79話 「家族」
いつか、
こんな日が来たらいいなって思ってた。
好きな人が居て。
家族が笑っていて。
自分の作った場所に、
みんなが集まってくれる日。
夕方。
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海の向こうが、
少しずつオレンジ色に変わり始めていた。
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昼間よりも、
店の照明が目立つ時間。
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REHARBORの窓ガラスに、
柔らかい灯りが映っている。
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澪はカウンターの中で、
グラスを拭いていた。
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蒼は入口近くで、
椅子の位置を少し直している。
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昼から人が途切れず来て。
笑って。
話して。
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気が付けば、
もう夕方だった。
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店の中には、
少しだけ疲労感がある。
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でもそれ以上に、
満たされていた。
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その時。
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扉が開く。
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「はいどーもー」
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楓だった。
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黒のジャケットを肩に掛け、
仕事終わりらしいラフな格好。
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少し疲れてるはずなのに、
相変わらず空気が明るい。
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「楓ちゃーん!」
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澪がすぐ抱きつく。
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「澪ちゃ〜ん」
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楓も笑いながら、
澪にすり寄る。
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「仲良いなお前ら」
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蒼が呆れたように笑った。
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楓は店内を見回す。
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窓。
照明。
木のカウンター。
奥のボードラック。
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そして、
少し目を丸くした。
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「めっちゃいいじゃん!」
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「てか暗くなってきたら、もっとオシャレじゃない?」
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「私もそれ思った!」
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澪が嬉しそうに笑う。
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店の灯りが、
二人の顔を柔らかく照らしていた。
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楓はそのままカウンター席へ座る。
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「んじゃ、カフェラテひとつ下さい!」
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蒼が即座に返す。
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「ださ」
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「なにー?」
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楓が眉を上げる。
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「あ、えーっと、もしかしてだけど兄貴って」
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「ブラック飲めるのがかっこいいと思ってる系?」
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「うわーきついわ。28でそれは」
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「うるせぇなほんとに」
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蒼が苦笑する。
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澪が笑いを堪えながら、
カウンターの中で肩を震わせている。
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「分かったよ」
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蒼が諦めたように言う。
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「澪、頼む」
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「結局澪ちゃんかよ」
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みんなで笑った。
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その空気が、
蒼は好きだった。
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家族みたいで。
でもどこか、
ちゃんと未来へ進んでいる感じがする。
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少し前の自分なら、
こんな時間が来るなんて思わなかった。
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その時。
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また扉が開いた。
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「こんばんはー」
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澪の両親だった。
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母親は両手に大きな袋を持ち、
父親は少し照れ臭そうに店を見上げている。
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「すごい店!」
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「素敵〜!」
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澪がすぐ駆け寄る。
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「来てくれたんだ」
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「当たり前でしょ」
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蒼も頭を下げた。
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「今日は来てくれてありがとうございます」
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「蒼君おめでとうね」
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「澪も、本当に良かったねぇ」
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母親の声は、
少し潤んでいた。
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澪は照れ臭そうに笑う。
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「うん、ありがと」
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父親は、
静かに店を見回していた。
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照明。
並び始めた雑貨。
木目のカウンター。
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そしてぽつりと言う。
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「いざ照明付けて、物並べてってなると凄いな」
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「内装は蒼君がほとんど考えたんだろ?」
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「センスあるな」
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蒼は少し首を振った。
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「澪も一緒に考えたんですよ」
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「照明の位置から、カウンターの高さまで」
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父親が、
澪を見る。
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少し黙る。
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その目は、
昔を見ているみたいだった。
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小さい頃。
家でおもちゃを並べて、
「お店屋さんごっこ」していた娘。
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離婚して帰って来た時、
笑ってるのにどこか疲れていた娘。
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そして今。
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好きな人の隣で、
自分の店に立っている。
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——大きくなったな。
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父親は、
心の中でそう思った。
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澪は気付かず、
笑いながらコーヒーを淹れている。
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蒼が言う。
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「お父さん、お母さん」
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「俺の妹の楓です」
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楓が立ち上がる。
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「こんばんは」
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「よろしくお願いします」
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「あー楓ちゃんね!」
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「二人から話聞いてるわよ〜!」
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母親が嬉しそうに笑う。
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「資格取って、トレーナーやってるんだって?」
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「はい、一応ジム兼整骨院みたいな所で働いてます」
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「凄いじゃない!」
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楓は少し照れながら笑った。
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その時。
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「さ!」
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母親が袋を持ち上げる。
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「オードブル買って来たから、みんなで食べましょ!」
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「やった!」
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「お腹空いてた!」
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楓がすぐ反応する。
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蒼が頭を抱えた。
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「……すいませんほんと」
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みんな笑う。
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少しして。
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店の中央に、
オードブルが並べられる。
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照明が、
料理を暖かく照らしていた。
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窓の外は、
もう夜に近い色になっている。
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海沿いの道を、
車のライトが流れていく。
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楓は唐揚げを頬張りながら言った。
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「いやでもさ」
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「本当にすごいよね」
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「兄貴が店やるとか、昔誰も思ってなかったでしょ」
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「お前失礼だな」
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「いやだって、超無愛想だったじゃん」
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「まぁそれは否定しない」
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みんな笑う。
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その空気を見ながら、
澪の母親がぽつりと言った。
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「そういえば蒼君、聞いたわよ店の名前」
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蒼が顔を上げる。
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「REHARBORだっけ?」
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「あれ、いい意味だねぇ」
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「感動しちゃった」
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澪が少し嬉しそうに笑う。
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母親は続けた。
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「お父さんもね」
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「仕事から帰ってくると、蒼君とお店の話誇らしげに言うのよ」
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「息子みたいに〜」
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父親が少し照れ臭そうに苦笑する。
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蒼は、
少し言葉に詰まった。
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父親。
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その言葉に、
まだ少し弱い。
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でも今は、
嫌じゃなかった。
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「そんな風に思ってもらえて、嬉しいです」
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蒼が静かに言う。
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楓がすぐ横から口を挟んだ。
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「こんなんで大丈夫ですか?」
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「兄貴、急に無口になる時ありますよ?」
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「おい」
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みんなで笑う。
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でも。
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その笑い声を聞きながら、
蒼は少しだけ思った。
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昔は、
家族で笑う時間なんて
どこか遠かった。
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失って。
壊れて。
離れて。
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そういうものばかりだった。
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でも今。
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海の見える店で。
好きな人が笑っていて。
家族が集まっている。
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人生って、
全部悪い方にだけは進まないんだな。
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ふと、
そんな事を思った。
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澪が、
カウンターの中から蒼を見る。
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目が合う。
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澪は少し笑った。
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蒼も、
小さく笑い返した。
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店の灯りが、
静かに夜へ溶け始めていた。
誰かと食べるご飯って、
それだけで安心する。
今日の店は、
ちゃんと“帰って来れる場所”になってた。




