60話 「夢と背中」
未来の話なんて、
ずっと遠いものだと思っていた。
でも、
誰かと笑いながら話せる未来なら。
少しだけ、
見てみたくなる。
焼肉屋の煙が、
ゆっくり天井へ上っていく。
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「いやー卒業したわぁ……」
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楓がジョッキを持ちながら、
ぐったり椅子へ寄り掛かる。
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「まだ何も始まってないだろ」
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蒼が肉をひっくり返しながら言う。
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「それな」
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澪が笑う。
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「でも楓ちゃんほんと頑張ったよね」
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「まぁね〜?」
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楓が得意げに笑う。
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「兄貴が褒めないから、
澪ちゃんもっと言って」
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「うぜぇな」
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蒼が苦笑いする。
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網の上で肉が音を立てる。
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店の中は賑やかだった。
でも、
3人の空気はどこか落ち着いている。
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「で?」
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澪が肉を取り分けながら言う。
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「卒業した楓さんは、
これからどうするんですか?」
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楓が少しだけ真面目な顔になる。
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「んー……」
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箸を回しながら考える。
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「やっぱトレーナーかな」
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「スポーツの?」
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「うん」
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楓が頷く。
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「出来ればさ、
オリンピック選手とか見るような、
ちゃんとしたトレーナーになりたい」
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蒼が少し目を細める。
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楓は昔から、
誰かを支える側の人間だった。
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バスケ部の頃もそうだ。
怪我した後輩の面倒見たり、
誰かのフォーム直したり。
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自分より周りを見てる奴だった。
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「楓ちゃん向いてそう」
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澪が笑う。
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「ありがと〜」
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楓が照れ臭そうに笑った。
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「澪ちゃんは?」
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「え?」
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「将来やりたい事とか無いの?」
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澪が少しだけ考える。
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「……海の近くでカフェとかやりたいかも」
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「うわ、めっちゃ似合う」
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楓が即答する。
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「絶対常連つくじゃん」
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「ほんと?」
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「うん」
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楓が笑う。
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「なんかさ、
澪ちゃんって居心地いいんだよね」
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澪が少し照れ臭そうに笑った。
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「兄貴は?」
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「ん?」
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「昔から何かやりたいとかあったの?」
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蒼は少し黙る。
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網の上の肉を見ながら、
静かに口を開いた。
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「……サーフショップ」
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澪と楓が同時に顔を上げる。
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「え、初めて聞いた」
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「まぁ言ってねぇし」
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蒼が苦笑いする。
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「昔から、
海の近くで店やれたらなとは思ってた」
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「えー絶対いいじゃん」
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楓が前のめりになる。
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「板並んでて、
ワックスとか置いてあってさ」
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「あとコーヒー飲めるスペース欲しい」
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澪が言う。
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蒼が少し笑った。
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「まぁそんな感じ」
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その時だった。
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「あれ?」
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楓が首を傾げる。
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「それさ」
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「ん?」
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「2人一緒にやれば良くない?」
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一瞬、
空気が止まる。
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「え?」
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澪が目を丸くする。
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「だって、
兄貴サーフショップで、
澪ちゃんカフェでしょ?」
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楓が当たり前みたいに言う。
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「海の近くで一緒にやればいいじゃん」
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蒼と澪が顔を見合わせる。
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でも。
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不思議と、
その景色が少し想像出来てしまった。
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海の近く。
朝の波。
コーヒーの匂い。
ワックス。
常連客。
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静かな店。
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「……いやでも」
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澪が少し困ったように笑う。
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「付き合ってるだけっちゃだけだし……」
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その言葉に、
楓が吹き出した。
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「もう10代じゃないんだからさぁ」
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「え?」
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「期間とか関係無いでしょ」
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楓が真っ直ぐ言う。
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「お互いがやりたい事、
一緒に出来るって普通に幸せじゃん」
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蒼が少し黙る。
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澪も、
何も言えなかった。
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幸せ。
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その言葉が、
少し胸に残る。
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楓がニヤニヤし始める。
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「いっその事結婚したら?w」
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「おい」
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蒼がすぐ突っ込む。
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「うわー照れてる2人とも〜!」
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「照れてねぇし」
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「いや兄貴今絶対照れた」
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「うるせぇ」
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澪が顔を隠しながら笑っている。
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「澪ちゃんも顔赤いじゃん!」
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「赤くない!」
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店の賑やかな音の中。
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3人の笑い声だけが、
妙にあたたかかった。
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その時。
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蒼がふと、
小さく口を開く。
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「……まぁ」
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2人が見る。
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「実は、
少しは考えてた」
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「え?」
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蒼は静かに続ける。
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「親父の遺産、
一切手ぇ付けてねぇんだよ」
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「……え?」
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楓が止まる。
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「遺産?」
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蒼は静かに頷いた。
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「遺言書に書いてあった」
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「楓に話すかどうかは、
蒼に任せるって」
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店の音が少し遠くなる。
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「なんで……」
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「多分親父、
若いうちから金の話するより、
自分で立ってほしかったんだろ」
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楓が静かに聞いている。
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「だから俺も、
卒業するまでは言わなかった」
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「……そうだったんだ」
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楓が小さく呟く。
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蒼は少し照れ臭そうに笑った。
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「あとまぁ」
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「ん?」
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「毎月少しずつだけど、
貯金もしてた」
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「夢のために?」
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澪が静かに聞く。
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蒼は少しだけ頷いた。
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「まぁな」
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楓が、
ふっと笑う。
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「やっぱ兄貴、
親父に似てきたね」
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蒼が少し黙る。
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父親の背中。
鉄の匂い。
不器用な優しさ。
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ずっと追い掛けてきたものが、
今少しだけ、
未来へ繋がっている気がした。
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「海の近くでさ」
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楓が笑いながら言う。
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「サーフショップとカフェ」
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「絶対いいじゃん」
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澪が少し笑う。
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「……まぁ、楽しそうではある」
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「だろ?」
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蒼は少し黙って、
グラスを手に取る。
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「……やるか、いつか」
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澪が蒼を見る。
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楓が笑う。
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「うわ、今ちょっと本気だった」
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蒼が苦笑いする。
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「うるせぇ」
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窓の外。
夜の街。
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少し前まで、
未来なんて考える余裕無かった。
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でも今は。
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海の匂いがする未来を、
少しだけ想像出来る。
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そんな夜だった。
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第5章 完
背負ってきたものは、
消えない。
父親の事も、
過去も、
痛みも。
それでも人は、
その先で夢を見ていいんだと思う。




