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捨てられた魔王を拾ったのは小さな少女でした  作者: ーーーー


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第2話 魔王、手当てされる

 「森で人を拾ってはいけません。」

 おばあちゃんは、いつもそう言っていた。


「知らない人についていってはいけません。」


 「怪我をしたふりをする悪い人もいる。」

 困っているように見えても、まず大人を呼びなさい。


 ぜんぶ、ちゃんと覚えていた。


 覚えていたけれど。


「……ルル、重い」


「我を荷物のように言うな」


「…だ、だって、重いんだもん」


「魔王の威厳の重みだ」


「怪我人の重み…かな…」


「否定しきれぬ」


 リリィは、半分泣きそうになりながら、森の小道を歩いていた。

 右手には薬草の籠があるが、中身が落ちてほとんどなくなっていた。


 左手には、血まみれで、角があって、翼があって、自分のことを魔王だと言い張る男の人。


 つまり、ものすごく困った拾いものだった。


 ルル(本当はもっと長い名前だった気がするけれど、リリィには覚えられなかった)は、リリィの肩に手を置いて歩いている。


 背が高いので、支えるというより、リリィが腕につり下げられているみたいになっていた。


「ルル、もうちょっと小さくなれない?」


「なれるわけがなかろう」


「魔王なのに?」


「我は便利屋ではない」


「でも絵本の魔王は、黒い煙になったり、ドラゴンになったりしてたよ」


「絵本の魔王と我を一緒にするな」


「じゃあ、ルルは何になれるの?」


「……今は、怪我人になら」


「もうなってるじゃない」


 ……む。


 ルルは黙った。

 たぶん、ちょっと傷ついたのだと思う。


 リリィは慌てて言葉を付け足した。


「…でも、立って歩けてるからすごい、よね」


「当然だ。我は魔王だぞ」


「うん。すごいすごい」


「雑に褒めるな」


 そんなことを言い合いながら、二人は森を抜けた。


 木々のあいだから、村の屋根が見えてくる。

 小さな村だった。


 石垣と畑に囲まれて、煙突から白い煙が上がっている。鶏の声がして、遠くでは誰かが薪を割る音が聞こえた。


 リリィにとっては、いつもの景色だ。

 けれど魔王は、村を見た途端、足を止めた。


「……人間の集落か」


「うん。わたしの村」


「兵は」


「いないよ」


「魔術師は」


「いないと思う」


「神官は」


「教会のおじいちゃん先生ならいる」


「……厄介だな」


 ルルの顔が少し険しくなった。


 リリィは不思議に思って、首を傾げる。


「おじいちゃん先生、優しいよ?」


「優しい神官ほど厄介なものはない」


「どうして?」


「本気で魔を祓おうとするからだ」


「よくわかんない」


「分からぬままでよい」


 ルルは布を深くかぶり直した。


 傷ついた角が見えないように。

 破れた翼は、リリィの外套でなんとか隠している。


 でも、正直に言うと、かなり怪しかった。


 背の高い男の人が、頭に布をかぶって、子どもの外套を背中にかけて、血だらけで村に入ろうとしている。


 どう見ても、遠い親戚には見えない。


「リリィ」


「なあに?」


「本当に、この姿で通用すると思っているのか」


「……思ってない」


「ならば、なぜ連れてきた」


「だって、森に置いていったら死んじゃうかもしれないでしょ」


