楽木坊羽衣(♂)
日本国初代大統領は、激戦の末、楽木坊羽衣(男・35才)と決まった。
羽衣は20年以上前に廃村が決定した、豪雪地帯の農村の出身である。
6才で両親が借金を抱えて心中。
父親は日雇いの作業員。母は工場の派遣のバイトで生計を立てていた。
幼馴染みだった2人は何もない村を出て東京へとやってきて、何もないままその日暮らしを始め、無計画に子供を作り、貧困の中にささやかな幸せを見つけた。
だが大人が生きるだけでも人生には金がかかる。まして子供がいれば。
金、金、金、全てにおいて金が必要な都会で、地縁のない彼らの生活が破綻するのは簡単だった。
貧乏暇なしと働き続けて、父親が不注意でケガをして、収入が減ったある日を境に、楽木坊家は壊れ始める。
それはとても簡単な、当然の事だった。
借金の相続を拒否して、羽衣は両親の故郷の村に引き取られた。
子供は羽衣を含めて数人。
あとは年寄りばかりで、それも年々減っていく。
ある年、インフルエンザが流行った事で村の人数は激減、羽衣の祖父母も親族も多くが亡くなり、村は廃村となった。
羽衣は村から少し大きな街へと移り、孤児院へと入る。
そして学校を卒業、父親と同じ日雇いの作業員となった。
毎日毎日働く。
趣味も友人もなく、ただ食べて寝て生きる。
それだけのために働く。
社会の底辺で、目立たず、ひっそりと、ただ生きて死ぬ。
風邪でもひけば、病院にも行けず薬など買えず、看病してくれる誰かもいるはずもなく明日にでも死んでしまえる、そんな人生を過ごしていた。
彼がある日、宝くじを買ったのはなんとなくだった。
銀行を出たら、普段俯きがちな彼の前に雪が降ってきて、故郷の村を思い出した。
空を見上げてしばらくぼんやりしたあと、前を向いたら宝くじ売り場が目に入った。
ただそれだけ。
ほんの短い間、幸せだった頃の記憶を思い出した。
だから少しだけ嬉しくなって、宝くじを買ってみようか、そう思った。
ただそれだけの事だった。
この時買った宝くじが大当たり。
羽衣は一夜にして大金持ちとなり、そのあり余る金で彼がやった事。
それが大統領選への立候補だった。




