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波待ち。  作者: 阿部兄弟
6章 夢と生活

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65/84

65話 「砂浜」


寒い朝だった。


でも、

未来の話をしてる時間は、

不思議と少しだけあったかかった。


日曜日。


⸻


⸻


まだ外が薄暗い時間。


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⸻


澪は布団の中で丸くなりながら、

小さく息を吐いた。


⸻


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寒い。


⸻


⸻


隣では、

蒼がスマホを見ている。


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「波どう?」


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「微妙」


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「じゃあ寝よ」


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「でも人少ねぇって」


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澪は布団を顔まで引き上げる。


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「冬に海入る人ほんと意味わかんない」


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「お前もな」


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「私は今やめようとしてる」


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蒼が笑う。


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少しして、

澪が諦めたように起き上がった。


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「……行くかぁ」


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アパート。


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狭い洗面所に、

2人並ぶ。


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歯磨きの音。


ドライヤー。


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そんな生活音が、

もう自然になっていた。


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澪が髪を結びながら言う。


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「今日絶対寒いよ」


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「冬だからな」


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「当たり前みたいに言うな」


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ウェットスーツとボードを持って、

2人で部屋を出る。


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冬の朝の空気。


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吐く息が白い。


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海までは歩いて行ける距離だった。


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静かな住宅街を並んで歩く。


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コンビニで缶コーヒーを買って、

そのまま海へ向かう。


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「ねむ」


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「帰る?」


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「それは嫌」


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澪が笑う。


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海が見えてくる。


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冬の海。


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人は少ない。


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曇り空。


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波の音だけが静かに響いていた。


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「さむ……」


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「まだ入ってないぞ」


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「もう寒い」


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2人で笑いながら、

砂浜へ降りる。


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海へ入る。


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冷たい。


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でも、

嫌いじゃなかった。


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波待ち。


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少し離れた場所で、

蒼が海を見ている。


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澪はぼんやり思う。


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この人と、

こんな未来になるなんて思っていなかった。


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高校の頃は、

ただ同じ教室にいた人。


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それが今は、

同じ部屋で暮らして、

同じ未来の話をしている。


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不思議だった。


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昼前。


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海から上がる。


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「寒っっ……」


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澪が肩を縮める。


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「だから言ったじゃん」


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「蒼のせいだからねこれ」


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「なんでだよ」


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砂浜を歩く。


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少しだけ日が出ていた。


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その時、

澪が急にしゃがむ。


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「ん?」


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流木を拾って、

砂浜に線を描き始めた。


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「ここカフェ」


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「雑」


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「うるさい」


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蒼もしゃがみ込む。


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「じゃあここボード置く」


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「入口そっち?」


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「海見えた方がいいだろ」


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⸻


「たしかに」


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⸻


砂浜の上に、

店の間取りが少しずつ出来ていく。


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⸻


まだ何も決まっていない。


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⸻


でも、

ちゃんと想像している。


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「ここ席」


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「狭くね?」


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「じゃあ広げる」


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「適当すぎ」


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笑いながら、

線が増えていく。


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その時。


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⸻


波が少し上がってきて、

描いた線の端を消した。


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「あ」


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⸻


澪が笑う。


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「消された」


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「やり直せって事だろ」


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蒼がまた線を描く。


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澪はその横顔を見ながら、

少し笑った。


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シャワーを浴びたあと。


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2人で海沿いのカフェへ入る。


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⸻


暖かい店内。


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コーヒーの匂い。


静かな音楽。


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窓際の席へ座る。


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「生き返る……」


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澪がホットコーヒーを両手で持つ。


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蒼もカップを口に運ぶ。


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少し沈黙。



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澪が店内を見渡す。


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視線を戻すと、蒼と目が合う。


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「……やっぱり見ちゃうね」


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澪が小さく笑う。


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「まぁな」


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蒼も店内を見回す。


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照明。


テーブル。


レジの位置。


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前までは、

ただ落ち着く店だと思っていた。


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でも今は違う。


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「もしやるならさ」


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澪がコーヒーを持ったまま言う。


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「こういう木の感じいいかも」


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「お前そういうの好きそう」


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「そっちは?」


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蒼は少し考える。


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「……窓はデカくしたい」


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「海見えるように?」


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「ん」


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澪は少し笑った。


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まだ、

何も決まっていない。


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でも。


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“もし”の話を、

こんな風に出来る日が来るとは思わなかった。


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店を出る。


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外の空気はまだ冷たい。


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⸻


蒼が先に歩き出す。


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澪は少し後ろから、

その背中を見る。


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⸻


そして小さく笑って、

そのあとを追いかけた。


⸻

ちゃんと形なんて無くても、

誰かと一緒に描いてる時間は、

少しだけ未来っぽかった。

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