞の片隅に小さな死亡事故の記事が載った。
載せないわけにもいかないから仕方なく載せた、と言わんばかりの小さなその記事は、日本国の初代大統領の死亡を伝えるにはあまりにも小さすぎて、普段から新聞を隅から隅まで読むような変わり者でもない限り気づかないような、記事とはとても思えないほどのものだった。
だがその小さな記事は、彼の最初の功績である賃金制度の事に触れており、そしてそれがすでに廃止となった事を伝えていた。
ネットもSNSも、今では彼の事を伝えない。
多くの情報に溢れる中、まるで最初から存在しなかったかのように、彼の名前は人々の記憶から消えて行った。
ー 終 ー




