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波待ち。  作者: 阿部兄弟
6章 夢と生活

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64/84

64話 「輪郭」

未来って、

急に現実になる時がある。


朝。




澪は、

いつもより少し早く目を覚ました。




隣では、

蒼がまだ寝ている。




冬の朝。




外は薄暗くて、

静かだった。




でも。




澪の頭の中だけ、

少し落ち着かなかった。




昨日の話。




テナント。


番屋。


すだけい。


話通してみる。




そこまで具体的になるなんて、

思っていなかった。




もっと先の話だと思っていた。




「いつか出来たらいいね」


そんな感じの、

遠い未来。




でも今は違う。




少しずつ、

現実の匂いがしている。




澪は小さく息を吐いて、

布団から出た。




仕事中。




店内には、

クリスマスソングが流れていた。




レジ。


接客。


品出し。




いつもの仕事。




でもふとした瞬間に、

昨日の話を思い出す。




「いらっしゃいませー」




笑顔を作る。




でも頭のどこかでは、

別の事を考えていた。




もし本当に店やるなら。




どうなるんだろう。




ちゃんとやっていけるのかな。




お金。


生活。


責任。




簡単じゃない。




それは分かっている。




澪は服を畳みながら、

ぼんやり思う。




昔の自分なら、

きっと怖くなっていた。




無理かもしれない。


やめた方がいいかもしれない。


そうやって、

先に諦めていたと思う。




でも今は。




不思議と、

そこまで怖くなかった。




理由は分かっている。




蒼がいるからだ。




あの人は、

ちゃんと考える。




適当に見えて、

ちゃんと悩む。




勢いだけで生きてるように見えて、

本当に大事な事は、

ちゃんと背負おうとする。




だから。




「……大丈夫かもな」




澪は小さく呟いた。




「え?」




隣のスタッフが振り返る。




「あ、なんでもない」




澪は少し笑った。




夜。




部屋の灯りがついている。




仕事を終えた澪は、

少し急ぎ足で帰った。




玄関を開ける。




「ただいまー」




「おかえり」




蒼の声。




リビングへ入る。




そこで澪は少し笑った。




テーブルの上。




ノート。


メモ。


スマホ。


電卓。




「……めちゃくちゃ調べてるじゃん」




蒼が少しだけ気まずそうに笑う。




「いや、ちょっと気になって」




「ちょっとの量じゃないでしょこれ」




澪がノートを見る。




『内装費』


『中古エスプレッソマシン』


『ショーケース』


『ボードラック』




数字もいっぱい書いてある。




「うわ……現実だ」




「だろ」




蒼がコーヒーを飲む。




「普通に金掛かる」




「いくらくらい?」




「ちゃんとやるなら、

まぁまぁ」




「まぁまぁってなに」




蒼が少し笑う。




でもその目は、

昨日より真剣だった。




遊びじゃない。




その空気が、

少しずつ部屋に増えている。




澪はソファに座りながら、

ノートを見つめる。




そこには、

まだ完成していない未来が並んでいた。




「ねぇ」




「ん?」




「楽しくなってきてるでしょ」




蒼が少し笑う。




「まぁな」




「顔がそう」




「そっちもな」




澪は小さく笑った。




少し前まで。




未来の話なんて、

怖いだけだった。




でも今は違う。




もちろん不安もある。




簡単じゃない事も分かる。




それでも。




同じ方向を見ている人がいるだけで、

こんなにも違うんだと思った。




蒼がノートへまた何か書き込む。




「なに書いてんの」




「コーヒーマシン高ぇ」




澪が吹き出す。




「そこ?」




「いや普通にビビる」




「頑張って働こ!」




「現実的」




2人で笑う。




窓の外。




冬の夜。




静かな部屋の中で、

少しずつ未来が形を持ち始めていた。


不安が無いわけじゃない。


でも、

1人じゃないだけで少し違った。

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