3.
「カナト! キミは毎朝早起きしてお弁当作ってるそうじゃないか!」
自宅の台所へ通じる扉がバンと開く。すると、見慣れたちんちくりんが姿を現した。なんでじゃ。
「どっから入ってきた!?」
「どっから、って――玄関だけど? おーおー、作ってる作ってる。ラジオ体操もまだまだ始まる時間じゃないっていうのに、精が出るね?」
まるで自分の家のように堂々と歩き、台所で作業中の俺の手元を見物してくるサイカ。うっとおしいな!?
「ここ俺の自宅なんですけど!? 自宅なんですけど!?」
「二度言うほど大事なことかな?」
「追加でもう一度言いたいくらい大事なことだわい! あの女、出て行くときに鍵締めていかなかったのか――」
俺は誰とは無しに、苛立ちを口に出す。あれほど、外へ出るときは鍵を閉めろと言ったのに。
「うん? 何か勘違いしてないかい? 鍵は締まってたよ」
「あ――?」
――が、何か俺の思っていたこととは違うらしい。
「これ、なーんだ?」
「うん? 鍵――?」
サイカの手に、安っぽいシルバーの鍵。
「キミの住んでるアパートの合鍵、作ったった♪」
「ホント権力と立場を無駄遣いするよなオマエ!?」
どこかで見た形だと思ったら!
「それがボクの理想!」
「ダメだこりゃ!」
全くこいつは、自身の所持しているトンデモ大きなものを本当にしょうもないことに使う。こんなボロアパートの合鍵作って何がしたいんだ。
「ふんふん、それで――お弁当、そんだけっぽっちかい? わびしいねぇ」
「いつも見てるだろ――お前の持ってくる弁当? と一緒にすんなよ」
サイカのいつも持ってくる弁当は、疑問符がつくほどおかしい。何がおかしいかと言うとだ、
「いやぁ悪いね。昨日の世界三大珍味三色丼弁当は一人分なんだ」
と、この通り。フルコースでも、多分そんなにどっさりと使わないと思う。
「見せつけるように食いやがって――で、味は?」
「いかに世界三大珍味なんて持ち上げられてても、飽くまで珍味なのであって、美味しいかどうかは全く別の話だよ」
「そのセリフは、一口いただいてから聞きたかったぜ」
「言っただろう? 一人用ならぬ、一人分だって」
「ガッデム! 」
一般人には到底分からない世間話を、容赦なくぶっこみそれを分けるつもりもないのも相変わらず。まあ、今に始まったことではないのだが。
「アハハハハ! ――で、そういうキミは……、」
「見て分かるだろ。いつも通り、冷凍食品の詰め込みだよ」
「自分で料理はしないのかい?」
「もっと早く起きなきゃならねぇだろ。冷凍食品、便利だぜ? 今は凍ってるが、食べるころには常温解凍されてんだ」
これが一から作れと言われたら、膨大な時間を覚悟せねばなるまい。しかも、弁当に入れるのはせいぜい一口分程度。毎日毎日、弁当の残りを夕食で食べることになる。
「まあ、寂しいことには変わらないけどね」
「ここでまた、『お前の持ってくる弁当と一緒にするなよ』、なんて言ったら?」
「まさに、無限ループに陥るね」
「不毛だな」
「キミがボクに挑戦するのと同じく、ね」
サイカは鼻で笑いおった。
「ブツぞ超人」
「暴力はいけないよ」
「俺の拳を固く握らせてんのは誰だよ!?」
「ボクだ!」
「コブの三つは覚悟せぇやッ!」
「アハハハハハハ! カナトが怒った!」
「――ったく、よォ」
まあ、当然本気で怒っているわけではない。と言うか、こんなのでいちいち怒っていたら、こいつと会話なんてしてられない。
「そうだ。ねぇ、今日のお昼。ボクとお弁当、分け合いっこしないかい?」
「――え、あ?」
「キミのわびしさが身に染みて泣けるお弁当と、ボクの豪華が毎日過ぎて飽き飽きてきた弁当。互いに辟易してるんだ、丁度いいじゃないか」
「ほ、ホント、か――?」
「本当だとも」
じっとこちらを見つめ、微笑むサイカ。――黙ってると美少女なんだがな。ちっこいけど。
「な、なら――……っ、いや、ほ、施しなんぞ、俺は受けねぇぞ!」
「おや、ボクはそんなつもりはないんだけど」
「受けねぇ! 受けねぇっつったら、受けねぇぞバーロー!」
「意地張ってることがこれほど分かりやすいのも珍しい、ね。じゃあ、こうしよう」
「なんだよ?」
「今から、じゃんけんをする。そうして負けたほうが、勝ったほうの言う事を聞くんだ」
「と、唐突だな――」
「さよならだって突然だったりするんだ。じゃんけんが前触れ無しでも、おかしくないだろう?」
それ、何かのゲームのアイテム名だった気がする。まあ、偶にはサイカの気まぐれに乗ってやってもいいかもしれない。
「――っ、仕方ねぇな。そこまで言うなら……いいぜ。さいしょはグー!」
「じゃんけん!」
「パー」
「グー」
「おや、ボクの勝ちだね」
いちげきひっさつ! ――されてたまるか!
「っ、さ、三回勝負――」
「フッ――しょうがないなぁ。キミも諦めの悪い」
「やかましいわ! じゃーんけーん!」
「グー」
「チョキ」
「三回勝負だから、二度打ち負けた君の敗北だね」
二度目もない。完敗である。
「く、お、おお――」
「それじゃあ、向こう一週間キミは学校にいる間ボクのお世話係だ」
「弁当の話じゃなかったのかよ!?」
「何の勝負かは言って無かったろう?」
これはド正論。――に見えた、言い繕い! こいつと共にいて積み重ねられてきた記憶が、そ を確かな とだ 自覚 せる。
「……――確かに! って、待て待て!? 納得 る ! 」
「アッハッハッハッハ! キミがボクに勝とうなんて、あ ゆる意 で二 六百 年 早