 リリィがそう言うと、ルルはまた黙った。


 この人は、よく黙る。

 怒っているみたいに見えるけれど、たぶんそうじゃない。

 言いたいことが見つからないときに、怖い顔になるのだ。


 リリィは、なんとなくそれが分かってきた。


「大丈夫だよ」


「何がだ」


「おばあちゃんは、たぶん怒るけど、見捨てたりしないから」


「たぶん、か」


「うん。すごく怒ると思う」


「そこは嘘でも安心させる場面ではないのか」


「嘘はだめって、おばあちゃんが言ってた」


「お前の祖母は、なかなか手強いな」


 リリィは胸を張った。


「うん。世界で一番強いよ」


「魔王の前で言い切るか」


「だって、うちのおばあちゃんだもん」


 そう言って、リリィは村の端にある小さな家へ向かった。


 畑の横。

 石の井戸の近く。

 白い壁に、古い赤い屋根。


 窓辺には乾かした薬草が吊るしてあって、庭には小さな畑がある。

 リリィの家だ。


 扉の前まで来たところで、リリィは深呼吸をした。

 そして、できるだけ元気よく言った。


「ただいまー!」


 家の中から、鍋をかき混ぜる音が止まった。


「おかえり、リリィ。ずいぶん遅かったね」


 奥から出てきたのは、白髪を後ろで結んだ小柄なおばあさんだった。

 リリィのおばあちゃん、マルタである。


 皺の多い顔。

 少し曲がった腰。


 けれど目だけは、若い人よりずっと鋭い。


 マルタは最初、リリィを見た。

 次に、リリィの隣にいるルルを見た。


 それから、もう一度リリィを見た。


「リリィ」


「はい」


「それは何だい」


 それ、と言われたルルが眉を動かした。


「我を物のように――」


 リリィは慌ててルルの口を手で押さえた。


「遠い親戚!」


「ほう」


 マルタは目を細めた。

 その目は、薬草の中から毒草だけを一瞬で見分けるときの目だった。


「うちに、そんな背の高い血まみれの親戚がいたかね」


「えっと……遠いから…」


「どれくらい遠いんだい」


「森の奥くらい」


「それは遭遇したんじゃないか」


 魔王が小さく頷いた。


「勝手に連れて来られたのだ」


「ルルは黙ってて」


「その名はやめろ」


「ちょっと待っててってば」


「む……」


 ルルは不満そうに黙った。


 マルタは深いため息をついた。

 それは怒っているため息ではなかった。

 困っているため息だった。


「リリィ。森で怪我人を見つけたら、まず大人を呼びなさいと言ったね」


「うん」


「ひとりで連れて帰ってはいけないとも言ったね」


「うん」


「この人は、怪我人だね」


「うん」


「ひとりで連れて帰ったね」


「……うぅ」


 リリィはしゅんとした。


 やっぱり怒られた。

 でも仕方がない。

 怒られても、森に置いてくるよりはよかったと思った。


 マルタはもう一度ため息をつき、ルルの顔を見上げた。


「で、あんた」


「我はルゼルヴァルド・ディア・ノクス・エルグランデ。第七魔界の――」


「長い」


 マルタはばっさり切った。

 ルルが目を見開いた。


「……長い、だと」


「怪我人の名前は短いほうが呼びやすい。ルルでいいね」


「よくない」


「ルル、そこに座りな」


「人の話を聞け」


「血が床に落ちる前に座りな」


「……」


 ルルは負けるフリをしてあげることにした。


 リリィは感動した。

 やっぱり、おばあちゃんは世界で一番強い!


