変な店
朱利はメガラに訊いてみた。
「このお店のお客様、話題の偏差値高すぎない?」
「わかる。だから積極的に潰していかないと。まずは先手ゲーオブザイヤーを受賞して——」
接客の常識が崩れる。
「いや、メガラはそれでいいみたいだよ? でも、わたしはムリでしょ」
「知らねー。早くなんでもいいからゲーム機買いなよ」
そう言って楽しそうに笑うメガラの接客は、他人がマネできるようなものではなさそうだ。
自分の好きな話だけで場を盛り上げられる謎能力。男女問わず誰とでもざっくばらんに会話ができそうな人柄。そして、いつのまにか得ている大量の注文。
もう少しテーブルを共にすれば、いくらか学べるものはありそうだが。
「ここ、このお店がある場所、ちょっと変わった場所だったりする?」
と朱利は尋ねた。この店の立地については、ずっと気になっていた。
メガラの眼が子供のように輝く。好きな話だったようだ。
「気づいちゃったか!」
「うん。このあたり、他にキャバクラとか全然ない所だよね。なのに、ん? だから? いつもお客様が多いの、不思議だなって」
「ここ、謎のお金持ってる人が多いんだよね」とメガラが言った。「異常学歴者が多くて、とにかく明るい教授とかえぐい官僚とか、あとすごいお金持ってる社長とかもいて、そういう人たちが同窓会とか接待とか陰謀とかで集まってくんの」
「あー、それは薄々わかってた」
この街——練馬区駒場野馬場は、百年以上前の震災後に鉄道会社と財閥が造りあげた学園都市だ。
都心にあった大学キャンパスの誘致に成功し、大戦後には有名私立高校や国立高校が集まる場所にもなった。「駒場野馬場で呼吸をしているだけで知能指数が上がる」などのIQ系都市伝説は、義母が子供だったころから語られていたそうだ。
さらにこの街は、高学歴な人たちの勤め先でもある。
大学。
大会社の研究所。
国家機関の研修センター。
社会実験に参加するベンチャー企業。
その他にも、いかつい名前の施設や、地図に名前が載っていない建造物が密集している。
「頭のいい人、多いよね。どうやって話をしたらいいのか、わかんなくなる時もある」
「濁すなよ、言葉を。おまえら全員おかしいよって言ってやんなきゃ」
「いやいやいや、バックヤードでの暴言禁止」
マニュアル、というかこの店の基本ルールだ。
メガラはどうやら、ホールでも遠慮なく暴言を吐いているようだが。
——でも、やっぱりちょっと、おかしいよね。
口には出さないが、朱利もそういうことを思わないわけでもない。
こういう店での男の言動を、これまで見慣れていなかったせいだろうか。
異常な口数で騒いでいるかと思えば、なぜか突然、無言で挙動不審になる人もいる。
酒を飲むから。
女がいるから。
それともやはり、この店の客層が特殊なのだろうか。
朱利が勤めていた会社にも、有名大学の出身者は何人かいた。
単体では、おだやかで普通な人たちばかりだったように思う。
——でも、そういう人が多数派になると、
この土地——駒場野馬場では、
あるいはこの店——ラビットコーナーでは、
遠慮なくアクセルを踏んでしまうのだろうか。すさまじい速さで情報交換や知的優位のとりあいがはじまり、朱利にはついていけなくなってしまう。
——バッタの群生相。
失礼な言葉が頭に浮かぶ。
そんなタイミングでキャストルームのドアが開いたので、朱利は思わず身をすくませてしまった。
入ってきたのは、店長の三宅だった。
「そろそろこっちも掃除するから、出てくれる?」
「ヤです。アカリともっとダベってから帰る」
「うわ。メガラとアカリさん、もうそんなに仲良くなってたの?」
そう言いながら三宅は、きれいな顔を大きくしかめた。
——「うわ」?
「じゃあ悪いけど、アカリさんだけ店長室に来てくれる? メガラは今すぐ帰れ」
「なにそれ最悪。最悪の世代」
——「じゃあ」?
三宅の言葉に釈然としないものを感じながら、朱利は店長室へ向かった。




