7.
「――で、見事にボッコボコのベッコベコのズッタズタに返り討ちったわけ、だね」
ボロボロのゴシックドレスに身を纏い、長い金髪をボサボサにしつつ佇む、腕組み状態のニコバルトカリ。彼女は私的されると、不機嫌そうにボクから目線をそらしていた。
「だから言ったのに」
「っ、あのクソドラゴンさえいなきゃ、ズタボロにのしてたわよ!」
「ホントにぃ~? ホントにかなぁ~?」
「うるさいわね!」
勝手に飛び出して行って、何もかも否定されて。自らの不手際で心身ともにボロボロにされたその様子は、見ていられないを通り越して苦笑いまでしてしまいそうだ。
「全く、もう少し素直なら、あのドラゴンとはお友達になれたかもしれないのにね」
「っ、誰がッ、そんなこと――ッ」
そのクセ、自分のあらゆる意味での敗北を認めようとしない。そういうところは、やはり少しばかりカナトに似ている。
「まあでも、おかげさまで彼にはいい経験になったろうさ。その点だけは、その自分勝手に感謝しておくよ」
「っ、何を偉そうに――ッ」
「それともう一つ。魔王とはいえ、大事にならないわけじゃないんだから。相手が優しくて甘いカナトじゃなかったら、ホントに命を落としてた可能性もあるよ?」
「何よそれ、忠告のつもり!? だいたいカナト! カナト! って! だったらあんたが行けばいいじゃない!」
「はぁ……一応、キミの心配をしてあげてるんだけどな」
「っ! ふんっ!」
「おっと、待つんだニコバルトカリ」
「何よ、お小言はもう充分でしょうが!?」
確かに、「お小言」は済んだ。だが、ボクとしてはもう一つ。キミにやるべきことがあるんだよね。
「オ・シ・オ・キ♪」
◆ ◆ ◆ ◆
「――大丈夫かなぁルストちゃん」
山村ドルスを後にし、山岳地帯を抜けるかと言った辺りで。アレックスがつぶやいた。
「魔族で、かつ性欲魔神のお前が心配して見せるとな?」
「僕は決して下半身で生きてるわけじゃないと何度も!」
サイカに教えられた魔法は、ルストにかかっていた強力な呪いの魔力、その大半を吸い上げたらしい。
そのために、ルストは一時的に人間の姿に戻ることができた――と言うのがアレックスの推測。しかしそれだと、呪いは消えていないんじゃないか? と俺は思ったのだが。
本人曰く、「な、なるほど、つまり定期的に魔力を発散すれば人の姿のままでいられるのですね!? わたくし、今度からそうさせていただきます!」とのこと。
呪いの魔力とやらがどうにでもなるのか? と思ったが、発言直後の実験・実証を見るにホントにどうにか出来てしまう臭いのだからあきれ果てる。
最初からやれ、と言いたくなったが――多分、のほほんとしたあの頭のおかげで、思い至らなかったに違いない。あり得る。
その後、山村ドルスを良いところにすると豪語し、これから村で暮らすらしいが――全く、本当にお人よしが過ぎるというか、何と言うか。
「カナトだって、心配じゃないのかい?」
「あの魔王からサイカについての情報引きだせなかったし、この先どうなるか興味ねーな」
「勢い込んで、ルストちゃんの呪いから吸い取った魔力を全部使っちゃったほど、全力だったクセに。ホントはやっぱり、心配してるでショ?」
「るせーな! 殴るぞ!」
ヒトの優しさを、別の誰かがきっと見ている。それは、必ずしも、良い者が見ているとは限らない。時には、それを利用されてしまうことすらあるだろう。
――けれども、それでも。ヒトをどこまでも信じ、優しいまなざしを向けられるその心を。
俺は心の底から、尊敬したい。