 ルルは家の中に入ると、椅子に座らされた。


 椅子は、ぎしりと嫌な音を立てた。


 マルタは棚から清潔な布と薬草瓶を取り出し、手早く準備を始める。


「リリィ、湯を沸かしておいで」


「うん!」


「それから扉の鍵をかけて、窓のカーテンを閉めるんだ」


「どうして?」


「こんな怪しい男を村の連中に見られたら、説明が面倒だからだよ」


「やっぱり怪しい?」


「怪しいなんてもんじゃないね」


 ルルが低く言った。


「我は、怪しい者ではない」


「怪しい者はみんなそう言うんだ」


「お前の家系は、言葉の刃が鋭すぎるな」


 リリィはお湯を沸かしながら、少し笑ってしまった。


 怖い魔王のはずなのに。

 なんだか、叱られている大きな子どもみたいだ。


 マルタは、ルルの傷を見た。


 血を拭い、裂けた服を少し切り、胸の紋様を確認した瞬間、ぴたりと手を止めた。

 その時、部屋の空気が変わった。

 リリィにも分かった。


 さっきまでの「困ったねえ」という空気ではない。


 もっと静かで、重いもの。


「……これは」


 マルタが小さく呟く。


 ルルの目が鋭くなった。


「分かるのか」


「少しだけね」


「お前、ただの村の老婆ではないな」


「ただの村の婆さんだよ。ちょっと長く生きているだけさ」


 マルタは薬草をすりつぶしながら言った。


「これは封印だね。ひどく強い。無理に剥がせば命が縮むかもしれない」


「縮むほど残っているかも怪しいがな」


「そういう口をきけるなら、まだ大丈夫だね」


 マルタは淡々と言った。

 けれど、その手つきはとても優しかった。


 ルルはしばらく黙っていた。

 それから、ぽつりと言った。


「……なぜ治療する」


「怪我人だからだよ」


「そなたも同じことを言うのだな」


「リリィがそう言ったのかい」


「そうだ」


「なら、うちの子はちゃんといい子に育ってる」


 マルタは少しだけ笑った。


 リリィは胸のあたりがくすぐったくなった。

 褒められたのだと思う。


 ルルは理解できないという顔をしていた。


「我が何者か、分からぬわけではあるまい」


「分かるよ」


 マルタは言った。


「角がある。翼もある。魔族だろうね」


「魔族どころではない。我は魔王だ」


「そうかい」


「驚かぬのか」


「年を取るとね、大抵のことには驚かなくなる」


「魔王が家にいてもか」


「鍋を焦がすほうが困るね」


「……」


 ルルは完全に言葉を失った。


 リリィは思った。

 おばあちゃんて、やっぱりすごい。


 マルタは薬を塗り、布を巻き、最後にルルの額の血を拭った。


 リリィが心配そうに近寄る。


「痛い?」


 ルルはすぐに顔を背けた。


「痛くない」


「痛いんだ…」


「痛くないぞ」


「痛い人はみんなそう言うって、おばあちゃんが――」


「その話はもう聞いた」


 ルルは疲れた声で言った。

 マルタは小さく笑ったあと、真面目な顔に戻った。


「今夜はここにいなさい」


「……よいのか」


「よくはないよ」


「ならば」


「でも、今森に戻せば死ぬかもしれない。死なれると寝覚めが悪い」


 ルルはマルタを見た。

 マルタもルルを見返した。


 しばらく、二人は黙っていた。


 リリィには、その沈黙の意味は分からなかった。


 けれど、ルルの表情が少しだけ変わったのは分かった。

 ずっと固く閉じていた扉が、ほんの少しだけ開いたみたいだった。


「……恩に着る」


「恩は薪割りで返してもらうよ」


「また薪割りか」


「うちは冬支度がまだなんだ」


「魔王を薪割り要員にする家があるとはな」


「今日からここにあるね」


 マルタは平然と言った。


 リリィは嬉しくなって、ぱっと顔を上げた。


「じゃあ、ルル、泊まっていいの?」


「一晩だけだよ」


「やった!」


「喜ぶことではない」


 ルルが低く言う。


「我は危険な存在だ。そなたらに災いを招くかもしれぬ」


 その声は、さっきまでとは少し違っていた。


