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波待ち。  作者: 阿部兄弟
最終章 REHARBOR

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82/84

83話 「母親」

家族になるって、

紙一枚の話じゃない。


ちゃんと相手の人生を受け取って、

自分の人生も差し出す事なんだと思う。


夕方。


⸻


⸻


REHARBORには、

まだコーヒーの香りが残っていた。


⸻


⸻


グランドオープン前日。


⸻


⸻


カウンターには、

明日使うカップが並んでいる。


⸻


⸻


澪はレジ前で、

伝票を確認していた。


⸻


⸻


「ねぇ蒼」


⸻


⸻


「んー?」


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「なんか緊張してきた」


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「今更?」


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⸻


「今更だよ」


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⸻


澪が笑う。


⸻


⸻


蒼も少し笑って、

エプロンを外した。


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「俺ちょっと、すだけいんとこ行ってくるわ」


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「今から?」


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⸻


「うん、明日の事で少し」


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「そっか」


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澪は特に疑わなかった。


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「遅くなる?」


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「そんなならない」


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「りょーかい」


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⸻


澪はまた伝票へ目を落とす。


⸻


⸻


蒼は、

その横顔を少しだけ見た。


⸻


⸻


多分。


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⸻


この人と、

ちゃんと人生をやっていきたい。


⸻


⸻


そう思った。


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「行ってくる」


⸻


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「はーい」


⸻


⸻


店を出る。


⸻


⸻


夕方の風は、

少しだけ潮の匂いがした。


⸻


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向かった先は、

すだけいの店じゃない。


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⸻


澪の実家だった。


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インターホンを押す。


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しばらくして、

扉が開いた。


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「あれ?」


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母親だった。


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「蒼君?」


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「こんばんは」


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⸻


「え?澪は?」


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⸻


蒼は、

少しだけ背筋を伸ばす。


⸻


⸻


「今日は、一人で来ました」


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⸻


その瞬間。


⸻


⸻


奥に居た父親が、

静かに蒼を見た。


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ほんの少し。


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目が合う。


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⸻


そして父親は、

小さく頷いた。


⸻


⸻


空気で、

察したみたいだった。


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⸻


「まぁ入って入って」


⸻


⸻


母親はまだ、

いつもの調子だった。


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⸻


「今お茶入れるね」


⸻


⸻


リビングへ入る。


⸻


⸻


この家は、

不思議と落ち着く。


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⸻


テレビの音。


キッチンの生活音。


柔軟剤みたいな匂い。


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⸻


“ちゃんと帰る場所がある家”

って感じがした。


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父親が立ち上がる。


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「俺ちょっと、アイス買ってくるわ」


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「え?

 今?」


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⸻


母親が振り返る。


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⸻


「冷凍庫にあるじゃない」


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「いや、なんか違うの食いたい」


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⸻


どう考えても嘘だった。


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⸻


でも父親は、

普通の顔して財布を持つ。


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⸻


出て行く前。


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⸻


蒼の肩を、

軽く叩いた。


⸻


⸻


「がんばれよ」


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⸻


その一言だけ残して、

家を出る。


⸻


⸻


扉が閉まった後。


⸻


⸻


リビングが急に静かになった。


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⸻


母親が、

蒼を見る。


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⸻


「……なに?」


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⸻


少し笑ってる。


⸻


⸻


でも、

なんとなく分かってる顔だった。


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⸻


蒼は、

一度息を吐く。


⸻


⸻


「……実は今日、ちゃんと話したい事があって来ました」


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⸻


母親は、

静かに座り直した。


⸻


⸻


「うん」


⸻


⸻


蒼は、

少しだけ緊張したまま言う。


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⸻


「お父さんには、先に話しました」


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⸻


母親が、

少しだけ間を空ける。


⸻


⸻


「あー……うん」


⸻


⸻


その反応で、

蒼は少し察した。


⸻


⸻


多分、

もうなんとなく気付いてたんだろうなって。


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⸻


母親は、

どこか困ったように笑う。


⸻


⸻


「あの人、分かりやすいからねぇ」


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「急に出て行くし」


⸻


⸻


蒼も少し笑った。


⸻


⸻


でも、

すぐ真面目な顔へ戻る。


⸻


⸻


「俺…澪と結婚したいと思ってます」


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⸻


静かな声だった。


⸻


⸻


でも、

迷いは無かった。


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⸻


母親は、

すぐには答えない。


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⸻


ただ、

蒼の顔を静かに見ていた。


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⸻


「……そっかぁ」


⸻


⸻


小さく笑う。


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「そうだと思った」


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嬉しそうで。


寂しそうで。


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⸻


でもどこか、

安心してる顔だった。


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⸻


「澪ね、昔から人の事ばっかり優先する子だったの」


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⸻


「自分が我慢すればいいって、そういうとこあって」


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⸻


蒼は静かに聞く。


⸻


⸻


「離婚した時も、本当はボロボロだったと思う」


⸻


⸻


「でもあの子、平気そうにしてたから」


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⸻


母親は、

少しだけ目を伏せた。


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⸻


「だから最初、正直少し怖かったの」


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⸻


「また無理するんじゃないかなって」


⸻


⸻


その言葉は、

責めてる訳じゃなかった。


⸻


⸻


“母親としての本音”

