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波待ち。  作者: 阿部兄弟
1章 再会と再開

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6話 「気配」

少しずつ、距離が変わっていく。


軽い会話の中に、

踏み込まない優しさと、

踏み込みたい気持ちが混ざり始める。


これは、再会してすぐの、

まだ名前をつけられない関係の話。

強がりで、何も見せない。目の前にいても、昔とそれは変わらない。



「もしさ…蒼が良ければ」


---


澪が少しだけ視線を落としてから言う。


---


「またサーフィン、教えてよ」


---


さっきまでより、少しだけ言い方が違う。


---


軽さの中に、ちゃんと意味がある。


---


蒼は一瞬だけ考える。


---


「まぁいいけど」


---


コーヒーを持ちながら。


---


「俺、隣町だし」


---


少し間。


---


「そんな頻繁には来れないけど」


---


澪はすぐに頷く。


---


「いいよ」


---


迷いがない。


---


「ここで出会ったのも、なんかの縁だし」


---


蒼は少しだけ笑う。


---


「女ってそういうの好きだよな」


---


澪は少しだけ眉を上げる。


---


「なにそれ」


---


軽く笑ってから。


---


「この縁を大事にしたいだけ」


---


まただ。


---


たまに、こういうこと言う。


---


軽そうに見えて。


---


急に、芯に触れてくる。


---


前は、空っぽだと思ってた。


---


笑ってるだけで、中身が見えないやつ。


---


でも。


---


違うのかもしれない。


---


——いや


---


違うんだろうな。


---


気づいてなかっただけで。


---


蒼は小さく頷く。


---


「そうだな」


---


澪が少しだけ嬉しそうに笑う。


---


「でしょ?」


---


少し身を乗り出して。


---


「だからさ」


---


一瞬、間を置く。


---


「このあと、ちょっとドライブしない?」


---


「ドライブ?」


---


澪は頷く。


---


「うん」


---


窓の外を軽く指す。


---


「このまま帰るのももったいないし」


---


少し笑う。


---


「海の方、ゆっくり流しながらさ」


---


蒼は少しだけ考える。


---


断る理由は、特にない。


---


それに——


---


さっきまでの感じを、もう少し続けてもいい気がした。


---


「……いいよ」


---


短く返す。


---


澪が微笑む。


---


さっきまでより、少しだけ落ち着いた笑い方。


---


その笑顔が、どこか違って見える。


---


二人は席を立つ。


---


カップの中のコーヒーは、少しだけ冷めていた。



---



---



店を出ると、日差しが少しだけ柔らかくなっていた。


---


さっきまでの白い光じゃない。


---


オレンジが混ざり始めてる。


---


会計は、蒼が先に済ませた。


---


レジから戻ると、澪が少しだけ不満そうに言う。


---


「なんで私払うって言ったのに〜」


---


蒼は肩をすくめる。


---


「ポイントつくし、こっちの方が都合いいんだよ」


---


軽く流す。


---


澪は少しため息をつく。


---


でも、強くは言わない。


---


「ごちそうさまでした」


---


少しだけ考える顔をして。


---


「えー、なんかないかなぁ…」


---


ふっと顔を上げる。


---


「じゃあさ」


---


少し笑う。


---


「代わりに、とっておきのスポット教えたげる」


---


「なにそれ」


---


「まぁまぁ」


---


軽く手を振る。


---


「道案内するから」


---


車に乗る。


---


エンジンをかける前。


---


澪がバッグを開ける。


---


小さく音を立てて、財布を取り出す。


---


お金を出す。


---


「これ」


---


「え?」


---


「ガソリン代」


---


当たり前みたいに差し出す。


---


蒼は一瞬だけ止まる。


---


「いや、いらねぇよ」


---


軽く手で戻す。


---


「そんなの」


---


澪は少しだけ手を止める。


---


一瞬だけ、迷う。


---


でもすぐに、引っ込める。


---


「……そっか」


---


小さく言う。


---


「ありがとう」


---


そのやり取りのあと。


---


蒼はエンジンをかける。


---


でも。


---


さっきの感じが、少しだけ残る。


---


——なんだ今の


---


違和感。


---


慣れてる。


---


ああいう動き。


---


タイミングも、出し方も。


---


迷いがない。


---


さっきの会計のときも。


---


同じ顔してた。


---


当たり前みたいに。


---


何かを返そうとする感じ。


---


まるで。


---


払わないといけないみたいな。


---


蒼は横目で澪を見る。


---


もう、いつもの顔に戻ってる。


---


でも。


---


さっきの一瞬だけは、違った。


---


「ほら、行こ」


---


澪が前を指す。


---


「こっちだから」


---


蒼は軽く頷く。


---


車を出す。



---


---


---でも、その沈黙はどこかいつもと違った。



ここから、二人の“ズレ”が少しずつ見えてきます。


同じ時間を過ごしているのに、

見ているものが少し違う。


でも、その違いがあるからこそ、

ちゃんと近づいていく。


次は、澪が言っていた「とっておきの場所」へ。

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