会わせたい人
オーレッドと約束をしてから一週間後。ペネロペはわざわざ公爵邸に迎えにきたオーレッドに連れられ、邸宅のある首都中心部から少し離れたミネルバ地区のカフェを訪れていた。
「ここに誰がいるっていうの?いい加減教えてよ」
「見りゃわかるよ。アイツは社交界の有名人だからな」
「有名人?」
ペネロペは別に社交界に出ない訳でもない。それに、どちらかといえばペネロペ自身が家柄的にも容姿的にも有名人だ。
ーー有名人でレッドの知り合いっていったら・・・全くわからない・・・
「とにかく、会えばわかるから」
「ふーん」
驚かせたいのか何なのか、はぐらかすのを止めないので、これ以上の追及は無駄だとペネロペは大人しくオーレッドの後ろを歩くことにした。
カフェの中に入ると、店内はエキゾチックなデザインだ。ペネロペが物珍しさにキョロキョロと辺りを見渡していると、オーレッドは目当ての人物を見つけたのか、窓際のテーブルに座っている帽子の女性に声をかけていた。テーブルにはティーカップが三つ丁寧に置かれていた。
「久しぶりですね、侯爵令嬢。わざわざお呼び立てして申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず。前々から公爵令嬢とは話してみたいと思っていたの」
「それはよかったです」
オーレッドが一応というように軽くお辞儀をすると、女性はにこりと微笑んだ。
綺麗なウェーブがかかった水色の髪に同色の円らな瞳。
ーーアリーナ・プロヴァカンス嬢!
ペネロペは帽子の下から現れたその容姿に、オーレッドが会わせたいといっていたのは誰なのか、すぐにわかった。
アリーナ・プロヴァカンス
フィードレット公爵家やアグレディド侯爵家と同様名門貴族の一つであるプロヴァカンス侯爵家の一人娘。
そして、社交界のゴシップクイーンだ。
「私は本当のことしか噂にしない」というポリシーを持ちつつ、自らの金や人脈を活かし、十代後半にしながらゴシップによって一つの家門を裁判所送りにし、潰したこともあるらしく。
まさしく名前の通り社交界の情報を司っているのだ。
「・・・初めまして、プロヴァカンス嬢・・・」
「こちらこそ初めまして!公爵令嬢にお会いできて恐悦至極ですわ!!」
ペネロペの僅かな敵意に近い感情に気づいたのか気づいていないのか、アリーナはにこりと朗らかに微笑んだ。まさに完璧なお嬢様だ。
「さてと、今日はお願いしますよ。アリーナ様」
「えぇえぇ、わかってますわ」
「?何のこと?」
ペネロペは理解できない会話と状況に思わず首を傾げた。
「お前の婚約破棄の件だ」
「はぁ!?」
オーレッドのその言葉にペネロペは思わず素で声を上げた。勿論、場所が場所なので小声だが。ペネロペは目を見開き、信じられないという表情だ。
ペネロペは思わず席を立ち上がると、オーレッドの腕を引っ張り、アリーナから離れる様に後ずさった。
「何をやっているのレッド!彼女は社交界のゴシップクイーンなのよ!?それなのに、皇太子の婚約破棄なんて美味しい話題を漏らした!?何のつもり!?」
ペネロペはオーレッドにしか聞こえないように小声で怒鳴った。
何ということをしてくれたのだろうか目の前の男は。
皇太子と公爵令嬢の婚約破棄話など噂好きな貴族の格好の餌。それに、ペネロペはまだ婚約破棄したいとレイオンに伝えていないが、ペネロペが婚約破棄したい。そう思っているということだけでも、噂になれば困るのだ。
ーーもし今この段階でそんなことが噂にもなれば公爵家も皇室も怒って当然!!絶対に私が何らかの方法で人知れず始末されることになる!!
ペネロペは頭に浮かぶ憎い奴らの顔に吐き気がした。
ーーあぁ、最悪過ぎる・・・ってあら・・・?そういえば、何でかしら?
ペネロペは思わずオーレッドへの説教を止め、考えた。先程、兄やレイオンと共に頭に浮かんできた女。
ーー何でレイオン殿下はあんなことを・・・
何故今まで気がつかなかったのだろうか。何度も繰り返す人生で見てきた、レイオンや兄のとった行動のおかしな矛盾点に・・・




