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二人の差

 スクリーンの向こうで、二体の竜騎兵が激しくぶつかりあう。

「どうしよう!どうしよう!ブランさまが負けちゃったら!」

 ベリルが顔色を青くして、ユーミの肩口に強い力でしがみつく。

 ユーミは制服が伸びませんようにと祈りながら、冷静な口調で言った。

「心配しなくても、これはクリスが勝つよ」

 その顔は嬉しそうではなく、かといって悲しんでるわけでもなく、どこか複雑な表情だった。

「え、なんで?」

 急に模擬戦の結果を予言したユーミにベリルがたずねる。

「クロトの攻撃はきれい過ぎる……」



 一見、互角に戦っているように見える、ルインブラックとホワイトワン。

 しかし、ユーミから見るとそれは違った。ホワイトワンはまだ余裕がある。

 ホワイトワンが相手との距離をとったり急に近づいてみせたりするのに対して、ルインブラックはホワイトワンにむかってまっすぐ突っ込んでいるだけだった。

 それはスピードの違いももちろんあるが、クリスは相手に揺さぶりをかけて隙を引き出そうとしていた。

 開戦後すぐにいきなりルインブラックへ接近したのもそのためだろう。

 近接戦闘は自分の間合いだと思っていたクロトは不意をつかれ、危うく光子の刃を喰らうところだった。

 一方、クリスはそのクロトの油断を読んでいたかのように、まざまざと相手の間合いから近接攻撃をくりだしたあと、無傷で脱出してみせた。


 そもそも、この戦闘はホワイトワンが圧倒的有利だとユーミは思っている。

 ユーミから言わせると、クロトの攻撃は破壊する力が強すぎるのだ。

 この宇宙のすべてのものを破壊する攻撃。それは一見、強力無比に思える。


 しかし本来、兵器というのは、汚いものだ。

 たとえば手榴弾。はるか昔から存在するこの武器は。爆炎で攻撃するのではなく、爆発するとき飛散する破片により周囲を攻撃する。

 たとえば核爆弾。爆発の爆風と熱線がもっとも恐ろしい部分であるが、爆発時に放出されるガンマ線、爆発後の放射性物質の飛散も被害をもたらす。

 兵器はエネルギーの解放という根源的な部分だけでなく、その残余部分である破片や飛沫も兵器として役立てている。

 質量をすべてエネルギーに転換する対消滅をつかった爆弾でも、あとにはエネルギーが残る。

 でも、ルインブラックのゲージ粒子破壊因子は、そのエネルギーすら消滅させてしまっている。絶対的な破壊を実現してしまった結果、その攻撃範囲は彼の爪から放たれる因子が届く範囲に限られた。

 破壊を求めすぎたあまり、結果的に兵器として肝心の威力が小さくなってしまっている。

 それがルインブラックの大きな弱点だった。


 それでも、大喰い竜クエーサーみたいな足の遅い相手なら、敵の砲撃をゲージ粒子破壊因子で消しながら、相手と距離を詰めれば勝てるだろう。

 しかし、ホワイトワンの速度はルインブラックを上回る。追いつくことができない。


 いま、ルインブラックがホワイトワンと互角に戦えているように見えるのは、ゲージ粒子破壊因子のきわめてすぐれた防御特性のおかげだった。

 衝撃もエネルギーもすべて消し去る。それは爪が触れる限りは、どんな攻撃も無効化できるということだった。

 全てを破壊したいと願って得た力が、その防御特性により勝負を互角の土俵ぎりぎりに保たせている。

 それはクロトにとって皮肉なことだった。


 勝負の主導権を握っているのはクリス。

 クリスは自ら距離をコントロールし、クロトの心理的な不意をつき、その防御が崩れるのを待っている。


「どうしたの?防御してるだけじゃ勝てないよ。僕に勝つんじゃなかった?」

 光の刃の連撃を続けながら、クリスがクロトを挑発する。


 ホワイトワンの攻撃はえげつない。

 光子ブレードは破壊力そのものはA+に留まるものの、それでも十分な殺傷力を持ち、連射性に優れ、射程距離があり、そして速い。

 それをクロトの隙がありそうな空間に容赦なく打ち込みながら、言葉でもクロトを揺さぶる。


 クリスも普段はこんな戦い方はしない。特に言葉で揺さぶりをかけるのは、クロトが相手のときぐらいだった。

 もし、二人の会話がスクリーンの前の人間に聞こえれば、みんな普段のクリスとの違いに驚くかもしれない。

 クリスにとってもクロトは特別な相手ということだった。


「くそ!調子のってんじゃねぇえええええ!!」

 クロトが叫ぶ。

 ホワイトワンの攻撃に防戦一方だったルインブラックの動きが加速した。

 光子ブレードを切り裂き、遠くにいたホワイトワンの目前に瞬時に現れる。


 速かった。

 まるでホワイトワンかと見紛うがごとく。

 必殺の爪の一撃が、ホワイトワンの顔に向かって放たれた。

 ホワイトワンが上体をそらしそれを避ける。


「いやー!ブランさまー!」

 スクリーンをみていた女子から悲鳴があがった。

 ユーミの隣からもあがった。ユーミの制服の袖口が無情にも伸びていく。


「おちやがれええええ!」

 ルインブラックはホワイトワンに張り付き、破壊の爪の連打を繰り出す。

 触れたら終わりの爪の連撃。ホワイトワンは避けるしかない。

 ルインブラックの動きは早くなっていた。恐らく速度はA+。しかも限りなくNDに近い。

 クロトのクリスに負けたくないという気持ちが、ルインブラックの感応性の高さにより、その性能を引き上げたのだろう。


 ユーミはため息をついた。

(クロト……、それじゃだめだよ……)


