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波待ち。  作者: 阿部兄弟
6章 夢と生活

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70話 「支縁」

夢は、

自分達だけの力で進む訳じゃない。


夕方。




鉄工場の休憩時間。




蒼は自販機の前で缶コーヒーを開けた。




スマホが震える。




澪からだった。




『今日さ』




『夜ご飯、実家で食べたら?ってお母さんから来た』




蒼は少し笑う。




『ありがたく頂こう』




すぐ既読がつく。




『了解』




その短いやり取りだけで、

少し疲れが抜けた気がした。




夜。




車を降りると、

外はかなり冷えていた。




澪がインターホンを押す。




すぐに玄関が開いた。




「いらっしゃい!!」




澪の母だった。




「よく来たね蒼君!」




「ほら寒いでしょ!早く入りな!」




「ねぇ私は?」




澪が横から言う。




母親は即答した。




「あなたはいつでも来れるでしょ」




「ひど」




玄関の中は暖かかった。




ビーフシチューの匂い。




どこか懐かしい匂いだった。




「こんばんは」




リビングへ入ると、

父親がソファから立ち上がる。




「おぉ、よく来たな」




「こんばんは」




父親は蒼の顔を見る。




それから少し笑った。




「良い顔になったな」




蒼は少し困ったように笑う。




「そうですか?」




「うん」




「前よりずっと良い」




そこへ、

澪の母がすぐ入ってくる。




「元々イケメンよー?」




「いや顔の話じゃねぇだろ」




澪が笑う。




父親も小さく吹き出した。




「まぁ」




「夢追ってる男の顔って感じがするよな」




「おー確かに」




澪が頷く。




「なんだそれ」




蒼は少し照れくさそうに笑った。




「まぁその話はご飯食べながらね!」




母親がキッチンへ戻っていく。




テーブルには、

もう料理が並び始めていた。




ビーフシチュー。


サラダ。


ポトフ。




湯気が静かに上がっている。




澪もエプロンを付けて、

キッチンを手伝い始めた。




蒼はその様子を見ながら、

ふと口を開く。




「そういえば」




「お父さんって、

 お仕事何されてるんですか?」




「ん?」




父親が振り返る。




「俺?」




「デザイナーだよ」




「……え?」




蒼が止まる。




「デザイナー?」




「うん」




「店舗とかロゴとか、色々やってる」




蒼はゆっくり澪を見る。




澪も数秒止まった。




「あれ」




「お父さんデザイナーだっけ?」




蒼が呆れた顔になる。




「お前マジか」




「いやほんと忘れてた!」




「娘だろお前」




「だって仕事の話とか聞いた事ないし!」




母親が笑い始める。




「あんた昔からそうなのよ〜」




父親も声を出して笑った。




リビングの空気が一気に柔らかくなる。




「そうそう」




父親が椅子へ座りながら言った。




「だから少し力になれるかなと思って」




「今日来てもらったんだよ」




蒼は少し黙る。




食卓。


湯気。


笑い声。




澪。


澪の両親。




その景色を見ながら、

ふと思った。




俺、

ちゃんと人に恵まれてたんだな。




「ほらほら座って!」




「冷めるよー!」




母親の声で、

蒼は我に返る。




「いただきます」




「いただきまーす」




ビーフシチューを口に入れた瞬間、

蒼は思わず言った。




「うま……」




「ほんと?」




母親が嬉しそうに笑う。




「おかわりあるからね!」




「ありがとうございます」




食事をしながら、

店の話になる。




蒼は少し姿勢を正した。




「あの」




「外観とか、デザインお願いしたいんですけど」




父親が少し驚いた顔をする。




「俺でいいのか?」




「はい」




蒼はちゃんと頷いた。




「お父さんにやってほしいです」




その言葉に、

澪と母親が嬉しそうに顔を見合わせる。




父親は少し照れくさそうに笑った。




「……そうか」




「じゃあちゃんと考えないとな」




「看板とかは?」




父親の問いに、

蒼は澪を見る。




「看板は」




「二人で描こうかなって」




父親がゆっくり頷く。




「いいね」




「そっちの方が、

 絶対思い出になる」




「きっと、人が和める店になるよ」




「ありがとうございます」




食事はゆっくり続いた。




たわいもない話。


仕事の話。


海の話。




気付けば、

かなり遅い時間になっていた。




帰り際。




玄関で靴を履く。




「じゃあ蒼君」




父親が言う。




「イメージ固まったら連絡して」




「分かりました」




「ありがとうございます」




澪も頭を下げる。




「お父さんありがと」




「お母さんもごちそうさま」




「いつでも来ていいからね!」




「澪いない時でも全然いいのよ〜?」




「それは緊張するって」




玄関に笑い声が広がる。




「じゃあまた来るね」




「おやすみー」




ドアが閉まる。




少し静かになる。




母親がふっと笑った。




「蒼君、嬉しそうだったね」




父親も頷く。




「あぁ」




「若いって無敵だな」




「私達も負けてられないわね」




「何で競うんだよ」




二人で笑う。




母親が小さく言った。




「でも、澪があんな幸せそうなの」




「蒼君のお陰だわ」




父親は少し考えてから言う。




「お互いをちゃんと大事にしてるからだろうな」




夜道。




車の中。




澪が吹き出した。




「ていうかさ」




「お父さんデザイナーなの、なんで忘れてたんだよお前」




「いやほんとごめんって」




「仕事の話とか聞いた事なかったんだって」




蒼が笑う。




「まぁ娘ってそんなもんなのかもな」




「でも良かったね」




「あぁ」




少し沈黙。




街灯が窓を流れていく。




その時。




澪がふと思い出したように言った。




「そういえばさ」




「店の名前どーする?」




「なんか候補ある?」




蒼は少しだけ笑う。




「一個だけ」




「え、なに」




蒼が小さく名前を言う。




澪の顔が一気に変わる。




「待って」




「それ好き」




「……いいじゃん」




「それにしようよ」




冬の街灯が、

静かに窓を流れていった。

支えてくれる人がいるから、

前を向ける夜がある。

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