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波待ち。  作者: 阿部兄弟
6章 夢と生活

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70/84

70話 「支縁」

夢は、

自分達だけの力で進む訳じゃない。


夕方。


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鉄工場の休憩時間。


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蒼は自販機の前で缶コーヒーを開けた。


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スマホが震える。


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澪からだった。


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『今日さ』


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『夜ご飯、実家で食べたら?ってお母さんから来た』


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蒼は少し笑う。


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『ありがたく頂こう』


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すぐ既読がつく。


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『了解』


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その短いやり取りだけで、

少し疲れが抜けた気がした。


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夜。


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車を降りると、

外はかなり冷えていた。


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澪がインターホンを押す。


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すぐに玄関が開いた。


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「いらっしゃい!!」


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澪の母だった。


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「よく来たね蒼君!」


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「ほら寒いでしょ!早く入りな!」


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「ねぇ私は?」


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澪が横から言う。


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母親は即答した。


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「あなたはいつでも来れるでしょ」


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「ひど」


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玄関の中は暖かかった。


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ビーフシチューの匂い。


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どこか懐かしい匂いだった。


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「こんばんは」


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リビングへ入ると、

父親がソファから立ち上がる。


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「おぉ、よく来たな」


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「こんばんは」


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父親は蒼の顔を見る。


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それから少し笑った。


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「良い顔になったな」


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蒼は少し困ったように笑う。


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「そうですか?」


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「うん」


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「前よりずっと良い」


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そこへ、

澪の母がすぐ入ってくる。


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「元々イケメンよー?」


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「いや顔の話じゃねぇだろ」


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澪が笑う。


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父親も小さく吹き出した。


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「まぁ」


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「夢追ってる男の顔って感じがするよな」


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「おー確かに」


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澪が頷く。


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「なんだそれ」


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蒼は少し照れくさそうに笑った。


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「まぁその話はご飯食べながらね!」


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母親がキッチンへ戻っていく。


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テーブルには、

もう料理が並び始めていた。


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ビーフシチュー。


サラダ。


ポトフ。


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湯気が静かに上がっている。


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澪もエプロンを付けて、

キッチンを手伝い始めた。


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蒼はその様子を見ながら、

ふと口を開く。


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⸻


「そういえば」


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⸻


「お父さんって、

 お仕事何されてるんですか?」


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「ん?」


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⸻


父親が振り返る。


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「俺?」


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⸻


「デザイナーだよ」


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「……え?」


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⸻


蒼が止まる。


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「デザイナー?」


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⸻


「うん」


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「店舗とかロゴとか、色々やってる」


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蒼はゆっくり澪を見る。


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澪も数秒止まった。


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「あれ」


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「お父さんデザイナーだっけ?」


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蒼が呆れた顔になる。


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「お前マジか」


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「いやほんと忘れてた!」


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「娘だろお前」


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「だって仕事の話とか聞いた事ないし!」


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母親が笑い始める。


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「あんた昔からそうなのよ〜」


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父親も声を出して笑った。


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リビングの空気が一気に柔らかくなる。


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「そうそう」


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父親が椅子へ座りながら言った。


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「だから少し力になれるかなと思って」


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「今日来てもらったんだよ」


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蒼は少し黙る。


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食卓。


湯気。


笑い声。


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澪。


澪の両親。


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その景色を見ながら、

ふと思った。


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俺、

ちゃんと人に恵まれてたんだな。


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「ほらほら座って!」


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「冷めるよー!」


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母親の声で、

蒼は我に返る。


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「いただきます」


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「いただきまーす」


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ビーフシチューを口に入れた瞬間、

蒼は思わず言った。


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「うま……」


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「ほんと?」


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母親が嬉しそうに笑う。


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「おかわりあるからね!」


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「ありがとうございます」


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食事をしながら、

店の話になる。


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蒼は少し姿勢を正した。


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「あの」


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「外観とか、デザインお願いしたいんですけど」


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父親が少し驚いた顔をする。


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「俺でいいのか?」


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「はい」


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蒼はちゃんと頷いた。


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「お父さんにやってほしいです」


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その言葉に、

澪と母親が嬉しそうに顔を見合わせる。


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父親は少し照れくさそうに笑った。


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「……そうか」


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「じゃあちゃんと考えないとな」


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「看板とかは?」


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父親の問いに、

蒼は澪を見る。


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「看板は」


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「二人で描こうかなって」


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父親がゆっくり頷く。


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「いいね」


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「そっちの方が、

 絶対思い出になる」


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「きっと、人が和める店になるよ」


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⸻


「ありがとうございます」


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⸻


食事はゆっくり続いた。


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⸻


たわいもない話。


仕事の話。


海の話。


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気付けば、

かなり遅い時間になっていた。


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帰り際。


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玄関で靴を履く。


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「じゃあ蒼君」


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父親が言う。


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「イメージ固まったら連絡して」


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「分かりました」


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「ありがとうございます」


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澪も頭を下げる。


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「お父さんありがと」


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「お母さんもごちそうさま」


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「いつでも来ていいからね!」


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「澪いない時でも全然いいのよ〜?」


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「それは緊張するって」


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玄関に笑い声が広がる。


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「じゃあまた来るね」


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「おやすみー」


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ドアが閉まる。


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少し静かになる。


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母親がふっと笑った。


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「蒼君、嬉しそうだったね」


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父親も頷く。


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「あぁ」


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「若いって無敵だな」


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「私達も負けてられないわね」


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「何で競うんだよ」


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二人で笑う。


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母親が小さく言った。


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「でも、澪があんな幸せそうなの」


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「蒼君のお陰だわ」


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父親は少し考えてから言う。


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「お互いをちゃんと大事にしてるからだろうな」


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夜道。


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車の中。


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澪が吹き出した。


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「ていうかさ」


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「お父さんデザイナーなの、なんで忘れてたんだよお前」


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「いやほんとごめんって」


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「仕事の話とか聞いた事なかったんだって」


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蒼が笑う。


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「まぁ娘ってそんなもんなのかもな」


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「でも良かったね」


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「あぁ」


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少し沈黙。


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街灯が窓を流れていく。


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その時。


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澪がふと思い出したように言った。


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「そういえばさ」


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「店の名前どーする?」


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「なんか候補ある?」


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蒼は少しだけ笑う。


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「一個だけ」


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「え、なに」


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蒼が小さく名前を言う。


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澪の顔が一気に変わる。


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「待って」


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「それ好き」


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「……いいじゃん」


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「それにしようよ」


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冬の街灯が、

静かに窓を流れていった。

支えてくれる人がいるから、

前を向ける夜がある。

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