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第五話  本当の作戦

「食べられないの?」


 一向に諦める気のないペネロペからの催促に、ベルタは唇を噛んだ。


ーー食べれる訳がないでしょう!?


 その加害者にしては最もな主張は心の中で留められ、部屋には暫くの沈黙が訪れた。しかしかといって、この空間にその沈黙が気まずいというような平穏な思考は存在しない。


 生きるか死ぬかの人生の岐路に立って、命のやり取りをしているのだがら、他のことなど頭に入ってもこないのだ。


 そして、その沈黙を先に破ったのはペネロペだった。ベルタの顔から手を離し、ため息を吐いた。


「・・・あなたが食べないなら仕方がないわね。私が食べてみるわ」


「なっ・・・!?」


「だって、食べないんでしょう?」


 ペネロペは、あーんと口を開けるとクッキーを口に入れ、数回噛んで飲み込んだ。その様子にベルタは目を見開き、顔を真っ青にしている。とんでもなく愉快だ。


「お、お嬢様!!どうして!」


 突然のことに焦り、ベルタが思わず声を上げた時だった。


「あら・・・このクッキー・・・随、分苦い、のね・・・」


 ペネロペの視界は歪みグラリとよろけたが、間一髪のところでテーブルの縁を掴み、倒れることはなかった。しかし、あまりの目眩と頭痛、少し呼吸も辛くてとても立ってはいられなかった。




ーーーーー




「お嬢様!大丈夫ですか!?」


 名前もよくわからないメイドの声が響いた。


 ペネロペは殺されて再び生き返る時のように深かった眠りから目を覚ました。


 体が熱い。


 頭もまだ痛い。


ーーでも、耐性のお陰でそんなに重症にならなかったみたいね・・・これで作戦成功だわ・・・


 ペネロペの作戦。


 それはベルタに仕返しとしてジギタリスのクッキーを食べさせることでは全くなかった。


 何なら、ジギタリス入りのクッキーを食べて、もしベルタに死なれては困るのだ。


ーーベルタは言わば私の駒・・・。存分に利用しなきゃね。


 今回の事件の真相は、間違いなくベルタを通してレイオンの耳にも伝わるだろう。何なら、もう伝わっているかもしれない。 


 本当はペネロペがクッキーに毒が入っているとわかってクッキーを食べたことも。


 ペネロペがもう鳥籠に囚われてばかりのお人形ではないことも。


ーー全てレイオン殿下に伝わるはず・・・


 それこそがペネロペの自身の身を削ってまで実行した作戦。勿論、ペネロペはマゾではない。痛いのは好きではないし、寧ろ嫌いだ。


 にも関わらず、ペネロペがベルタを脅し自らジギタリス入りとわかっているクッキーを食べた理由は一つ。


 こレイオンに対するペネロペからの宣戦布告。


 私は全てをわかってる、というかなり遠回しなメッセージ。勿論、そのメッセージをレイオンがどう受け取るかは不明だ。


ーーこれが吉と出るか凶と出るか・・・


 ただ、こんな思いきったことをしてしまったのだ。


 後にはもう退けないだろう。


 ペネロペは毛布の下で、ひっそりと拳を握り締めた。

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