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1.

「…………」

「キミの探しモノは見つかったかい?」


 廊下で窓をぼうっと眺める鎧姿に、ボクは声をかける。


 上半身や両腕を、鈍い青色をした金属の鎧を纏い。先端がこちらへと向かって反るように尖った兜も、仮面と一体化して頭部全てを包み、完全に覆い隠したその姿。胸部から下は青紫のローブで覆い隠され、背中からも同色のそれが垂れ下がっている。

 一見して、ソルフェリーノともニコバルトカリとも全く異なるその姿。一切の体温を感じさせない、斬り裂くような冷たさはその見た目だけではないだろう。

 彼の名は、界魔王サイアノ。ソルフェリーノのようにやりすぎることもなく、ニコバルトカリのように自分勝手を働くこともない、ボクの言うことを忠実に聞いてくれる三魔王の一人だ。


「サイカ、か」

「キミの探し物は、夜空に転がっているモノなんかじゃないよ」

「承知している。ただ、思いだしていた」

「また先代の勇者のことかい?」

「…………」


 視線は窓の外に向けたまま、返答は帰ってこない。別に、夜空広がる天空にUFOのような面白いものが飛んでいる筈もなく。が、それが肯定を表していることは、何度となく話していれば分かる。


「当代の勇者ではご不満だったかな?」

「違った。あの者は我が求めている者ではない」

「だろうね。あれは、ただ才能と機会に恵まれただけの一般市民さ」


 本来の歴史ならば、その当代勇者がボクへと立ち向かってくる予定だったのだろう。だが流石の勇者と言えど、経験も積まぬうちにボクも含めた魔王四体相手じゃ、無理ゲーもいいところだ。

 もっとも、大半相対したのは目の前のサイアノだけだったが。


「汝は、我が真に求むモノを知っているのだろう?」

「まあね。すごく分かりやすい」

「ならば、なぜそれを我に伝えようとせぬ?」

「再三にわたって言ってるけど、多分口で言ったんじゃ、魔王のキミにはピンと来ないからさ」

「つまり、我の知識不足である、と? この界魔王が?」

「知識、と言うと少し違うかな。どちらかと言うと、経験、かもしれない。いわゆる経験値。言ってあげられるの、それくらいだね」

「徹底的に、頑なだな」

「ヒント与えすぎな推理漫画なんて、読んでてもアハ体験しないだろう?」

「――汝の生きた文化で例えぬでくれ。我には分からぬ」

「結局、ボクの言ってることは変わってないさ。時間をかけて、いろんなモノを見て、そして熟考したまえ」


 そうすれば、直にわかるさ。ボクがそう言うとサイアノは、上げていた視線を下におろす。

しょげているのか、それともまた考え込んでしまったのか。少なくとも、機嫌がいいとは言えなさそうだ。


「さて、と――ボクはボクで小腹すいちゃったかな」


 気分を変え、おやつにする。ボクはパンパンと手を打ち鳴らし、「召使い」を呼んだ。


「くっ、いい加減にしなさい何度目なのよあんた!?」


 すると、メイド服に身を包んだ金髪の少女が、駆け足でボクのところまでやってきた。駆け足で。


「――ニコバルトカリ? 貴様、何をしている?」

「るっさい鉄屑仮面!」

「今彼女はね。オシオキで、メイド服を着てボクの召使いをしてるんだよ。知らなかったかい? ついでに、空飛ぶの禁止」

「我は、汝の命で世界各地を回っていたからな」

「あははっ、そう言えばそうだったね。――さて、ニコバルトカリ」

「何よ!? 早く用件いいなさいよね!? クソ!? それともメシ!?」


 一応召使いであるはずなのに、相変わらず言葉遣いは胃腸風邪の時にスルメを食べた時くらいよろしくない。まあ、彼女が丁寧な言葉を使うとそれはそれで気持ち悪いが。


「焼きそばパン買ってきてくれないかな」

「うん? なんです、って――?」

「や・き・そ・ば・ぱ・ん」

「超耳慣れない単語なんだけど!?」

「ほらほら、早くしなよ。ボクは小腹が空いたんだ、早く焼きそばパンを買ってきたまえ」

「だから何なのよヤキソバパンって!? 民族料理!? もうそろそろブチキレるわよ!? この間からワケのわからない注文ばっかり!」

「贅沢言うなァ。ソルフェリーノはメイドさんもとい召使いを羨ましがってたと言うのに」

「あんなドマゾ脳筋と一緒にするんじゃないわよ!?」


 なお、その脳筋だけど、どこからともなく持ってきたメイド服着ようとしてブチブチブチィ! と破っちゃったっけ。需要のなさを、見事服から警告されていた。


「ともかく、焼きそばパンだよ。分かったね」

「分かったね、じゃないわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――…………」


 彼女の足元に空間の穴を作って送りだしてやった。いやはや、これはいいドップラー効果。


「――我も、その『ヤキソバパン』とやらなど、聞いたこともないぞ?」

「だってあるわけないし。多分」

「サイカ、後にどうなっても知らぬぞ――?」

「さて、ボクはボクで冷やしておいたコーヒーゼリーでも食べるかな。キミは食べるかい?」

「いや――」


 呆れ気味に首を横に振るサイアノ。おいしいのに、残念だ。

 ボクは右手に、ガラスの器に盛られたゼリーを転移させ、左手にスプーンを引き寄せる。生クリームの乗った黒曜石のようなそれをつつくと、ぷるぷるとボクの食欲を誘惑した。

 ――と、そうだ。ボクが彼に声をかけた用事、それを言うのを忘れていた。


「そうだ、サイアノ。またで悪いんだけど、行ってもらいたいところがあるんだ」

「我はヤキソバパンとやらなど買いに行かぬぞ」

「キミが買いに行ったらそれこそ大騒ぎだよ」


 寡黙で冷静な彼の口からその単語が出るとは思わなかった。だが、ニコバルトカリに頼んだことを、彼にそのまま頼むわけが無い。


「ちょっとある小さな国を適当に支配して、カナトが来るのを待っていてほしいんだ」


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