52話 「面影」
昔は、
ただ同じ教室にいただけだった。
それなのに今は、
その人の話を家族と笑いながら出来る。
人生って、
本当に分からない。
ショッピングモールを出る頃には、
外の空気が少しだけ柔らかくなっていた。
昼間ほど暑くない。
でも、
まだ夏の匂いは残っている。
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「お腹空いた〜!」
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楓が大きく伸びをする。
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「さっきクレープ食べてなかった?」
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「甘いのは別腹!」
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「ほんとよく言うやつだなぁ」
澪が笑う。
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「焼肉食べたい」
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「急だね」
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「もう口が焼肉なの!」
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「兄妹だねぇw」
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結局、
モール近くの焼肉屋へ入る。
夕飯には少し早い時間。
店内はまだ空いていた。
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「うわ冷麺ある!」
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「絶対言うと思った」
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席へ座る。
冷たいおしぼりが気持ちいい。
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「楓ちゃんほんとよく食べるよね」
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「体育会系なめないでください」
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「それ免罪符みたいに使うじゃん」
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「実際免罪符だもん」
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楓が笑いながらメニューを開く。
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「澪ちゃん何食べる?」
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「ハラミかなぁ」
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「あ、兄貴も好き」
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「やっぱカップルだ」
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「兄貴ほんとガッツリ系しか食わないよ」
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「分かる」
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「この前も海帰りにラーメンチャーハン食ってた」
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「二十八歳の食生活じゃない」
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2人で笑う。
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注文を済ませる。
店内には静かに音楽が流れていた。
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「てかさ」
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楓がニヤニヤしながら身を乗り出す。
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「ん?」
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「兄貴と澪ちゃんって、高校時代どんな感じだったの?」
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「あー……」
澪が少し笑う。
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「全然仲良くなかったよ?」
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「え、そうなの?」
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「うん。クラス一緒だったくらい」
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楓がちょっと驚いた顔をする。
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「意外」
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「兄貴モテてた?」
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「モテてたっていうか……」
澪が思い出すように笑う。
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「一匹狼って感じだった」
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「あーーー」
楓がめちゃくちゃ納得した顔をする。
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「想像つく」
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「休み時間もずっと窓際で寝てたり」
「たまにどっか居なくなったり」
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「絶対先生に怒られてるタイプ」
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「怒られてた」
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澪が笑う。
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「でも不良って噂あったw」
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「うわーありそう〜全然そんな事ないのに」
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「あと女子にちょっと怖がられてた」
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「今も若干怖いよ?」
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「それは否定出来ない」
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2人で吹き出す。
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「じゃあ澪ちゃんは?」
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「私?」
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「絶対陽キャでしょ」
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「まぁ……」
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澪が苦笑いする。
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「ギャルみたいな感じだったよ」
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「やっぱり!絶対そうだと思った!」
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「スカート短かった?」
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「短かったねぇ。はず。」
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「うわ見たかった」
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「やめなさい」
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楓がゲラゲラ笑う。
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「じゃあ兄貴と澪ちゃん、高校時代絶対接点ないじゃん」
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「うん。ほんと無かった」
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「じゃあなんで再会して付き合ったの?」
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肉が運ばれてくる。
楓がすぐ網へ並べ始めた。
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「海だよ」
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「やっぱサーフィンかー」
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「最初ね、私が話しかけたの」
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「あの兄貴に?」
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「うん」
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「すご」
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澪が笑う。
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「サーフィンやってますか?って」
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「兄貴なんて言ったの?」
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「やってますけど」
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「うわ愛想悪っ!」
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楓が爆笑する。
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「でもなんかね」
澪が少し視線を落とす。
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「すごい疲れてる人だなって思った」
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楓が少し静かになる。
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「……あー」
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「海にいるのに、全然楽しそうじゃなかった」
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でも。
優しかった。
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転んでも待ってくれて。
出来るまで教えてくれて。
口悪いのに、
ちゃんと隣にいてくれる人だった。
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「兄貴そういうとこあるんだよね」
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楓が肉をひっくり返す。
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「面倒見だけはいいの」
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「分かる」
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「口悪いけど」
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「それも分かる」
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また2人で笑った。
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「でもほんと変わったよ兄貴」
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楓がぽつっと言う。
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「前よりちゃんと笑うし」
「ちゃんと人の話聞くし」
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「前聞いてなかったの?」
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「全然」
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「ひど」
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「でも澪ちゃんの話はちゃんと聞く」
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その言葉に、
澪は少し照れたみたいに笑った。
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「……なら良かった」
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楓も少し笑う。
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「なんかさ」
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「ん?」
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「兄貴がまたちゃんと誰かを好きになれて良かった」
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その言葉に、
澪は少しだけ目を細めた。
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店を出る頃には、
外は少し暗くなっていた。
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夏の終わりの風が吹く。
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「今日めっちゃ楽しかった!」
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「私も」
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「また遊ぼうね!」
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「うん」
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楓が手を振りながら歩いていく。
その後ろ姿を見ながら、
澪は少し思った。
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この兄妹の隣、
ちゃんと居心地いいなって。
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人は少しずつ変わっていく。
でも、
変わった事に気付けるのは、
きっと近くにいる誰かなんだと思う。