 怒っているのではなく。

 脅しているのでもなく。

 本当に心配している声だった。


 リリィはルルのそばに行った。


「でも、今のルルは怪我人だよ」


「それだけで助けるのか」


「うん」


「もし我が、そなたの村を滅ぼすほどの力を取り戻したら?」


「滅ぼすの?」


 リリィが聞くと、ルルは黙った。

 そして、少し苦しそうに目を伏せた。


「……滅ぼさぬ」


「じゃあ大丈夫」


「お前は人を信じすぎる」

魔王は少し赤い顔をして、そっぽを向いた。


「ルルは人じゃないよ?」


「そこを指摘するのか」


「魔王でしょ?」


「そうだ」


「じゃあ、魔王を信じる」


 リリィがそう言うと、ルルは目を見開いた。

 まるで、初めて聞く言葉だったみたいに。


 信じる。

 それはリリィには、そんなに難しい言葉ではなかった。


 だってルルは、森でリリィを襲わなかった。

 怖い顔をしたけれど、パンを食べた。


 手を取った。


 今も、おばあちゃんの椅子にちゃんと座って、薬を塗られている。

 だから、きっと大丈夫。


 リリィはそう思った。


 マルタは鍋の蓋を開けた。

 ふわりと、温かい匂いが部屋に広がる。


 じゃがいもと玉ねぎと、少しの干し肉。

 リリィの好きなスープだ。


「ほら、食べるよ」


 マルタが木の器によそってくれた。


 ルルの前にも、湯気の立つ器が置かれる。

 ルルはその器をじっと見た。


「……これは」


「スープだよ。毒は入ってないよ」と、マルタが呆れたように言う。


「毒など恐れてはいない」


「じゃあ食べな」


「命令するな。我は魔王だぞ」


「冷めたスープはまずいよ」


 ルルはしばらく器を睨んでいた。

 けれど、やがて木の匙を持ち、ひと口すくった。


 口に運ぶと、

 優しい味がした。


 温かい牛乳に、じゃがいもと玉ねぎがとろける。

干し肉にはスパイスが効いて、柔らかくなっていた。


 リリィはわくわくしながら聞いた。


「おいしい?」


「……」


「だめ?」


「ふん……食えなくはない」


「それ、黒パンのときも言ってた」


「魔王はな――」


「おいしいんだね」


「……」


 ルルは答えなかった。


 でも、もう一口食べた。

 その次も。

 そのまた次も。


 気づけば、器はほとんど空になっていた。


「美味しいな」


 リリィは嬉しくなった。


「おかわりあるよ」


「……す、少しだけなら、受け取ってやらんこともない」


「おばあちゃん、ルルおかわりだって!」


「はいはい」


「我はそうは言っていないが」


「顔が言ってるよ」


「か、顔に出るはずがない。我は魔王だぞ」


「魔王って、顔に出るんだね」


 リリィがそう言うと、マルタが吹き出した。


 ルルはとても不本意そうな顔をした。

 けれど、二杯目のスープもちゃんと食べた。


 夜が深くなるころ、

 ルルは暖炉のそばの長椅子に横になった。


 マルタが古い毛布をかけると、ルルはまた何か言いかけた。

 けれど、結局何も言わなかった。


 疲れていたのだと思う。


 目を閉じると、怖い顔が少しだけほどけた。


 リリィはそっと近づいて、小さな声で聞いた。


「ルル、眠れそう?」


「……眠る必要はない」


「眠いんだ」


「眠く…ない」


「眠い人はみんなそう言うって――…」


「それは万能の言葉なのか」


 ルルは薄く目を開けた。


 そして、リリィを見た。


「リリィ」


「なあに?」


「お前は、我を拾ったことを後悔するかもしれぬ」


「どうして?」


「我の過去は重い。敵も多い。追放されたとはいえ、我を利用しようとする者、殺そうとする者、取り戻そうとする者が現れるかもしれぬ」


 リリィには、難しいことは分からなかった。


 でも、ルルの声が寂しそうなのは分かった。

 だからリリィは、少し考えてから言った。


「じゃあ、その人たちが来たら、おばあちゃんに相談する」


リリィは、ルルの手をそっと握った。


「……リリィは味方だよ」


