3.
昼と夜の境。あの時も、このぐらいの時間帯だったろうか。
相対する、我と勇者。幾度となくぶつかり合ってきた、我らの戦い。夜空に流るる星のごとき金色の長髪が舞い、鋭い斬撃が放たれる。
我の放つ魔法弾がヤツをかすめる。ヤツの魔法剣が我をかすめる。こうして目を閉じれば、鮮明に当時の光景が思いだされる。
それに比べ、当代の勇者にはガッカリさせられた。男だろうと女だろうと我の前では関係ないが、まさしく、サイカの言う「才能と機会だけの人間」である。
現世に戻ってきてからと言うもの、あの女勇者と戦っていた時のような気分を、我は一切味わえていない。どこの場所で誰と戦おうとも、自分と対等にやり合える者はいなかったからだ。当代の勇者意外とも力をぶつかり合わせたが、どれも我を満たすには程遠い。
即ち、我は渇望している。あの時代の、あの女勇者との戦いの数々を。
戦いの数だけ言葉を交わし、戦いの数だけ血も流れた。その度の高揚感は、立ち止まるといつも思いだしてしまう。
我ながら、実に見苦しい執着であると思う。だが、それだけ我は今も、過去の熱戦を求めていた。
「ようやく、辿り着いたか」
我は窓の外を眺めつつ、その気配を感じ取った。
今現在、界魔王軍が大半を占拠したヴァラキス王国。その国土には、まだ支配が完了していない地域であっても、どこに誰がいるのかを感知できる結界が張られているのだ。サイカの執着するあの男が、今我の認識に引っかかった。
あとは、命令をこなすだけである。
サイカの命令は、「カナトと適当に戦って負けてこい」と言うもの。すなわち、この我が、わざと負けろと言われているのである。
例え半分の力であっても、本来なら負けるはずはないだろう。
故に、この戦いでは適度に手を抜かねばならない。サイカのことだ、あまりにもわざとらしすぎれば、まず間違いなく文句を唱えるに違いないので、全力で加減しなければならない。
しかしながら、それは我が求めているモノとは全く異なるモノ。それを想うと、やはりあまりやる気は起きてこなかった。
サイカは、我が何故ここまで、かの時代にしがみつくのかを知っていると言う。だがそれを伝えはせず、自身で気が付かなくば理解できないと、だんまりを決め込んだ。
それは我を従わせやすくする虚言と思えなくもない。が、そう断言する言葉と瞳は、それが真実であることを如実に語っていた。
故に、我はサイカの命を聞く。大魔王は、自分の近くにいれば、その内固執する理由が分かるやもしれぬと、我をそそのかすものだから。
――嗚呼、あの女勇者が蘇りさえすれば、すぐこんな泥沼の思考にも決着が着くやもしれぬと言うのに。
そう考えて、初めて少しだけ、かの女勇者に恨みがましい気持ちが生まれた。




