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ネトゲで3年相棒だった暴言女子が、清楚な後輩として入社してきた。~最強の独身同僚たちが俺の恋を全力応援してくる~  作者: りんりん


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第4話 その単語

 その日は、月末処理で二人だけ残業になった。


 二十時過ぎ。フロアには俺と白瀬さんしかいない。集計の山をひとつ越えたところで、俺は自販機のココアを差し入れた。


「すみません、いただきます……」


「いいよ。付き合わせてるのこっちだし」


 白瀬さんは両手でカップを包んで、ふう、と息を吐いた。残業のせいか、昼間よりほんの少しだけ、肩の力が抜けて見えた。


「茨城さんは、その、お休みの日は何をされているんですか」


「俺? 俺は……まあ、大体ゲームかな」


「ゲーム」


 カップの向こうで、白瀬さんの目がぴくりと動いた。


「意外、だった?」


「い、いえ……! あの、わたしも、少し……家計簿の延長で、その、嗜む程度に……」


 家計簿の延長でゲームを嗜む。新しい慣用句だな。


「へえ。どんなの? スマホ系?」


「ぱ……パソコンの、オンラインの、剣と魔法のような……」


「え、MMO? 俺もだよ。グランデルって分かる? グランデル・オンライン」


 かしゃん、と音がした。


 白瀬さんのカップが、机の角に当たった音だった。


「……ぐ、ぐらんでる」


「知ってる?」


「し……知って、ます。その、有名です、し……わ、わたしがやっているのは、別の、似たような、剣と魔法の……」


「ああ、なんだ。同じだったら面白かったのに」


「そ、そうですね! あはは……」


 白瀬さんは笑った。笑ったのだが、その笑顔のまま、ココアを一気に飲み干した。熱くないのか。


 それから妙な沈黙が落ちて、俺たちは集計に戻った。


 ――戻った、はずだった。


「……あの、茨城さん。ちなみに、なのですが」


「ん?」


「グランデルでは、どのような……その、お仲間と、遊ばれるんですか」


「ギルドの相棒と二人が多いかな。俺が回復で、相方が前衛」


「かいふく」


「うん。地味だけど性に合ってて」


「……ちなみに、その、回復のご職業は、長いんですか」


「三年ちょっとかな」


「さんねん」


 白瀬さんの復唱が、だんだん機械音声みたいになってきた。


「……前衛の方は、どんな」


「めちゃくちゃ口悪い」


 白瀬さんの肩が、びくっと跳ねた。


「く、口が悪い、とは、具体的には」


「具体的に? そうだなあ……敵に向かって『殺す』、味方に向かって『は?』、俺に向かって『寝るな、回せ』」


「ぶっ」


 白瀬さんがココアを吹いた。もう飲み干してたはずなのに、どこから出たんだそれは。


「だ、大丈夫!?」


「だいじょぶ、です……っ、ちょっと、気管に、空気が……」


「空気が気管に入るのは正常では?」


「で、でも、その方、口が悪いだけで、本当は面倒見がよかったり、しませんか。初心者に装備を貢いだり」


「するする。この前もギルドの新人に……」


 言いかけて、俺は固まった。


 なんで、知ってるんだ?


 あいつが先週、ギルドの新人に装備一式を黙って渡してたこと。本人は「余り物を処分しただけ」と言い張ってたこと。あれはギルド内ですら、俺くらいしか気づいてない。


 顔を上げると、白瀬さんも固まっていた。


 お互いの目が合って、お互いに、そらした。


 いやいやいや。落ち着け。


 俺は脳内で緊急会議を開いた。議題、白瀬さんは何者か。出席者、俺。書記、俺。


 ――状況証拠その一、グランデルの名前を出した瞬間、カップを机にぶつけた。


 ――その二、「別のゲーム」をやっていると言いながら、俺の相方の人格と行動を言い当てた。


 ――その三、マウスの持ち方。謎のショートカット。やり込まれた家計簿。


 ――その四、コピー機への「ポンコツ」。事実陳列の家系。


 ――その五、これは今思い出したんだが、うちの相棒は豆腐が嫌いで、白瀬さんは豆腐が好きだ。これは……これはどっちの証拠なんだ? むしろ別人の証拠か? いや待て、「死ぬほど猫をかぶった」「本日の俺は豆腐だった」――おい。繋がるぞ。繋がってしまうぞ。


 いや待て。待て待て。落ち着け俺。あの白瀬さんだぞ。九十度のお辞儀の白瀬さんだぞ。お豆腐が好きな白瀬さんだぞ。あの子が夜な夜な大剣担いで「な???」とか打ってるわけがないだろ。失礼にもほどがある。世界はそんなに狭くない。確率を考えろ、確率を。日本のMMO人口を、なんなら言ってみろ。


 でも、じゃあ、装備の件はなんで知ってる?


「……白瀬さん」


「は、はいっ」


「いや……なんでも、ない」


「そう、ですか」


「うん」


「……」


「……」


 集計のキーボード音だけが、二十一時のフロアに響いた。お互い、画面しか見ていない。なのにお互い、一文字も進んでいない。さっきから俺のセルには「グランデル」と入力されかけては消されている。隣のモニターをちらりと見たら、白瀬さんのセルには「912」とだけ打たれていた。なんの数字だ。落ち着け。


 心臓がさっきからずっと、変な打ち方をしている。


 まさか、と、そんなわけない、の間で。


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