だった。


⸻


⸻


蒼は、

ゆっくり頷く。


⸻


⸻


「……はい」


⸻


⸻


「でもね、最近本当に幸せそうなのよ」


⸻


⸻


母親が笑う。


⸻


⸻


「蒼君の話してる時の顔見れば分かるもの」


⸻


⸻


その言葉に、

蒼は少しだけ照れ臭そうに笑った。


⸻


⸻


母親は、

ゆっくり言う。


⸻


⸻


「これからも、澪の隣に居てあげてね」


⸻


⸻


蒼は、

しっかり頷いた。


⸻


⸻


「……はい」


⸻


⸻


少し沈黙。


⸻


⸻


そのあと蒼が、

少しだけ力の抜けた顔で笑う。


⸻


⸻


「まぁ……まだ本人の許可はもらってないんですけどね」


⸻


⸻


母親が吹き出す。


⸻


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「ふふっ」


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⸻


「そこ一番大事じゃない」


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リビングに、

少し柔らかい笑い声が広がった。


⸻


⸻


その時。


⸻


⸻


玄関の扉が開く音がした。


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「ただいまー」


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父親だった。


⸻


⸻


ビニール袋を片手に、

わざとらしく入って来る。


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母親が呆れたように笑う。


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「お父さんも、私に何も言わないのよー」


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⸻


蒼が少し笑う。


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⸻


「そうなんですか?」


⸻


⸻


「そうよー」


⸻


⸻


父親は、

靴を脱ぎながら二人を見る。


⸻


⸻


「なになに?」


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⸻


「この感じは、もう話終わったのか?」


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⸻


蒼は、

姿勢を正した。


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⸻


「……はい」


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⸻


「ありがとうございます」


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⸻


父親は、

ふっと笑った。


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「そっか」


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そして、

ソファへ腰を下ろす。


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⸻


「俺たちさ」


⸻


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「二人でよく話してたんだよ」


⸻


⸻


蒼が顔を上げる。


⸻


⸻


「こうなるだろうねって」


⸻


⸻


「蒼君なら、大丈夫だよなって」


⸻


⸻


蒼は、

言葉が出なかった。


⸻


⸻


父親は、

穏やかな声で続ける。


⸻


⸻


「お店も始めたばかりだし」


⸻


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「正直、これから色々あると思う」


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⸻


「金の事もあるし」


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⸻


「上手くいかない日も絶対ある」


⸻


⸻


「不安定だよ」


⸻


⸻


現実的な言葉だった。


⸻


⸻


でも、

否定じゃなかった。


⸻


⸻


父親は、

少し笑う。


⸻


⸻


「だけどさ」


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⸻


「親になって、歳を取って思うけど」


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⸻


「人生一回しか無いんだから、やりたい事やれ」


⸻


⸻


蒼は、

静かに聞いていた。


⸻


⸻


「その方が、生きてるって感じするだろ?」


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⸻


父親は、

隣の母親を見る。


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⸻


「お母さんは、心配だと思うけど」


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⸻


母親は、

少し困ったように笑う。


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⸻


「んー……まぁでも」


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「これは澪も決めた道だしね」


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⸻


「二人で支え合っていけば、きっと大丈夫よ」


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⸻


父親が続ける。


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⸻


「それでもダメなら、俺たちが居るから」


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⸻


その瞬間。


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蒼の中で、

何かが切れた。


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張っていたものが、

少しだけ緩む。


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⸻


離婚して。


蓮と会えなくなって。


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⸻


自分にはもう、

“家族”ってものは遠いと思ってた。


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⸻


でも今。


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⸻


目の前の二人は、

ちゃんと自分を受け入れようとしてくれている。


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⸻


蒼は、

俯いた。


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⸻


視界が滲む。


⸻


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こんな風に、

人の前で涙が出るなんて思わなかった。


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「……はい」


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⸻


声が少し震える。


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⸻


「本当に、ありがとうございます」


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⸻


蒼は、

ゆっくり頭を下げた。


⸻


⸻


「幸せにします」


⸻


⸻


父親と母親は、

顔を見合わせる。


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⸻


そして、

どこか安心したように笑った。


⸻


⸻


まるで。


⸻


⸻


ずっと待っていた言葉を、

ようやく聞けたみたいに。

「幸せにします」


簡単な言葉なのに、

蒼にとっては人生で一番重い言葉だった気がする。

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