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波待ち。  作者: 阿部兄弟
最終章 REHARBOR

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79/84

79話 「家族」

いつか、

こんな日が来たらいいなって思ってた。


好きな人が居て。

家族が笑っていて。

自分の作った場所に、

みんなが集まってくれる日。


夕方。




海の向こうが、

少しずつオレンジ色に変わり始めていた。




昼間よりも、

店の照明が目立つ時間。




REHARBORの窓ガラスに、

柔らかい灯りが映っている。




澪はカウンターの中で、

グラスを拭いていた。




蒼は入口近くで、

椅子の位置を少し直している。




昼から人が途切れず来て。


笑って。


話して。




気が付けば、

もう夕方だった。




店の中には、

少しだけ疲労感がある。




でもそれ以上に、

満たされていた。




その時。




扉が開く。




「はいどーもー」




楓だった。




黒のジャケットを肩に掛け、

仕事終わりらしいラフな格好。




少し疲れてるはずなのに、

相変わらず空気が明るい。




「楓ちゃーん!」




澪がすぐ抱きつく。




「澪ちゃ〜ん」




楓も笑いながら、

澪にすり寄る。




「仲良いなお前ら」




蒼が呆れたように笑った。




楓は店内を見回す。




窓。


照明。


木のカウンター。


奥のボードラック。




そして、

少し目を丸くした。




「めっちゃいいじゃん!」




「てか暗くなってきたら、もっとオシャレじゃない?」




「私もそれ思った!」




澪が嬉しそうに笑う。




店の灯りが、

二人の顔を柔らかく照らしていた。




楓はそのままカウンター席へ座る。




「んじゃ、カフェラテひとつ下さい!」




蒼が即座に返す。




「ださ」




「なにー?」




楓が眉を上げる。




「あ、えーっと、もしかしてだけど兄貴って」




「ブラック飲めるのがかっこいいと思ってる系?」




「うわーきついわ。28でそれは」




「うるせぇなほんとに」




蒼が苦笑する。




澪が笑いを堪えながら、

カウンターの中で肩を震わせている。




「分かったよ」




蒼が諦めたように言う。




「澪、頼む」




「結局澪ちゃんかよ」




みんなで笑った。




その空気が、

蒼は好きだった。




家族みたいで。


でもどこか、

ちゃんと未来へ進んでいる感じがする。




少し前の自分なら、

こんな時間が来るなんて思わなかった。




その時。




また扉が開いた。




「こんばんはー」




澪の両親だった。




母親は両手に大きな袋を持ち、

父親は少し照れ臭そうに店を見上げている。




「すごい店!」




「素敵〜!」




澪がすぐ駆け寄る。




「来てくれたんだ」




「当たり前でしょ」




蒼も頭を下げた。




「今日は来てくれてありがとうございます」




「蒼君おめでとうね」




「澪も、本当に良かったねぇ」




母親の声は、

少し潤んでいた。




澪は照れ臭そうに笑う。




「うん、ありがと」




父親は、

静かに店を見回していた。




照明。


並び始めた雑貨。


木目のカウンター。




そしてぽつりと言う。




「いざ照明付けて、物並べてってなると凄いな」




「内装は蒼君がほとんど考えたんだろ?」




「センスあるな」




蒼は少し首を振った。




「澪も一緒に考えたんですよ」




「照明の位置から、カウンターの高さまで」




父親が、

澪を見る。




少し黙る。




その目は、

昔を見ているみたいだった。




小さい頃。


家でおもちゃを並べて、

「お店屋さんごっこ」していた娘。




離婚して帰って来た時、

笑ってるのにどこか疲れていた娘。




そして今。




好きな人の隣で、

自分の店に立っている。




——大きくなったな。




父親は、

心の中でそう思った。




澪は気付かず、

笑いながらコーヒーを淹れている。




蒼が言う。




「お父さん、お母さん」




「俺の妹の楓です」




楓が立ち上がる。




「こんばんは」




「よろしくお願いします」




「あー楓ちゃんね!」




「二人から話聞いてるわよ〜!」




母親が嬉しそうに笑う。




「資格取って、トレーナーやってるんだって?」




「はい、一応ジム兼整骨院みたいな所で働いてます」




「凄いじゃない!」




楓は少し照れながら笑った。




その時。




「さ!」




母親が袋を持ち上げる。




「オードブル買って来たから、みんなで食べましょ!」




「やった!」




「お腹空いてた!」




楓がすぐ反応する。




蒼が頭を抱えた。




「……すいませんほんと」




みんな笑う。




少しして。




店の中央に、

オードブルが並べられる。




照明が、

料理を暖かく照らしていた。




窓の外は、

もう夜に近い色になっている。




海沿いの道を、

車のライトが流れていく。




楓は唐揚げを頬張りながら言った。




「いやでもさ」




「本当にすごいよね」




「兄貴が店やるとか、昔誰も思ってなかったでしょ」




「お前失礼だな」




「いやだって、超無愛想だったじゃん」




「まぁそれは否定しない」




みんな笑う。




その空気を見ながら、

澪の母親がぽつりと言った。




「そういえば蒼君、聞いたわよ店の名前」




蒼が顔を上げる。




「REHARBORだっけ?」




「あれ、いい意味だねぇ」




「感動しちゃった」




澪が少し嬉しそうに笑う。




母親は続けた。




「お父さんもね」




「仕事から帰ってくると、蒼君とお店の話誇らしげに言うのよ」




「息子みたいに〜」




父親が少し照れ臭そうに苦笑する。




蒼は、

少し言葉に詰まった。




父親。




その言葉に、

まだ少し弱い。




でも今は、

嫌じゃなかった。




「そんな風に思ってもらえて、嬉しいです」




蒼が静かに言う。




楓がすぐ横から口を挟んだ。




「こんなんで大丈夫ですか?」




「兄貴、急に無口になる時ありますよ?」




「おい」




みんなで笑う。




でも。




その笑い声を聞きながら、

蒼は少しだけ思った。




昔は、

家族で笑う時間なんて

どこか遠かった。




失って。


壊れて。


離れて。




そういうものばかりだった。




でも今。




海の見える店で。


好きな人が笑っていて。


家族が集まっている。




人生って、

全部悪い方にだけは進まないんだな。




ふと、

そんな事を思った。




澪が、

カウンターの中から蒼を見る。




目が合う。




澪は少し笑った。




蒼も、

小さく笑い返した。




店の灯りが、

静かに夜へ溶け始めていた。

誰かと食べるご飯って、

それだけで安心する。


今日の店は、

ちゃんと“帰って来れる場所”になってた。

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