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社交怪談 ~夜職には〈その先〉がある~  作者: 水山天気
第2章 この世のものとは思えないほど恐ろしい顔

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変な店

 朱利はメガラに訊いてみた。

「このお店のお客様、話題の偏差値高すぎない?」

「わかる。だから積極的に(つぶ)していかないと。まずは先手ゲーオブザイヤーを受賞して——」

 接客の常識が崩れる。

「いや、メガラはそれでいいみたいだよ? でも、わたしはムリでしょ」

「知らねー。早くなんでもいいからゲーム機(ハード)買いなよ」


 そう言って楽しそうに笑うメガラの接客は、他人がマネできるようなものではなさそうだ。

 自分の好きな話だけで場を盛り上げられる謎能力。男女問わず誰とでもざっくばらんに会話ができそうな人柄。そして、いつのまにか得ている大量の注文(ポイント)

 もう少しテーブルを共にすれば、いくらか学べるものはありそうだが。


「ここ、このお店がある場所、ちょっと変わった場所だったりする?」

 と朱利は尋ねた。この店の立地については、ずっと気になっていた。

 メガラの眼が子供のように輝く。好きな話だったようだ。

「気づいちゃったか!」

「うん。このあたり、他にキャバクラとか全然ない所だよね。なのに、ん? だから? いつもお客様が多いの、不思議だなって」

「ここ、謎のお金持ってる人が多いんだよね」とメガラが言った。「異常学歴者が多くて、とにかく明るい教授とかえぐい官僚とか、あとすごいお金持ってる社長とかもいて、そういう人たちが同窓会とか接待とか陰謀とかで集まってくんの」

「あー、それは薄々わかってた」


 この街——練馬区駒場野馬場(こまばのばんば)は、百年以上前の震災後に鉄道会社と財閥が造りあげた学園都市だ。

 都心にあった大学キャンパスの誘致(ゆうち)に成功し、大戦後には有名私立高校や国立高校が集まる場所にもなった。「駒場野馬場で呼吸をしているだけで知能指数(IQ)が上がる」などのIQ系都市伝説は、義母が子供だったころから語られていたそうだ。


 さらにこの街は、高学歴な人たちの勤め先でもある。

 大学。

 大会社の研究所。

 国家機関の研修センター。

 社会実験に参加するベンチャー企業。

 その他にも、いかつい名前の施設や、地図に名前が載っていない建造物が密集している。


「頭のいい人、多いよね。どうやって話をしたらいいのか、わかんなくなる時もある」

「濁すなよ、言葉を。おまえら全員おかしいよって言ってやんなきゃ」

「いやいやいや、バックヤードでの暴言禁止」

 マニュアル、というかこの店の基本ルールだ。

 メガラはどうやら、ホールでも遠慮なく暴言を吐いているようだが。


 ——でも、やっぱりちょっと、おかしいよね。


 口には出さないが、朱利もそういうことを思わないわけでもない。

 こういう店での男の言動を、これまで見慣れていなかったせいだろうか。

 異常な口数で騒いでいるかと思えば、なぜか突然、無言で挙動不審になる人もいる。

 酒を飲むから。

 女がいるから。

 それともやはり、この店の客層が特殊なのだろうか。


 朱利が勤めていた会社にも、有名大学の出身者は何人かいた。

 単体では、おだやかで普通な人たちばかりだったように思う。


 ——でも、そういう人が多数派になると、


 この土地——駒場野馬場では、

 あるいはこの店——ラビットコーナーでは、

 遠慮なくアクセルを踏んでしまうのだろうか。すさまじい速さで情報交換や知的優位(マウント)のとりあいがはじまり、朱利にはついていけなくなってしまう。


 ——バッタの群生相(ぐんせいそう)


 失礼な言葉が頭に浮かぶ。

 そんなタイミングでキャストルームのドアが開いたので、朱利は思わず身をすくませてしまった。


 入ってきたのは、店長の三宅だった。

「そろそろこっちも掃除するから、出てくれる?」

「ヤです。アカリともっとダベってから帰る」

「うわ。メガラとアカリさん、もうそんなに仲良くなってたの?」

 そう言いながら三宅は、きれいな顔を大きくしかめた。


 ——「うわ」?


「じゃあ悪いけど、アカリさんだけ店長室に来てくれる? メガラは今すぐ帰れ」

「なにそれ最悪。最悪の世代」


 ——「じゃあ」?


 三宅の言葉に釈然としないものを感じながら、朱利は店長室へ向かった。

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