 ホワイトワンはルインブラックの攻撃を間一髪で避け続けている。

 一見、ピンチに見える。

 でも、それはホワイトワンがルインブラックを光子ブレードで攻撃していたときと同じなのだ。


 ホワイトワンとルインブラックの動作性は互角。

 そして前半で勝負は拮抗し、ホワイトワンはルインブラックの防御を崩しにかかった。


 今のルインブラックは追いついたスピードに任せて闇雲に攻撃しているだけだ。

 敵の防御を崩す算段はそこにはない。

 つまりさっきとは立場が逆になっただけで、勝負は拮抗し続ける。


 そして感応性による能力の上昇は、あくまでも一時的なものに過ぎない。

 それは竜子の通常以上の酷使を意味し、やがてパフォーマンスは落ちていく。


 ルインブラックが腕を振りかぶったとき、ホワイトワンが後ろに移動した。

 あっさりと距離を離される。

 ホワイトワンが速くなったのではない、ルインブラックの速度が落ちたのだ。クロトの自身の反応速度も。

 そしておそらく動作性も落ちている……。


 勝負の均衡が崩れた。

 ホワイトワンが腕を振るい光子ブレードを発生させた。

 ルインブラックの防御は間に合わず、左肩がわずかに切断される。


「ちくしょう!」

 クロトは毒付きながら、回し蹴りのように脚を回転させると、近くにあった岩を粉々に粉砕した。

 周囲に多量の塵が散布される。

 光子の直進を防ぎ、少しでも威力を弱めるつもりなのだ。


「下策だね」

 クリスがあざ笑うようにつぶやいた。

 ホワイトワンが初めて、その右腕に装備された剣をかざす。

 その剣はホワイトワン自身の体ではなく、彼専用に作られた外部兵装だった。

「カレントソード!」

 ホワイトワンの機械形状の翼から強力な磁場が展開される。

 それはホワイトワンが持つ剣によりコントロールされ、周囲の電荷性を持つ物質を念力のように動かす。


 まずルインブラックが散布した塵が、彼自身を巻き込むように渦巻きだした。

「くっ」

 宇宙におきた砂嵐。攻撃力はほとんどないが、完全に視界を奪われる。

 そしてホワイトワンが剣を振るうと、周囲の岩が360度から彼に向かって飛んでいく。

「ぐはあっ!」

 多量の岩がルインブラックを殴りつけていく。視界を奪われていては防御することはできない。

 威力は低くても、確実にダメージは蓄積されていく。

 このままではなぶり殺しだった。


 もはやクロトには打てる手はひとつしかなかった。

 周囲をまう岩をゲージ粒子破壊因子で消失させ、一気に飛び出し、ホワイトワンへと近接し爪を当てる。

(どこだ……、どこにいる……)

 クロトは塵のまう周囲を見回した。

 この中にいればどんどん体力が削られていく。突撃の際に、不意打ちになるような速度を確保するためには、そう長いこと中にはいられなかった。


 一瞬、塵に隙間ができる。白い光がそこから見える。

「そこか!」

 ルインブラックは最後の力を振り絞り、岩の嵐から飛び出した。

 黒い爪が白い光を切り裂き消滅させる。

 それは、ただの幻影だった。

「今日も僕の勝ちだね」

 後ろから声が聞こえた。

 ホワイトワンの第一の力は光子のコントロール。わざとみせたのだ。嵐に隙間をつくって、ホワイトワンだと誤認させるような光を。

 完全に後ろに回りこまれた。

 ルインブラックは右手を光の幻影に突き出したポーズのまま、立て直すことができない。左腕は肩を光子ブレードに斬られたことにより動作性が下がっていた。

 防御することはできない。

 ホワイトワンが右手を振るう。

 発生した光速の刃は、ルインブラックの背中を袈裟斬りに切り裂いた。

 ルインブラックが消滅する。


『勝者、ホワイトワン。クリス=ブランです』

 スクリーンから無機質な勝利報告が流れると。

「うおおおおおおおお」

「きゃああ!ブランさまああ!」

 食堂前は大盛り上がりだった。

 ベリルたち女子は目をハートマークにしてスクリーンに食いつき離れる気配がない。

 ユーミはひとり、大騒ぎの広場に背を向け離れていった。

 頭を掻きながらつぶやく。

「どっちにも負けてほしくない勝負って、見るの苦手だなぁ……」




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