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「あなたは勇者様ですか?」「いいえ俺は勇者ではありません」  作者: /黒
第六話:広大で自由な、果ての無き大空
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3.

【――おや、アナタは】

「来てやったぜ、エセクリエイター女神」


 ファラナルドの大空を駆け巡ったその先で。俺は、それに対峙する。背中で、悪魔のような翼を羽ばたかせながら。


【妙ですね。アナタはワタシが、記憶を消し元の世界へと送り返して差し上げたハズですが】

「消してもいねぇし、記憶を封じたのもお前じゃねぇだろ」


 俺の目の前で四枚の羽を背中に浮くは、想像した通りの女神そのモノと言った風体。その大きさはとてつもなく大きく、輝く全身は「神々しい」を視覚で示しているかのようだ。


「お前、ずっと俺のこと見てたんだろ? だったら、俺がサイカを連れ戻すまで帰る気が無いのは、分かってたはずだ」

【…………】


 創造神ヤルザ・ヴォーンとか言うヤツの表情は変わらない。ただ石造のような無表情のままに、こちらを見下ろしている。


「サイカはどこだ?」

【もはや存在しません。彼女は、ワタシの中に居ます】

「…………」


 眼下に広がるは、ファラナルドの大地。大海。大空。それらには、ところどころには黒い大穴が開き、闇よりも暗き無色がどこまでも続いていた。

 世界が、再構築されようとしているのだろう。


【故に、アナタが今ここに来る意味は存在しません。ご希望であれば、元の世界へと――】

「お断りだ、バーカ」


 俺は、親指を下に突き出してブーイングサイン。


「耳が悪いのか? それとも理解力が無いのか? さっき俺は、連れ戻すまで帰る気が無いと言った。二度も同じこと言わせてんじゃねぇよ全知全能」

【聞き分けがありませんね。ワタシの慈悲を足蹴にするとは】


 創造神は、四枚の羽根を大きく広げ、その両手をまるでこちらへと向かえるように開いた。


【もう一度だけ、チャンスを与えましょう】


 そして、その正面に。すさまじい引力の穴が出現した。


【元の世界へと、お帰りなさい】

「――っ、こいつは、あの時の」


 それは、俺を元の世界へと突き返した異次元ホールと全く同じモノ。俺はもう一度この世界の者に召喚しなおされた身であるため、今度戻されたらどう戻って来ればいいのかわからない。

 ――しかし、吸われなければいい。それだけの話だ。


「随分と、舐めくさってくれるな創造神」

 俺は、インキュバス――アレックスから頂いたこの翼で、吸引に抗った。

【…………】


 更に、界魔王サイアノから得た重力を操る力を最大限に行使。絶大な重力は、時には空間さえも歪ませ、引き潰す。それは、空間の穴であっても同じこと。


「ぶぶ漬け出されても、帰る気はねぇ。これで分かったろ?」


 きれいさっぱりと、その穴を潰して。俺は創造神を睨み付けた。


【――《人心一新{リセット・オブ・ハート}》】

「――っ!」


 創造神の周囲に、空間の穴が出現。そこから、次々と影が現れる。

 それは、全てうつろな目をした森羅万象だった。人も神も獣も植物も。己の意思などない操り人形のようなそれらが、槍を、爪を、牙を、武器持って無数に飛び掛かってくる。


「そんなに自分に言いなりの駒が欲しいかよ」


 対する俺。踊魔王ニコバルトカリの、意志無き無機物の人形を呼び出す魔法を放つ。孤独な魔王が、己が身を守るために生みだしたかつての悲しき兵たちに、横暴へと抗う意志を込めて。


 人間サイズの鎧の兵隊から、大怪獣クラスの鎧の兵隊。それらは、ヤルザ・ヴォーンの生み出した粘土細工と衝突、打ち消し合ってゆく。


【《地水火風{パーフェクト・エレメンタル}》】


 互いが呼びだした兵士の間を潜り抜けヤルザ・ヴォーンへと接近をかけると、創造神の周囲を取り囲むように、土色、水色、赤色、緑色の光が出現する。

 それら四つは女神の正面で交わると、とてつもないエネルギーの光線となり照射された。

 間にいる有象無象などお構いなし。原子レベルまで分解しかねないとさえ思わせる、元素エネルギーの塊。


「ふ――ッ!」


 かつて竜の呪いをかけられた姫君、ルスト。忌まわしきはずのその力は、いかなるモノを弾く鱗でもあり、また、どのようなモノでも力づくで掌握する豪腕を身につけさせもする。