「あと、村長さんにも――」


「それはやめておきな」

 台所のほうから、マルタの低い声が飛んできた。


 リリィはびくっと肩を跳ねさせる。


「村長さんはいい人だよ。でも、いい人だからこそ、村を守ろうとする」


「村を守る?」


「そうだよ。角のある怪我人が家にいると知ったら、村のために兵を呼ぶだろうね」


 リリィは黙った。


 ルルが、暖炉の火を見つめたまま小さく笑った。


「賢明な判断だ、老婆」


「褒めてもスープは増えないよ」


「……褒めてもないがな」


 マルタはリリィの前にしゃがみ、目線を合わせた。

「リリィ。助けることと、何でも人に話すことは違うんだ」


「でも、嘘はだめって……」


「嘘をつかなくていいように、黙っているんだよ」


「黙ってるのは、悪いこと?」


「誰かを傷つけるために黙るなら悪いことだね。でも、怪我人を守るために黙ることもある」


 リリィは、ルルを見た。

 ルルは少しだけ気まずそうに顔を背けた。


「じゃあ……ルルのことは、秘密?」


「そう。しばらくは秘密だ」


「しばらく?」


「この人が、ちゃんと歩けるようになるまで」


 マルタはそこで、じろりとルルを見た。


「それから、うちの薪を割れるようになるまで」


「薪割りは確定なのか」


「当然だよ。秘密を守るにも対価がかかる」


 ルルは目を閉じたまま、小さく息を吐いた。

 笑ったのかもしれない。

 ため息だったのかもしれない。


「お前たちは、本当に恐ろしいな」


「わたしたち?」


「ああ」


「魔王より?」


「ある意味ではな」


 リリィはよく分からなかったけれど、褒められた気がした。


「おやすみ、ルル」


「その名で呼ぶな」


「……おやすみ、リリィ」


 その返事が、思ったよりも優しかったので

 リリィは胸がぽかぽかした。


 暖炉の火が、小さく爆ぜる。

 外では風が吹いていた。


 森の向こう。もっと遠く。

 リリィの知らない場所では、きっと怖いことが起きているのかもしれない。


 でも、この家の中にはスープの匂いがあって、おばあちゃんがいて、毛布があって。


 それから、拾ってきた魔王がいた。


 リリィは思った。


 明日になったら、ルルに畑を見せよう。

 鶏小屋も見せよう。

 薪割り場も見せよう。


 それから、村のみんなには……だまっているんだっけ。


 おばあちゃんがなんとかしてくれる気がする。

 リリィは椅子に座ったまま、うとうとしはじめた。


 その時、

 眠っているはずのルルの胸元で、封印の紋様がかすかに赤く光った。


 ほんの一瞬。 暖炉の火とは違う、不吉な光。


 マルタだけが、それに気づいた。

 彼女はリリィを起こさないように、静かに立ち上がる。


 そして、眠るルルの胸元に手をかざした。


「……追手かね」


 小さく呟いた声は、暖炉の音にまぎれて消えた。

 ルルは眠ったまま、苦しそうに眉を寄せている。


 その額に、冷たい汗が浮かんでいた。


 マルタは古い棚の奥から、小さな銀の護符を取り出した。


 それは、村のただの老婆が持つには少し不思議なものだった。

 表面には、人間の文字ではない古い刻印が彫られている。


 マルタはそれをルルの枕元に置き、低い声で言った。


「悪いけどね」


 その目は、もうただの優しい祖母のものではなかった。


「この家に入れた子を、簡単に持っていかせるつもりはないよ」


 窓の外で、風が強く鳴った。

 森の奥で、何かが動いた気がした。

 けれどリリィは、何も知らずに眠っている。


 拾われた魔王もまた、久しぶりに深く眠っていた。


 その夜、小さな家の灯りは遅くまで消えなかった。


 村の誰も知らない。


 魔界を追われた王が、この家でスープを飲んだことも。

 世界で一番小さな味方を得たことも。


 そして──


 かつて魔王と呼ばれた男の命を狙う影が、すでに森の向こうまで迫っていることも。

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