禁断の質問
ヴァイオレット・グレイス伯爵令嬢
彼女はどこにでもあるような平凡な伯爵家に生まれた。容姿は普通よりの美少女、学力もそこそこ、性格は優しい。
まさに行き遅れた男達にとっては女神のような存在。
ただ、ペネロペやアリーナのように、社交界に咲き誇る大輪の華となることは叶わなかった。
それが、本当は自尊心が強く、誰よりも上に立ちたいと願うヴァイオレットとその兄の心を傷つけたのだった。
ーーそんな女に、権力を求めて私と婚約を続けていたレイオン殿下がなびいた?そんなのおかしいわ
ペネロペが婚約破棄を告げられた時は、何回目の人生の時も、必ずレイオンの隣にはヴァイオレットがいた。
忘れる筈もない。
レイオンの腕に絡み付き、見下すような目で自身を見ていた女を。誰が忘れるのだろうか。
兄にしてもそう。
本来、皇室と公爵家にどんな関係があれど、兄としては皇后にはペネロペがなってもらいたい筈だ。まして、公爵家の人間が婚約破棄の上に殺人未遂で処刑されたなんて、いくら皇室からの命令でも兄は反対した筈。
そもそも、権力重視の皇室が公爵家にそんな命令出すわけもない。
つまり、異例の事態ということになる。
ーー何にせよ、手がかりは絶対にグレイス嬢にある。まずはなんとしてもそれを見つけ出さないとね・・・
「レッド、怒ってごめん。席に戻るわ」
「あ、あぁ・・・」
オーレッドは突然何だったんだ?と首を傾げつつも、アリーナの座る席に戻っていくペネロペを追った。
ーーまぁ、そもそもよく考えれば、レッドは信用出来ない人に私の婚約破棄の話をするほど馬鹿じゃないものね・・・
ペネロペはオーレッドと席に座ると、先程は取り乱してごめんなさい。とアリーナに謝罪した。アリーナはお気になさらず。と相変わらずニコニコと微笑んでいた。
「プロヴァカンス嬢、今回私が聞きたいのは婚約破棄の件に関することや皇太子殿下のことではございません」
「あら・・・じゃあ、何かしら?」
アリーナは可愛らしく首を傾げた。
ーーこの質問をするのは気が引けるけど・・・
「ヴァイオレット・グレイス嬢について、何か知りませんか?」
「・・・ヴァイオレットについて?」
グレイス伯爵家はプロヴァカンス侯爵家に代々仕えている家門。ならば、ヴァイオレットとアリーナに面識があって当然。そして、彼女しか知らないヴァイオレットの裏があってもおかしくない。
ーーでも、だからこそ・・・身内の悪い話を聞かせてくれるかはわからない。もしかしたらこの質問でアリーナ嬢の機嫌を害した可能性もあるしね・・・
案の定、アリーナから先程までの笑みは消え、何ともいえない表情をしていた。
「・・・申し訳ありませんが、それには答えられそうにありません」
アリーナはそう小さく告げると、伝票を取ると席を立ち上がった。そして「またお会いしましょう」とペネロペ達にペコリと一礼した後、飲んでいた紅茶の会計を終えると、足早にカフェを出て行ってしまった。
「おい、何やってんだよペネ!」
「これでいいの・・・彼女に答える気がないならもういいわ」
「皇太子殿下のこと聞くんじゃなかったのかよ」
「多分彼女も、皇太子殿下についてはあまり知らないわ。知っていても、大したことじゃない。ある程度の殿下に関する皇室機密情報くらいでしょ」
「それを知りたくはねーのかよ」
「それぐらいなら、皇室に近くで仕えていて知ってそうな人を買収すれば一発よ。そんなレベルのしょうもない話でアリーナ嬢に貸しを作りたくないだけ」
そう言うと、ペネロペはアリーナが用意してくれていたが薬を警戒して一口も飲んでいなかった紅茶をごくりと飲み干した。