 そしてそれは、想いのために振るわれる。断面が自分の大きさの何倍もあるビームを俺は真正面から受け止めた。

 内側へと、圧縮し。圧縮し、圧縮し。固め、固め。そうして、奴の砲撃が終わった瞬間。


 野球ボールのように。その弾のサイズまで縮めたそれを、俺は全力投球した。


【――っ!】


 それは、女神の胴体に直撃した。強い光は、エネルギーの炸裂によるものだろう。

 俺自身の身体が悲鳴を上げ、あちこちから出血する。


 しかし、それらは瞬時にふさがり、痛みは夢幻のごとく消滅した。

 吸血姫ダニカの、強力な再生能力。半不死ともいえるその力で驕ることなく、他者のために尽くした女王の力。彼女の能力が、俺の身体を常に最善の状態で保ち続ける。


ちょっとやそっとのことで、この身は朽ちたりはしない。


【――っ、っ、《天威咫尺{アウト・メン・サークル}》】


 接近する俺から逃げるように後方へ飛ぶ創造神の足元から、深黒の穴が生まれた。

 追いすがりながらも身構える俺は、我が目を疑う。


 下方から、無数の流星が降り注いで来たのだ。


「重力無視かよ――ッ! ……っ!」


 直撃を避けながら飛ぶ俺は、創造神の両側に二つまた空間の穴が開くのが見えた。

 そこから、とんでもなくバカでかい剣が二本、出現する。


【この裁きの雨の中、この世界における究極の剣を避けられますか?】


 手に持たれることの無いそれ。念動力に浮かされでもしているかのように、剣が回転しながら飛んでくる。

 その周囲には、真空の刃が巻き起こっていた。直撃する流星を粉々にしながら迫るそれは、さながらミキサーの刃を思わせる。


「避けねぇよ」


 剣である故に、柄が存在する。見た目だけ豪華なその攻撃、俺は高速回転を見極めた上で、その一本を掴んで止めた。


「どォらァッッ!!」


 そのまま、もう一本へと振りかぶる。ぶん回し、互いにかち合ったそれらは、無数の破片となって砕け散った。


【ならば、これは如何でしょう?】

「――っ!?」


 創造神の姿がかき消える。流星は降り注いだまま。逃げたか、と思ったその直後。四枚の翼はためかせ、両腕を抜き手の形にして頭上からまっすぐに、創造神が襲い来る。


「っ、っ、」

【神たるワタシの忠告、聞いておけばよかったのです】


 寸でのところで突進を回避したと思えば、ヤルザ・ヴォーンはこちらを振り返り、四枚の翼を広げる。


【異世界の住民よ、去ねなさい】


 翼から、まさしく刃のように鋭い羽根が無数に襲い来る。当たればミンチ。かといって、軌道上から焦って動けば、相変わらず上り注ぐ流星の餌食だ。だから俺は――、


「吹き飛べッッ!!」


 獄魔王ソルフェリーノの、爆炎を生み出す力を用い、視界を覆い隠さんばかりの羽根を焼き払った。ただまっすぐに、創造神の中に居るハズのそいつを見つめて。

 数舜――炎と羽がぶつかり合った証の黒煙が履けてゆく。


【神が言葉は、絶対なのです】


 視界が明けた時、ヤルザ・ヴォーンが頭にかぶっていた王冠らしき輪が、女神の正面に浮いていた。


「――っ、この……ッ」


 眩いばかりの光が、その中から飛び出してくる。すさまじい勢いで飛びだしてくる光線を、俺はやっとの思いで回避する。


【故に、神であるワタシが『帰りなさい』と促した時点、アナタは帰るべきなのです】

「ぐお――っ!?」


 いつの間に回りこんできていたのか、創造神の腕が俺の身体を背後から掴んだ。


【従わぬというのであれば、滅びるとよいでしょう】

「ハイソウデスカ、なんて、返事するとでも思ってんのかッ!」

【――っ!?】


 全身全霊を込めて、俺は拘束を弾き飛ばした。そして、すぐさま振り返る。


 インキュバスのアレックス。獄魔王ソルフェリーノ。呪われし竜姫ルスト。踊魔王ニコバルトカリ。吸血姫ダニカ。界魔王サイアノ。


 それだけじゃない。これまで関わりのあった連中から一度貸し与えられた魔力。俺は全てを込めて、創造神ヤルザ・ヴォーンのどてっ腹を殴り付ける。


【「ぐ、ぅ――ッ!?」】


 うずくまるようにして身を縮こませる創造神。流星は止み、フラフラとそれまでの力強さが嘘であるかのように頼りなく空を舞う。

 これは――もしかすると、致命打を与えることができたのかもしれない。


 力の使い方は、力そのモノが教えてくれた。あいつらの、それぞれの能力を宿した魔力が。


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