第二話 来訪者
ペネロペ・フレデティカ・フィードレッドは、大陸に王者として君臨するエルサティア帝国の名門、フィードレッド公爵家の長女だ。
少し透明感のある黒髪に妖しく光る赤い瞳。整った顔立ちとスタイルは、社交界で確実に目をひくだろう。
父親のフィードレッド公爵と、五歳離れた兄が唯一の家族であり、母親のフィードレッド公爵夫人は数年前に病気で他界してしまっている。
「あー、今回はどうすれば殺されないのかしらね・・・」
ペネロペは窓に寄りかかりながら、自室から見える帝国の首都・フォラステンの街並みをぼんやりと眺めていた。
公爵邸の丁度近くを流れる運河はプカプカと木製のボートを浮かばせながら、春の陽光により水面がキラキラと眩しく輝いている。
近くの市場には多くの人が集まっており、その中には異国の商人や旅人も多くいるようで、見ていて飽きないものがある。
ペネロペとしても帝国人としても、世界一美しく発展している大都市と胸を張れる。現代で言うニューヨークだとかパリだとかロンドンだとか、そういう感じだろう。
殺されない方法などハッキリ言ってさっぱりわからない。故に思考停止したペネロペは暇になって、気づけば窓の外を眺めていたのだ。
「あー、本当に綺麗ねー・・・」
「ふーん。お前、随分暇してるみたいだな」
「!」
ボケーっと感情の対してこもっていない棒読みでぼやいていると、後ろからペネロペの声よりも少し低いであろう声がした。
「レッド!!」
「うぉっ・・・!!」
ペネロペは振り返ると思わず目の前の青年に抱きついた。しかし青年はバランスを崩さずしっかりと立っていて、さすが鍛えてるなーとペネロペは素直に感心した。
「久しぶりだなペネ」
「そうね・・・」
ペネロペとしては人生を何度もループしているせいで、もはや青年にとっての最後に会った日というのがいつだとか、そういったことは全くわからず適当に流した。
「それにしてもレッド、突然どうしたの?訪ねてくる予定があるとは誰からも聞いてないんだけど?」
「あぁ、暇だったから来たからな」
「本当に自由人ね」
オーレッド・プロティカ・アグレディド
フィードレッド公爵家同様名門のアグレディド侯爵家に長男として生まれた、銀髪とそれに同色の丸い瞳を持つペネロペと同い年の明るい青年・・・
そして彼女の幼馴染みであり親友なのだ。
「紅茶を淹れてくるわ・・・今日は何を話すつもり?オルガ嬢の悪口?それともあんたの昨日の夕食?」
「まぁ、何でもよくね?」
「ふーん。ちなみに紅茶はダージリンでいいわよね?」
「あぁ」
どかりと無遠慮にソファーに座るオーレッドに対し、いかにも嫌味っぽく告げるとペネロペは自室から出ると、厨房のある一階まで素早く駆け降りた。




