70話 「支縁」
夢は、
自分達だけの力で進む訳じゃない。
夕方。
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鉄工場の休憩時間。
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蒼は自販機の前で缶コーヒーを開けた。
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スマホが震える。
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澪からだった。
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『今日さ』
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『夜ご飯、実家で食べたら?ってお母さんから来た』
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蒼は少し笑う。
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『ありがたく頂こう』
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すぐ既読がつく。
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『了解』
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その短いやり取りだけで、
少し疲れが抜けた気がした。
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夜。
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車を降りると、
外はかなり冷えていた。
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澪がインターホンを押す。
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すぐに玄関が開いた。
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「いらっしゃい!!」
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澪の母だった。
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「よく来たね蒼君!」
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「ほら寒いでしょ!早く入りな!」
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「ねぇ私は?」
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澪が横から言う。
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母親は即答した。
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「あなたはいつでも来れるでしょ」
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「ひど」
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玄関の中は暖かかった。
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ビーフシチューの匂い。
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どこか懐かしい匂いだった。
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「こんばんは」
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リビングへ入ると、
父親がソファから立ち上がる。
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「おぉ、よく来たな」
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「こんばんは」
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父親は蒼の顔を見る。
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それから少し笑った。
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「良い顔になったな」
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蒼は少し困ったように笑う。
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「そうですか?」
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「うん」
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「前よりずっと良い」
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そこへ、
澪の母がすぐ入ってくる。
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「元々イケメンよー?」
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「いや顔の話じゃねぇだろ」
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澪が笑う。
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父親も小さく吹き出した。
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「まぁ」
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「夢追ってる男の顔って感じがするよな」
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「おー確かに」
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澪が頷く。
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「なんだそれ」
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蒼は少し照れくさそうに笑った。
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「まぁその話はご飯食べながらね!」
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母親がキッチンへ戻っていく。
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テーブルには、
もう料理が並び始めていた。
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ビーフシチュー。
サラダ。
ポトフ。
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湯気が静かに上がっている。
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澪もエプロンを付けて、
キッチンを手伝い始めた。
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蒼はその様子を見ながら、
ふと口を開く。
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「そういえば」
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「お父さんって、
お仕事何されてるんですか?」
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「ん?」
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父親が振り返る。
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「俺?」
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「デザイナーだよ」
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「……え?」
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蒼が止まる。
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「デザイナー?」
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「うん」
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「店舗とかロゴとか、色々やってる」
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蒼はゆっくり澪を見る。
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澪も数秒止まった。
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「あれ」
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「お父さんデザイナーだっけ?」
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蒼が呆れた顔になる。
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「お前マジか」
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「いやほんと忘れてた!」
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「娘だろお前」
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「だって仕事の話とか聞いた事ないし!」
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母親が笑い始める。
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「あんた昔からそうなのよ〜」
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父親も声を出して笑った。
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リビングの空気が一気に柔らかくなる。
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「そうそう」
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父親が椅子へ座りながら言った。
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「だから少し力になれるかなと思って」
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「今日来てもらったんだよ」
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蒼は少し黙る。
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食卓。
湯気。
笑い声。
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澪。
澪の両親。
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その景色を見ながら、
ふと思った。
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俺、
ちゃんと人に恵まれてたんだな。
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「ほらほら座って!」
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「冷めるよー!」
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母親の声で、
蒼は我に返る。
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「いただきます」
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「いただきまーす」
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ビーフシチューを口に入れた瞬間、
蒼は思わず言った。
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「うま……」
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「ほんと?」
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母親が嬉しそうに笑う。
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「おかわりあるからね!」
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「ありがとうございます」
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食事をしながら、
店の話になる。
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蒼は少し姿勢を正した。
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「あの」
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「外観とか、デザインお願いしたいんですけど」
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父親が少し驚いた顔をする。
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「俺でいいのか?」
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「はい」
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蒼はちゃんと頷いた。
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「お父さんにやってほしいです」
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その言葉に、
澪と母親が嬉しそうに顔を見合わせる。
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父親は少し照れくさそうに笑った。
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「……そうか」
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「じゃあちゃんと考えないとな」
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「看板とかは?」
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父親の問いに、
蒼は澪を見る。
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「看板は」
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「二人で描こうかなって」
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父親がゆっくり頷く。
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「いいね」
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「そっちの方が、
絶対思い出になる」
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「きっと、人が和める店になるよ」
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「ありがとうございます」
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食事はゆっくり続いた。
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たわいもない話。
仕事の話。
海の話。
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気付けば、
かなり遅い時間になっていた。
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帰り際。
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玄関で靴を履く。
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「じゃあ蒼君」
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父親が言う。
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「イメージ固まったら連絡して」
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「分かりました」
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「ありがとうございます」
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澪も頭を下げる。
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「お父さんありがと」
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「お母さんもごちそうさま」
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「いつでも来ていいからね!」
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「澪いない時でも全然いいのよ〜?」
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「それは緊張するって」
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玄関に笑い声が広がる。
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「じゃあまた来るね」
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「おやすみー」
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ドアが閉まる。
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少し静かになる。
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母親がふっと笑った。
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「蒼君、嬉しそうだったね」
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父親も頷く。
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「あぁ」
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「若いって無敵だな」
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「私達も負けてられないわね」
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「何で競うんだよ」
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二人で笑う。
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母親が小さく言った。
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「でも、澪があんな幸せそうなの」
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「蒼君のお陰だわ」
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父親は少し考えてから言う。
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「お互いをちゃんと大事にしてるからだろうな」
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夜道。
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車の中。
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澪が吹き出した。
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「ていうかさ」
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「お父さんデザイナーなの、なんで忘れてたんだよお前」
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「いやほんとごめんって」
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「仕事の話とか聞いた事なかったんだって」
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蒼が笑う。
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「まぁ娘ってそんなもんなのかもな」
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「でも良かったね」
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「あぁ」
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少し沈黙。
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街灯が窓を流れていく。
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その時。
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澪がふと思い出したように言った。
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「そういえばさ」
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「店の名前どーする?」
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「なんか候補ある?」
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蒼は少しだけ笑う。
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「一個だけ」
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「え、なに」
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蒼が小さく名前を言う。
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澪の顔が一気に変わる。
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「待って」
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「それ好き」
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「……いいじゃん」
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「それにしようよ」
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冬の街灯が、
静かに窓を流れていった。
支えてくれる人がいるから、
前を向ける夜がある。




