66話 「模索」
夢だったはずなのに、
気付けば現実の話ばかりしていた。
夜。
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外はかなり冷えていた。
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窓ガラスが少し白く曇っている。
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風呂上がりの澪は、
ソファに座りながら髪を乾かしていた。
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ローテーブルの上。
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ノート。
スマホ。
メモ。
電卓。
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蒼は夕飯を食べ終わってからずっと、
何かを調べ続けている。
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「まだやってたの?」
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「見れば見るほど出てくる」
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「なにがー?」
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「金掛かる物」
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澪が笑う。
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「これが現実って感じだねぇ」
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「普通に怖くなってきた」
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蒼はノートを見ながら呟く。
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そこには、
細かい文字と数字が並んでいた。
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『内装』
『冷蔵庫』
『エスプレッソマシン』
『製氷機』
『テーブル』
『看板』
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「看板高くね?」
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蒼が真顔で言う。
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「そんなすんの?」
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「普通に何万とか」
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「え、板じゃん」
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「ただの板じゃねぇんだろ」
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澪が吹き出す。
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「じゃあもう作ればいいじゃん!」
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「ん?」
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「自分達で塗ったりさ!」
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蒼が少し考える。
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「あー……」
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「いいじゃん」
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「絶対楽しい」
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澪は少し笑う。
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「蒼ペンキまみれになりそう」
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「お前もだろ」
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「私はセンス担当だから」
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「絶対めんどくさいやつ」
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2人で笑う。
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少し前まで。
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未来の話なんて、
もっと重たいものだと思っていた。
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でも今は、
ちゃんと生活の延長にある。
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澪はノートを覗き込む。
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「資格とかもいるんだ」
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「食品衛生責任者とか」
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「なにそれ」
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「俺も今日知った」
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「急に難しそう」
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「あと保健所」
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「うわ、ちゃんとしてる……」
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蒼が苦笑いする。
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「店やるってすげぇな」
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その言葉に、
澪は少し真顔になる。
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本当に、
現実なんだ。
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まだぼんやりしているけど、
少しずつ形になっている。
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「ねぇ」
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「ん?」
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「家具とかどうするんだろ」
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「中古とかじゃね?」
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「でもちょっと拘りたいよね」
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「まぁな」
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「あと私、アパレルの取引先の人に聞いてみようかな」
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蒼が顔を上げる。
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「なにを?」
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「内装とか詳しい人いそうじゃん」
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「あー……たしかに」
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「照明とかも絶対大事だよ」
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澪は少し楽しそうだった。
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それを見て、
蒼も少し笑う。
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「なんか本当にやるみたいだな」
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「今更?」
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「いやまだ半信半疑」
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澪が笑う。
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でも少しして、
ふと真顔になった。
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「でもさ」
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「ん?」
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「すだけいの話、通らなかったら意味無くない?」
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部屋が少し静かになる。
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蒼は少しだけ考えた。
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それから、
ノートを閉じる。
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「……まぁ」
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「?」
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「ここまで来たら、あそこ無理でも他探すだろ」
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その言葉は、
思っていたより自然に出てきた。
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澪は少し驚いた顔をする。
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蒼自身も、
少しだけ驚いていた。
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前なら。
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一つダメだった時点で、
諦めていたかもしれない。
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でも今は違う。
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ちゃんと、
先を見ている。
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澪は小さく笑った。
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「……いいじゃん」
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「なにが」
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「ちゃんと前向いてる感じ!」
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蒼は少し照れくさそうに、
コーヒーを飲む。
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「なんか文化祭の準備みたい」
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蒼が首を傾げる。
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「わかんねぇ」
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「え?」
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「文化祭前に辞めたから」
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一瞬、
空気が止まる。
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澪が目を逸らした。
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「あ……すみません……」
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蒼が吹き出す。
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「なんで敬語なんだよ」
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「いやなんか……」
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「別にいいって」
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蒼は少し笑いながら、
またノートを開く。
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「でもまぁ、ちょっと楽しいのは分かる」
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澪も笑った。
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外は寒い。
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未来もまだ、
どうなるか分からない。
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それでも。
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同じノートを見ながら笑える夜が、
ちゃんとここにあった。
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不安もある。
でも、
誰かと一緒に悩める未来は、
少しだけ楽しそうだった。




