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波待ち。  作者: 阿部兄弟
5章 居場所と未来

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52/84

52話 「面影」

昔は、

ただ同じ教室にいただけだった。


それなのに今は、

その人の話を家族と笑いながら出来る。


人生って、

本当に分からない。




ショッピングモールを出る頃には、

外の空気が少しだけ柔らかくなっていた。


昼間ほど暑くない。


でも、

まだ夏の匂いは残っている。




「お腹空いた〜!」




楓が大きく伸びをする。




「さっきクレープ食べてなかった?」




「甘いのは別腹!」




「ほんとよく言うやつだなぁ」


澪が笑う。




「焼肉食べたい」




「急だね」




「もう口が焼肉なの!」




「兄妹だねぇw」




結局、

モール近くの焼肉屋へ入る。


夕飯には少し早い時間。


店内はまだ空いていた。




「うわ冷麺ある!」




「絶対言うと思った」




席へ座る。


冷たいおしぼりが気持ちいい。




「楓ちゃんほんとよく食べるよね」




「体育会系なめないでください」




「それ免罪符みたいに使うじゃん」




「実際免罪符だもん」




楓が笑いながらメニューを開く。




「澪ちゃん何食べる?」




「ハラミかなぁ」




「あ、兄貴も好き」




「やっぱカップルだ」




「兄貴ほんとガッツリ系しか食わないよ」




「分かる」




「この前も海帰りにラーメンチャーハン食ってた」




「二十八歳の食生活じゃない」




2人で笑う。




注文を済ませる。


店内には静かに音楽が流れていた。




「てかさ」




楓がニヤニヤしながら身を乗り出す。




「ん?」




「兄貴と澪ちゃんって、高校時代どんな感じだったの?」




「あー……」


澪が少し笑う。




「全然仲良くなかったよ?」




「え、そうなの?」




「うん。クラス一緒だったくらい」




楓がちょっと驚いた顔をする。




「意外」




「兄貴モテてた?」




「モテてたっていうか……」


澪が思い出すように笑う。




「一匹狼って感じだった」




「あーーー」


楓がめちゃくちゃ納得した顔をする。




「想像つく」




「休み時間もずっと窓際で寝てたり」


「たまにどっか居なくなったり」




「絶対先生に怒られてるタイプ」




「怒られてた」




澪が笑う。




「でも不良って噂あったw」




「うわーありそう〜全然そんな事ないのに」




「あと女子にちょっと怖がられてた」




「今も若干怖いよ?」




「それは否定出来ない」




2人で吹き出す。




「じゃあ澪ちゃんは?」




「私?」




「絶対陽キャでしょ」




「まぁ……」




澪が苦笑いする。




「ギャルみたいな感じだったよ」




「やっぱり!絶対そうだと思った!」




「スカート短かった?」




「短かったねぇ。はず。」




「うわ見たかった」




「やめなさい」




楓がゲラゲラ笑う。




「じゃあ兄貴と澪ちゃん、高校時代絶対接点ないじゃん」




「うん。ほんと無かった」




「じゃあなんで再会して付き合ったの?」




肉が運ばれてくる。


楓がすぐ網へ並べ始めた。




「海だよ」




「やっぱサーフィンかー」




「最初ね、私が話しかけたの」




「あの兄貴に?」




「うん」




「すご」




澪が笑う。




「サーフィンやってますか?って」




「兄貴なんて言ったの?」




「やってますけど」




「うわ愛想悪っ!」




楓が爆笑する。




「でもなんかね」


澪が少し視線を落とす。




「すごい疲れてる人だなって思った」




楓が少し静かになる。




「……あー」




「海にいるのに、全然楽しそうじゃなかった」




でも。


優しかった。




転んでも待ってくれて。


出来るまで教えてくれて。


口悪いのに、

ちゃんと隣にいてくれる人だった。




「兄貴そういうとこあるんだよね」




楓が肉をひっくり返す。




「面倒見だけはいいの」




「分かる」




「口悪いけど」




「それも分かる」




また2人で笑った。




「でもほんと変わったよ兄貴」




楓がぽつっと言う。




「前よりちゃんと笑うし」


「ちゃんと人の話聞くし」




「前聞いてなかったの?」




「全然」




「ひど」




「でも澪ちゃんの話はちゃんと聞く」




その言葉に、

澪は少し照れたみたいに笑った。




「……なら良かった」




楓も少し笑う。




「なんかさ」




「ん?」




「兄貴がまたちゃんと誰かを好きになれて良かった」




その言葉に、

澪は少しだけ目を細めた。




店を出る頃には、

外は少し暗くなっていた。




夏の終わりの風が吹く。




「今日めっちゃ楽しかった!」




「私も」




「また遊ぼうね!」




「うん」




楓が手を振りながら歩いていく。


その後ろ姿を見ながら、

澪は少し思った。




この兄妹の隣、


ちゃんと居心地いいなって。



人は少しずつ変わっていく。


でも、

変わった事に気付けるのは、

きっと近くにいる誰かなんだと思う。

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