5.
やるべきこと。そう、目の前の男は答えた。
その言葉が意味することは、まさしく「使命」だった。己自身に課された、自らを縛る戒め。それが、いつかの我を思い起こさせる。
かつて我は、この世界の「理」を自らの存在理由である強く信じ、そのために「魔王」として君臨していた。
魔物たちを率い、人間が我が物顔で歩くこの世界を魔物のための世界へと変える。それこそが、この我のあるべき姿である、と。
この世に生まれ落ちて以来、それをずっと考え、しもべ共に指示を与え。特にそれに疑問を覚えることなく戦ってきていた。
なぜなら、我は他に知らなかったからだ。この力、この命。全てを、魔族の栄光に捧げること以外に。
――だがある時、我の前に勇者が現れた。
長い金髪に碧眼、赤を基調とした衣服、その上に銀色の鎧を纏った女。そいつは、強い魔力を秘めた剣を、あろうことか背中に背負ったまま、構えることなく我の前に対峙した。
そして、妙に自信たっぷりな顔つきでこう問うたのだ。
『あなたは、なぜ戦うのかしら?』
その顔は、恐怖によるハッタリでもなく、はたまた己を過信した愚者の顔でもなく。
――ただ、我の根幹が空虚であることを、見透かし指摘するモノだった。
そんなモノ、ただ戯言と聞き流すのは容易、のハズであるのに。碧き二つの眼が。その存在が、我を否応なしにその言葉に釘付けにした。
その瞳は、ひたすらに強かった。ヤツもまた、背負うモノがあると言う。だが、それには相応の重さがあり、その重みが、自らを立ち上がらせたのだと言う。
それを目の当たりにした時、我は直感的に自らの薄っぺらさを思い知らされた。ただ「魔族の繁栄のため」だと言う尊大な定型句も、ヤツの言霊の前には紙切れも同然のように感じた。
互いの「使命」、その込めたる重さには大きな違いがあったからだと、我は思う。ただ、その重さの内容は未だはっきりとせず、今もこうして我の頭を悩ませていた。
何度となく言葉を交わし合った勇者。ヤツならば、我の疑問にも対応してくれたかもしれない。あれは敵でありながら、この界魔王相手でさえ会話を楽しんでいる節があったからだ。
けれども、勇者は。あの世界は――もう存在しない。
今一度、あの勇者が我が前に現れてくれさえすれば。そんな、叶うはずもなき我が望み。何故あの時問わなかったのか、という後悔。
だから、我は戦う。勇者ならば。あるいは、それに準ずるものならば。強き眼を持って「使命」を掲げる者であれば。サイカの助言の通り、我に分からせてくれると、そう信じて。




